生徒会風紀、初仕事
放課後。普段であればまっすぐ家に帰るのだが、今日からの俺は違う。
一年だというのに会長からの推薦による大抜擢。新たな役職である生徒会風紀の爆誕である。
少し……いや、半ば…………いや、完全に強制的に据え付けられた俺であったが、幼馴染の要望とあらば答えない理由はないだろう。
人にやさしく。そんな標語を掲げて今日も俺は一歩一歩と邁進していくのみなのだ。
「っしゃあっ! 行くぞオラァ!!」
生徒会室を前に気合を入れるために声をあげる。
「シュッ! シュッ!」
そしてシャドーボクシング。
ガァン、ガァンと扉を殴りつけてステップを踏む。
周囲にいる生徒はヤベェヤツを見る目をしていた。
「随分乱暴なノックだね」
ガラリとドアが開く。
そこに立っていたのは生徒会長でもある美影先輩。俺を見るなりにこやかに笑いかけてきた。
ちなみに美影先輩の後ろにいる他の役職がたの先輩たちは俺を白い目で見ていた、なんでだろうね。
「やあ、いらっしゃい。来てくれたんだね」
「そりゃまあ、来いって言われましたし」
俺を部屋に招き入れてくれる。誘われるまま部屋に入り、室内を見渡す。昨日と何も変わっていないが……変わってるのは一箇所だけだった。
会長以外の役職のデスク。その並びに一つだけ机が追加されていたのだ。
画用紙で作った三角に折られた役職名の名札。そこには生徒会風紀、と書かれている。
なるほど、これが俺のデスクというわけか。なかなか良いではないか。
んなわけあるかい。
「あの、美影先輩」
「なんだい」
「なんで俺の机だけ段ボールなんスか」
無地の段ボール箱だったのだろう。ご丁寧に誰かがミカンを描いてくださってた。
椅子もない。あるのは座布団である。もちろん段ボール製だ。
「職権乱用で役職を無理やり一つ作ったんだけどね、さすがに机を新調する許可はおりなかったんだ。だからお手製の机で我慢して欲しい。ほら見て、私の描いたミカン、上手だろう?」
これ描いたのあんたか。
とりあえず座ってみる。
落ち着かない。全員と頭の高さが違うため、全員に見下されている気がする。
「どうかな?」
「すげぇ居た堪れない気持ちになるんですが」
「もしくは私の膝を椅子にするくらいしか無いんだけど……」
「俺段ボール大好きになってきたかもしれません」
公衆の面前で膝の上に座らせようとするのはやめてほしい。
いや、いなかったらオッケーという意味でもないんだが。
「とりあえず……俺に仕事をください」
「そうだね、皆が働いている以上、キミだけ働かない穀潰しというのは夢見が悪い」
「言い方」
椅子に座り、くるくると回って思案顔。
ピタリと止まり、俺に向けて指を突きつけた。
「お茶を淹れてくれないかい、そして肩を揉んでくれ」
「ン雑用っ!!」
「不服かい?」
「庶務ですらやらなさそうな雑用!! あ、別に庶務先輩をバカにしてるわけじゃないッスよ? あしからず」
しかしながら、ここで拒否しても俺はただ部屋にいて叫んでるだけのバカになってしまう。
しょうがないお茶を淹れて…………って、何処にあるんだ?
「美影先輩、お茶の道具は何処に……」
「無いよ。自販機で買ってきてくれ」
「なんで淹れてっつったんだよあぁん!?」
俺が叫ぶと何故か美影先輩がビクンビクンとしていた。
なにいきなり、怖いんだけど。陸に打ち上げられた魚のマネ?
