ファミレスリベンジ、ファイッ!
時は放課後、場は学外。
朝方、昼間、夕方や深夜問わず、様々な層の客が訪れる場所。
ファミリーと名を冠しているがファミリー以外も大歓迎なレストラン。その名もファミレス。
俺としては前回最悪な終わりを見せたトラウマとなるべき場所なのだが。
そこに俺はいた。なんの因果かメンツは前回と一緒だった。
女子が三人、男子が三人。女子グループの中にいる一ノ瀬は俺を胡散臭そうに見ている。前回のことを考えればしょうがない反応だが。
しかし俺は学べる人間。二度も同じ失敗はしないのだ。
つまり…………炭酸を飲まなければいい。
口に含んだものが水であれば、吹いたところで俺が拭きに行く必要はないだろう。
吹き出さなければいいって? それはそう。
まあ、そんなこんなで入店して、席へと案内される。
ドリンクバーとめいめいにサイドメニューを頼み、ワイワイと騒がしく好きな飲み物を注ぎに向かう。
その間ですら一ノ瀬は俺を監視するように見つめていた。
「…………ふ」
俺はグラスを手に取り、氷を入れた後セット。ボタンを押して飲み物を注ぐ。
透き通るような麦色が音を立ててグラスの中で増えていく。そう、それは。
お茶である。これならば心配ご無用というわけだ。
席に戻る。前回と同じく俺と一ノ瀬は通路側。戻った順番でそうなったからしょうがないね。
他のクラスメイトは既に会話に興じていた。会話の内容は今日の授業の内容だったり昨日見たテレビの内容だったりと、まあ他愛のない内容ばかり。
そんな中俺は会話に一石を投じたい。会話内容は人の死とループについて。
どうだ、これだけ議論のしがいのある生産性のある内容も無いだろう?
と思ったがやめておいた。夕方前のファミレスでする内容では無いからだ。相応しい時間は無さそうなのでこの議題は永遠に俺の胸にしまっておこう。
となれば、次の引き出しは、これだ。
「一ノ瀬の中学時代ってどんな感じだった?」
「麗人!?」
単なる興味である。何度も何度もループに付き合ってもらっているが、知っているのは高校生からの一ノ瀬のみ。
確かこの中には同じ中学の子がいたはずだ。ならば彼女のことも知ってるだろう。
「うーん、今とあんまり変わりないかなあ」
女子生徒の友人Aが顎に指を添えて考える仕草。
会話って知ってっか? そんなので終わらせたら会話の膨らみようがないだろう?
男子生徒の残り二人の中に、一ノ瀬狙いのヤツがいるかもしれないじゃないか。そいつに可哀想だとは思わないのか?
「池杉くん幼馴染なんでしょ? 知ってるんじゃないの?」
おっとそう来たか。実際は幼馴染でもなんでもない嘘設定なんだが。
しかし返答は用意されている。俺に余念は無かった。
「といっても親同士の付き合いってだけだし、学区も違うし同じ学校じゃ無かったから良く知らないんだよね」
「あー、そうなんだあ」
一ノ瀬が目を見開いて俺を見ている。顔付きから想像にするに『そんな設定いつ考えたの!?』ってところか。
ファミレスに向かいながら考えたに決まっておろう。できたてホヤホヤだ。
「小学校も中学校も、色んな人に囲まれてる人気者~って感じだったかも? いつ見ても誰かと話してたよね」
「でも一ノ瀬って口悪いじゃん?」
「ちょっと!」
俺の指摘に一ノ瀬が声を上げるが、友人はきょとんとしながら言った。
「そうでもないよ?」
「え、マジで?」
「うん。そりゃーしつこかったりとか、からかってきたりする子に怒った時は口悪くなってたけど……そんなの誰でもそうじゃない?」
確かに。
じゃあ俺に対する口の悪さは一体……?
