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恋愛ゲームならメインヒロインのような再会


「よいしょっと」



 倒れた写真立てを元の位置に置き直す美影先輩。


 どうして写真立ての中に絵が?


 子どもが描いたのかと思ったが、高校生である先輩だ。そんなわけがなかった。


 それに……。



「どうかしたかい?」


「その絵、なんです?」


「ああ…………変だと思うだろう? 皆にもおかしいってよく言われるんだよ」



 自嘲気味に笑いながら、大事そうに写真立てを指でなぞる。


 いや、変だとかそういう話ではなくだね。



「なんか、見覚えがあるんですよね……なんだろ」


「まあ、子どもが描いた絵はどれも似たりよったりになりがちだしね」



 気まずそうに写真立てを伏せようとする美影先輩だったが、その手を止めて写真立てを奪う。


 中に入った絵を改めて見てみる。


 手を広げた二人の人、表情は笑っているが性別はわからない。


 周りに散りばめられた小さな丸。


 そして足元に積もっているであろう雪。



「もういいだろ、返してくれないか?」


「借りてって良いですか?」


「良いわけ無いだろう!?」



 俺の手から奪おうとするが、するりとかわす。


 デスクから距離を取ると、美影先輩は立ち上がって奪い返しに来た。



「返しなさい!」


「もうちょっとだけ!」



 ドタバタ、ドタバタ。


 生徒会室の中をグルグルと逃げ回る俺と追いかける先輩。


 中にいる他の役員の人たちは呆れ混じりの視線を俺たちに送っている。



「あっ」



 コーナーを曲がる際に、ズルッと足を滑らせた。


 角に置いてあったホウキなどがしまわれたロッカーにしたたかに頭を打ち付ける。


 超痛い。



「だ、大丈夫かい?」


「う、うおぉ……!」



 心配しながら俺の手から写真立てを抜き取っていく。


 ちゃっかりしてやがる…………じゃなくて!!



「……ミカちゃん?」


「………………なんだって?」



 デスクに置きに行こうとしていた美影先輩の背中が止まる。


 写真立てを胸に抱いたまま、ゆっくりと振り返った。


 切れ長だった目は驚きに見開かれており、表情はそのままうずくまる俺の頭までしゃがみ込む。



「どうして、その呼び方を?」


「なんか……幼稚園の頃、そんな呼び方をした子がいた気がして……」


「………………もしかして、レイくんかい?」



 呼び慣れない名前で呼ばれた瞬間だった。


 眠っていた記憶が頭の奥底から一気にまとめて引き出される感覚。


 ああ、そうだ。あれは幼稚園の頃だ。


 ブサイクな俺だったが、小さな子どものことだ、容姿の美醜よりも楽しさを優先しがちな年頃。


『ぶちゃいく!』と言われてケタケタ笑われることはそれなりにあったが、その当時は決してイジメではなかった。


 その中でも登園した頃によく遊んでいた女の子がいた。俺よりも年長だったその子は、俺よりも早く卒園してしまい、その後を知る由は無かったが。


 その年長だった女の子の名前が……ミカちゃん。


 そして、俺はレイくんと呼ばれていた…………呼ばれてたっけ?



