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ところが一転、恋愛ゲームなら隠しキャラのような存在


「さて、それじゃあ説明してもらいましょうか。レイくん?」



 俺の部屋である。


 もう一度言おう、俺の部屋である。


 ベッドの下で正座をさせられている俺が、部屋の持ち主だとは誰が思おうか? いや誰も思うまい。


 かくいう客人である一ノ瀬は、ベッドに腰掛け足を組み、腕も組んで俺を睨みつける。


 割と扇状的なアングルだが、今のこの状況で凝視しようものなら目潰しされることは必定。


 出来るだけ見ないようにしなければ。


 チラ。



「ちょっと、なんで黙ってんの?」


「ああ、いや……」



 チラ。



「深愛。こやつお主のスカートの中を覗こうとしておるぞ」


「やっ!?」



 バラされた。


 しかしあいや待たれい、事実とは異なることで俺自身に風評被害を受けることは我慢まかりならぬ。



「違う! 太ももを見てただけだ!!」


「変わんないでしょうが!」



 スケベな視線で見てたのは一緒です、はい。


 ドーモスミマセンデシタ。


 膝にブランケットを掛けて、美しい脚を隠してしまう。いったいなんてことを。



「さ、早く説明しなさい」


「『我が学び舎の生徒会長は幼馴染!? ~10年越しの再会~』」


「ふざけてんの?」


「マジなんだって!」



 枕を投げてこようとしたので、腕で顔を庇う。


 飛んでくると思った枕は飛んでこなかった。



「ほら、一ノ瀬さ、自己紹介の時に言ってたじゃん、俺と腐れ縁っていうか、幼馴染っていうか? あれのガチバージョン?」


「ということはじゃよ、深愛がさりげなく収まろうとしておったポジションには、既に先客がおったってことじゃな」


「リンネちゃん、大福没収~」


「そんなぁ!?」


「収まろうとなんか思ってないんだからね!!」



 そんなツンデレみたいな言い方しなくても。昨今ではもはや絶滅危惧種と言っても過言ではありませんよ?


 泣きわめくリンネに大福を返しながら、咳払いをして俺に向き直る。


 っていうか優しいな。俺ならもう食ってる。



「んで、その幼馴染とはどうなったの?」


「半強制的に生徒会に入れられることになりました」


「はあ!?」



 怒られても困る。俺だって不本意なのだから。



「それって職権乱用じゃないの!? ちゃんと断った!?」


「断ったよ、断ったら……」



 ヤンデレみたいな一面を見させられました。……とは言えない。


 いや、言ってもいいのかもしれないけど。なんとなく本人の名誉のために伏せておこう。



「それに、ほら、あれだ。俺にしか出来ないらしいし」


「そんなの無いに決まってるじゃない。麗人に出来ることは誰でも出来るし」


「案外酷くない?」



 確かに俺の自己評価は決して高くない。が、人に言われるのと自分で言うのとでは天と地の差がある。


 しかしながら一ノ瀬の毒舌にも慣れてきている俺がいる。慣れてどうする。


 俯いて何か考えている様子の一ノ瀬。


 と思ったら、ベッドから降り立ち急に立ち上がった。



「よし、死のっか?」


「笑顔でなんてこというんだ貴様」


「ほら、数値上げときたいじゃない?」


「もうちょっとでチェックポイントなのに?」


「なのに」



 なんという太陽のような笑顔。眩しすぎて直視できない。


 でもちょっと待って欲しい。今巻き戻ったらもう一度不良グループとのやりとりやらなきゃいけないんだろ?


 ………………ダルぅ。



「ちょっと、なんでそんなのに乗り気じゃないの?」


「もっかい教師とかのご機嫌取りするの面倒なんだよ。出来ることならもう二度とやりたくない」


「ほら、次で最後だから、ね?」


「ね? って言われても」



 今まで繰り返してきた中で、最も面倒だった出来事といっても過言ではない。


 それをもう一度? 後もう少しでセーブポイント見えてるのに? デスポーンするの? 意味なくない?



「一応聞いとくかのう。どうして深愛はそこまで戻ってほしいんじゃ?」


「えっ、そっ…………だって、ほら、あれよ」


「どれだよ」


「え~~~~と……………………ほら! 今回先輩と出会ってないし!!」



 そんな思いついた! みたいな顔で言われても説得力はない。


 というか、それを言った途端リンネの顔に険しさが増してちょっと怖いんだけど。



「それは本気で言っておるのか?」


「……………………もち、ろん……?」


「なるほど」



 何がなるほどなのか。関係者なのに置いてけぼりの俺である。


 リンネは目を瞑り、何かを考えていたかと思うと。


 頷いて目を開いた。



「麗人、セーブポイントまでに死ぬことがあったら全部0%に戻すぞ」


「なんで俺に被害が来んだよ!?」


「それくらいならいいよね? もう一回遊べるドン、っていうじゃない?」


「言わねえよ! やだよ!!」



 せっかくここまで来たのに!!


 絶対何が何でも死なねえぞ!?


 とはいえ、一ノ瀬は口を出すだけで手は出してこない。……こういう言い方をすると卑怯なヤツ、みたいな印象を受けてしまうかもしれないが。


 だが記憶を引き継ぐようになった以上、一ノ瀬の手は汚してほしくないので。そういった性格には若干救われている節もある。



「麗人、死んで?」


「麗人、死んだらリセットな」


「二人が揉めてんのに、なんで俺ばっか割食ってんだ!?」



 そのやり取りは夜更けになり、一ノ瀬が帰宅するまで続いたという。




――――――――――




 場所は変わり、ここはとある一軒家。


 二階部分の私室で、勉強机に座って机の上にある絵を眺める少女がいた。


 絵の中心にいる人らしき輪郭の何かを指でなぞり。



「ふふふ……」



 妖しく笑う。


 家族と同部屋であったらドン引きされること間違いナシの光景だが、ここは彼女の一人部屋。


 何も問題は無かった。



「楽しかったなあ……」



 その絵は生徒会室のデスクに飾ってある絵と同じ絵である。


 幾つもコピーを重ねているようだが、複製による劣化は見当たらない。


 それもそのはず、劣化した部分は描き足して修復を重ねている。


 それそのものの技術は匠の域に達しているようだ。



「こんなところで出会うなんてね」



 生徒会に無理やり入れた一人の少年を思い返し、笑みを隠せない少女。


 懐かしい記憶が特大のサルベージ船により山盛りに掘り起こされ、彼女の脳は多幸感のドーパミンにより圧倒的ハイになっている。


 だからだろう。



「今度は逃さないからね……」



 まるで暗躍する悪者のように微笑んでいるのは。



「明日から、楽しい思い出をいっぱい作ろうね」



 生徒からも教師からも信頼を寄せられている生徒会長。藤堂 美影。


 ありとあらゆる期待に応え続け、無理難題を達成してきた彼女にとって、人ひとりを職権乱用で手近なところに置くことは造作もないことであった。


 そしてあの歯に衣着せぬ物の言い方。思い返して彼女は悦に浸る。



「絶対――――ニガサナイカラネ」



 全幅の信頼を寄せられ続けた彼女は、友達を作ることが出来ず、孤独だった。


 そして孤独に包まれ過ぎた少女は、偏執的な蒐集家と成り果てているようであった。




――――――――――




「はあう!? 寒気が!?」


「すぴ~……むにゃ、大福……」


「俺の布団まで盗むんじゃねえ。まったくもう」

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