一ノ瀬を見てみる。口元を抑え、赤くなりながら俺を睨んでいた。それは一体どういう感情なんだ。
「池杉くんにだけ口が悪いんなら……それは気のおけない間柄ってことじゃないのかな?」
「ちょっと!?」
まるで小学生のカップル誕生のように囃し立てられる。
しかし俺に対する口の悪さは、俺が初期モデルの頃から変わらないはず。
単に俺がブサイクだった時の延長線上なのではないだろうか…………そんなことを言ったところで理解されないから言えないのだけれども。
だから。
「なるほど~……」
と、そんな風に頷くしか手はなかったのである。
「納得するな! みんなも、私と麗人はそんなんじゃないから!」
わかってる。皆まで言う必要はない。
「でも人気者なのは本当だよ、色んなクラスメイトを気にしたりしてたから、学級委員より委員してたんじゃないかな? 最後の方は先生も一ノ瀬さんに頼んでたし」
「立候補すればよかったのに」
「べ、別にやりたかったわけじゃないし」
そう言いながらも気にするのか。ツンデレかな?
兎にも角にも、昔も今も人気者ということはわかった。
人に囲まれる人は囲まれるべくして囲まれる、ってことか。俺みたいな対人恐怖症の人間が一朝一夕頑張ったところで、一ノ瀬のレベルに辿り着くのは到底不可能と指しているようだ。
まあ、そこまで人気者になりたいわけじゃないけどさ。
そんな時だった。ずっと黙っていた男子生徒Aが口を開く。
「一ノ瀬って、池杉のこと好きなのか?」
「ぶふっ!!」
「ぐああああああっ!!」
目にっ! 目に入ったっ!
匂いからして……炭酸じゃねえか!!
「ご、ごめん麗人!」
ウェットティッシュを手に持って一ノ瀬が近寄ろうとする。
なんだ、この前回の焼き直しのような光景は。男女逆だけど。
つまり……?
「俺の胸を触るつもりなのか!?」
「さ……っ! 触るかバカっ! 自分で拭け!」
ウェットティッシュを投げつけられた。この扱い酷くない?
他のクラスメイトも俺を見て笑ってるし。……ああもう、シミにならないだろうな。
しかし、今まで俺に向けていた笑い声は嘲笑ばかりだった。それに比べると……今はとっても恵まれてるんだろうな。
………………
…………
……
「なんかベタベタする」
ファミレスを退店し、そのまま解散の運び。
家の方向が同じ俺と一ノ瀬は、他のクラスメイトと違う道を行くことに。
「ご、ごめんね」
「いや、いいけど。……しかし、人気者ねえ……?」
「なに、おかしいっての?」
そうは言わない。言わないが……。
俺への暴言を思い返せば、腑に落ちない部分は多い。
「目を合わせればキモいとかキショいとか気持ち悪いとか言われてきたからな」
「だから覚えてないんだってば」
まあそうだろう。記憶を引き継ぎ始めた後の話だしな。
今でこそ軟化した態度だが、思い返していくと暴言ばかり。
「覚えてる古い記憶ってなんだ?」
「……えっとね、なんか変な男が……俺を殺してくれって飛びついてきたりしたことかな」
「…………忘れると思ってたからな。事実それまでは俺とリンネ以外リセットされてたし」
「一応聞くけど、変なことしてないでしょうね?」
するわけない。俺は首を振って即座に否定する。
「ま、麗人がそんな変態じゃないってことはわかってるけどね」
「なら聞くなよ……」
俺のげんなりとした声に笑みを見せ、一ノ瀬は数歩先を歩く。
その後ろをついていき、特に言葉もなく歩き続ける。
一ノ瀬は唐突に振り返り。
「帰ろ、麗人」
「今まで歩いてたのはなんだったんだ?」
「無粋なことしか言わないんだから」
お互いに軽く笑って、並んで歩き始める。
そろそろ――――Xデーが近い。
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