「ふ、ふふふ……良い、とっても良い」
「……とりあえず買ってきます」
「行ってらっしゃい」
「…………って、先輩がたもいりますか?」
水筒持参の先輩以外のお茶を買いにパシられる俺であった。
韋駄天も裸足で逃げ出す音速を出しながらお茶を買いに戻る俺。
全員の机にペットボトルを置いていき、最後に置くのは美影先輩のデスク。
「さぁ、肩も」
「それ冗談なんですよね?」
「本気も本気。わたし、うそ、いわない」
「…………」
肩に手を添える。
もみ、もみ。
「どうかな、凝ってるかな?」
「ぷにっぷにですね。凝ってないでしょ」
「ああ、凝ってない。やってみてもらったはいいけど、大して気持ちよくもないね」
「このやろう」
なんでやらせたんだ。
まあいいや、いちいち気にしていたらキリがない。
「とりあえず巡回でもしてもらおうかな。重大な規則違反があったら取り締まっていい、軽度なモノなら無視していいからね」
「やっと風紀っぽい仕事をもらえた」
美影先輩の肩から手を放し、廊下へと続く扉へと向かう。
キュッキュッと俺の上履きが音を立て、その音はどんどんとリズミカルに。
「っしゃあっ! 行くぞオラァ!!」
シュッシュッ、と拳を繰り出す。
ガァン、ガァンと音を立てて扉が悲鳴を上げていた。
扉を開くと、たまたま通りかかった生徒が驚いた表情をしているではないか。
「悪い子取り締まんぞぉ!!」
「ヒィ!」
逃げ出した。まったく失礼なやつだ。まったくまったく。
さて、巡回という名の散歩に洒落込もうじゃないか。
………………
…………
……
「なーんもありません」
学校は平和そのものです。
それはとても良いことなのだが。
ただ歩いているだけなのも暇っていうか。
「あ、麗人」
「一ノ瀬」
前を歩いてくる女生徒。誰かと思えば一ノ瀬である。
周囲には誰もいないようだ。今日は一人なのだろうか。
「もう終わり?」
「いや、巡回中。といってもここ最近に特大のワルを取り除いたばっかりだから、ただ散歩してるだけに近い」
「そうなんだ。いつ終わり?」
「17時頃かなぁ」
そこまで話して、何処かもじもじとし始めていた。
トイレか?
「じゃあ、私……その時間まで教室で……」
その時だった、後ろから強烈な重みがのしかかる。
「ぐえっ、なんだぁ!?」
「やっほ」
首だけ振り向くと、俺にのしかかっているのは美影先輩だった。
俺におぶさるように首に手を回し、全体重を掛けてくる。
「美影先輩仕事は!!」
「終わったよ、暇だから私も一緒に巡回しようかと思ってね」
「クッソ、これだから有能な先輩は。無駄に仕事が早いんだ」
「褒めてる? 褒めてるよね? 褒めてるんだね?」
「……たぶん」
というか早く降りてくれないだろうか。
如何にブサイクからリモデルされたとはいえど、体力の無さは折り紙付きなのだ。
もうすぐ俺は倒れてしまう、ほら倒れる、今倒れる。
あ、そうだ。
「それで一ノ瀬? なんだっけ」
「…………別に」
パタパタと俺の横を足早に通り過ぎていく。
「……バカ」
早すぎてよく見えなかったが、何処となく不機嫌そうな感じがした。
「さあ、巡回しようじゃないか」
「……そうですね」
背中に美影先輩をぶら下げたまま巡回を続けることになった。
もちろん成果は無かった。
…………そして、終了の時間。
結局何も仕事をしていない俺は、誰よりも早く帰る無能社員のように立ち去っていく。
カバンは持ってきているため、まっすぐ帰れるのだが……。
敢えて寄り道をして、ガラリと扉を開く。
茜色に染まる教室、そこには一人だけ生徒がいて。
「やあ、僕だよ」
「麗人……?」
「そうだよ、僕だよ」
「どうして?」
変なキャラクターを作ってみたはいいが無反応だった。
なのでやめることにした。
「どうしても何も、一ノ瀬が言ったんだろ?」
「……まあ、そうだけど。生徒会長はいいの?」
「よくない。だから早く帰ろう、じゃないと見つかってしまう」
「なにそれ」
「俺、あの人なんか苦手なんだよ……強引というか、人の話を聞かない感じが……まるで……」
「自分みたい?」
「だまらっしゃい!」
そこまで話してようやく見れた一ノ瀬の笑顔。
今日一日無能の烙印を押された俺だったが、彼女の笑顔ですべてが癒やされる思いだった。
「っしゃあっ! 帰んぞオラァ!!」
上履きが立てるリズミカルな音を聞きながら、拳を繰り出す。
「シュッ! シュッ!」
ガァン、ガァンと扉が悲鳴をあげる。
俺が扉を開く前に扉が開き、現れたのは……。
「何しとるんだお前は池杉ぃ!」
「ごめんなさいこばやん!!」
「……ホント、バカなんだから」
叱る教師、叱られる生徒、そんな二人を眺める生徒。そんな夕暮れだった。
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