「その絵って、俺が描いたやつじゃ……」


「そう…………そうだよっ!! いやぁ……キミがレイくんだったのか! そういえば面影があるような、ないような!」



 あるかな? 俺の記憶は幼稚園も『ぶちゃいく』のままなので、面影と言われてもピンとこない。


 しかし美影先輩の記憶の中では既に今の容姿基準なのだろう。



「いやー、懐かしいねぇ! 覚えてたのかい、この絵のこと!」


「というか、頭を打って思い出したというか」



 滅多に降らない雪が降ったことで大はしゃぎした子どもたちがいた記憶はある。


 その爆上がりしたテンションのまま絵を描き殴ったのが……おそらく、美影先輩の手元にあるソレだ。



「あれは雪が積もってた日だったな!」


「積もってましたっけ? 粒の大きな雪だったとは思いますけど」


「……そうだったっけ、でもこの積もった雪は……?」


「確か砂場の砂を山のようにして盛り上げて、出来るだけ高くから雪を拾おうとしてたんじゃありませんでしたっけ?」


「…………ああ、そうだそうだ、そうだった。でもほら、絵の中でキミと私が笑ってるじゃないか」


「いえ、隣にいるのは恐らく美影先輩と同じ組の女の子ですよ。二人がはしゃいでるのを見て、俺が描いたのをあげたんです」


「………………そうだそうだ、そうだったね」



 記憶ふわっふわじゃん。



「懐かしいねぇレイくん!!」



 がばっちょ、と抱きついてくる。


 俺と先輩のやり取りを黙って見ていた他の人たちは一同騒然だ。



「美影先輩、TPOを弁えてください!」


「10年ぶりくらいの再会だよ? 少しくらい良いじゃないか」


「い、いやぁっ!! 女の子にされちゃうっ!!」



 ジタバタ暴れるが、妙に力強い拘束を解くことが出来ない。


 とはいえ体裁的には抵抗を続けていないといけない。でないと周りから受け入れられたように思われてしまう。


 それは困る、とても困る。


 ジタバタ、ジタバタ。



「というわけで、キミと私のよしみだ。生徒会付の風紀委員を是非やってくれるね? いや、こうなったら絶対やってもらうよレイくん!!」


「何がというわけだ、やるわけないだろ」


「…………」



 ベアハッグ。



「ぎゃああああ! 痛い痛い痛い痛い!!」


「やってくれるね!?」


「これ脅迫っていうんじゃないですかねえ!?」


「やってくれたら解放してあげるよ!」


「脅迫じゃねえか!!」



 俺の背骨がミシミシと嫌な音を立てる。


 あちこちに手を伸ばしてみるが、ここは生徒会室、ロープなんて存在しないのだ。


 肩を叩いてタップの意を示すが、ルールを存じていないのか解放される気配が無かった。



「やる! やるから!」


「――そう言ってくれると思っていたよ」



 ようこそ、ここはブラック企業の入口。


 ノーと言ってはいけない上司命令至上主義、独裁政権の地獄の釜である。



「この人、いつもこんな感じなの……?」



 痛む背中を擦りながら机に座ったままの他の役員に問いかけるが、無言で首を振られた。


 貴方だけ特別じゃないんですかね、とお褒め? の言葉をいただいたが。


 ぶっちゃけ嬉しくない。



「キミは使えそうだから手元に置いておこうと思って、無理やり……こほん、急遽風紀枠を設けたんだけどね。相手がレイくんなら、ナニガナンデモニガサナイヨ」


「ヒエッ」



 モンスターが誕生したのかもしれない。



「…………えぇと、じゃあ、不肖わたくし、池杉 麗人は幽霊生徒会員として風紀枠を仰せつかります」



 幽霊、の部分だけ小声で言って聞こえないようにしたのだが。


 美影先輩が睨んでいた。どうやら地獄耳のスキルも持っているらしい。


 両手を広げてにじり寄ってくる。またベアハッグか!?



「と……といってもですね! 何をすりゃいいってんですか!?」


「学園全体の風紀を脅かすほどの生徒なんてそうそういないからね……当分は雑務かな?」


「それ庶務の人で良くない? いないの!?」



 部屋の中を見回すと、一人の男子生徒と目があった。


 おずおずと手を挙げたところを見ると、あの人が庶務のようだ。



「いるじゃん!」


「一人より二人。コヘレトの言葉にもそう記されているだろう?」


「それズルくない?」


「ズルくて結構。久々の再会だ、旧交を温めようじゃないか」



 断れば暴力の親交は果たして温められるのだろうか?


 口答えをしたいところだが、またもベアハッグを繰り出されるのは困る。


 柔らかいやら痛いやら痛いやら痛いやら。感想のほとんどが痛いだったな。



「じゃあ明日から頼むよ」


「…………へい」



 強制的に入れられることが確定した俺は、肩をがっくりと落としながら退室しようとする。


 まさか、幼稚園ではしゃいでいたあの幼女が、こんなフィジカル強めの生徒会長に進化してるとは。世の中わからないものだね。


 ガラリ、と部屋のドアを開く。



「わっ?」


「一ノ瀬?」



 開けると何故か一ノ瀬がいた。


 驚いた様子で俺を見ているということは、予想外だったようだが……。



「どうだった?」


「あー、うん……とりあえず離れよう」


「え? うん」



 こんなところにいたら一ノ瀬まで巻き込まれるかもしれない。それは可哀想というものだ。


 足早に去ろうとしたが、背後からガラガラと扉が開かれた音と共に。



「あ、そうだレイくん! 是非明日からミカちゃんと呼んでほしいな! 頼んだよ!!」



 ピシャリ、と閉まる。



「…………」


「…………はあ」



 溜め息が出る。押しが強すぎる。


 ふと隣に視線を送ると、目を見開いて俺を見ている女生徒の姿。


 言わずもがな、一ノ瀬である。あるが……。



「レイくん?」


「……色々あったんだよ」


「ミカちゃん?」


「…………色々あったんだって」


「レイくん?」



 説明するまで永遠に続くほどの疑問符だった。

読んでいただきありがとうございます。


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