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やがて条件と欲情は融合する


「どういうことだよ!」



 起き上がるなり、リンネに食って掛かる。


 卒業式も入学式の時の記憶もあるし、リンネもいるということはこの前の事は夢じゃない。それは良い。


 自殺した時のアナウンスが問題なんだ。


 鼻筋が1%ダウンしました、だと!? 死んだら矯正されていくんじゃなかったのか!?


 目の前でケタケタ笑い続けるリンネを睨み付ける。


 やがて笑うのをやめ、スンと真顔になり。



「自殺はダメって言い忘れた。ごめんなさい」



 ぺこり。いやぺこりじゃなくて。


 自殺はダメ? なんでだ、死亡は死亡扱いなんじゃ?



「自殺は家から出ずに無制限に繰り返すことが出来るからダメなんじゃ。外で人と交わり、人と交流して人に殺してもらう。このサイクルが大事なんじゃな」



 うんうん、と腕を組んで頷きながらリンネは言うが、俺からしてみれば『聞いてねーよ!!』って感じだ。


 人に殺して貰う必要がある? どうやって?



「それは自分で考えてもらってじゃな」



 無責任にも程がある。


 …………いや、落ち着け。考え方次第かも知れないんだ。



「質問が二つある」


「なんじゃ?」


「俺が死んで巻き戻った場合、俺を手に掛けた人物の記憶はどうなる?」



 俺はとてもじゃないが良い人間とは言えない。しかし、見ず知らずの人に罪悪感を抱かせるのは良いことじゃあない。


 だから、相手に記憶が残ったまま巻き戻ってるのだとしたら、俺を殺しても罪悪感を抱かない相手…………例えば、その辺の不良とか? にすれば良いんじゃなかろうか。



「記憶な。……残らん、覚えてるのは麗人、お主とワシだけじゃ」


「なるほど、わかった。あと一つだが……殺される相手は誰でも良いのか?」



 自殺はNG、とかいう落とし穴を用意してくるくらいだ。もしかしたら特定の人物じゃないと駄目とか言い出す可能性があった。


 勿論これは根拠のない当てずっぽう。まさか本当に特定の人物だとは――



「おおっ、言い忘れておったな! 決まった相手じゃないと無効どころかペナルティじゃぞ!」


「早く言えよそういうことは!!」



 言い忘れ多くない?


 ってことは、さっき考えた不良にケンカを売って殺してもらうっていう手法は使えないのか?



「んで、決まった相手って?」


「お主が欲情する相手じゃ!!」



 ………………。



「なんだって?」


「麗人がエロいと思った人間ってことじゃな」



 なんでそういう人選にした?


 俺がエロいと思った……欲情する相手?


 ってことは、卒業式に告白した相手って、俺欲情してたって……こと!?


 あの時は必死だったから特に何も考えてなかったが……興奮してたのか?


 変態じゃん!



「む? それとも女なら誰でも良いという変態思考ならワンチャンあるぞ?」


「流石にそれは……! …………無いと思う」



 こちとら女っ気のない生活をひたすら努めてきた次第。


 時が時なら解脱して僧侶になっていてもおかしくないほどの清廉潔白。とはいえ、誰にでも欲情は……無いよな?


 いまいち自信の持てない俺だった。



「もしかして……ワシにすら欲情しておるのか!? いやん、なのじゃ」


「うるせえちんちくりん」


「なにおう!!」



 お互いに睨み合う。今回身を引いたのはリンネだった。


 指を一本立て、口を開く。



「ちなみに可愛い、とか付き合いたい、とかのレベルで構わんからな」


「だから早く言えってそういうのは!!」



 条件が後から後から出てきやがる……!


 と、ここでふと時計を見ると。



「やっべ、遅刻する……!」



 入学式だし、前回は母親を置いていってしまったが今回は一緒に行かないと……。



「入学おめでとー、なのじゃー」



 やかましい。


 ………………



 …………



 ……



 朝っぱらからうるさかったことに母親に咎められ、並んで歩いて高校へと向かう。


 通い慣れた通学路、見覚えのある同級生たちがフレッシュな表情を見せて歩いている。


 俺もそのフレッシュなうちの一人だが、心は三年生……どころか卒業前の高校生だ。


 ……しかし、俺が可愛いと思う相手……か。男でも良いの? 多分良いんだろう。


 残酷な現実だが、俺は男に欲情は出来なかった。男相手なら楽だったのになあ、残念無念。


 母親と特に会話もなく歩いていると、そこかしこからどよめきが聞こえてきた。


 なんだ、ついに俺というブサイクが見つかったか? 化け物を見たとかいうどよめきか?


 しかし周囲の視線は俺ではなく、何処か遠くを見つめているようだ。


 野次馬根性丸出しでどよめきの先を見つめてみると。



 ひときわ強い風が吹いた。


 桜の花が舞い散り、幻想的な風景を見せる。


 風で翻るスカートを押さえ、なびいた髪はそのままに。まるで映画のワンシーンのような出で立ちを見せる美少女。


 全員が感慨深げに溜め息を吐く。


 俺はその光景に目を奪われつつも、この前の出来事を思い返していた。


 彼女こそ、俺が卒業式に告白した女生徒なのだ。


 口こそ悪いが、黙っていると誰もが溜め息を漏らすほどの美少女。ああ、確かに見た目は可愛く付き合いたいし――――欲情もする。


 …………よし、決めた。


 俺は走り出す。……走り出したつもりだが思ってたよりも遅かった。


 ひぃひぃと息を荒げながら足を交互に前に繰り出し。



「あ、あの…………!!」



 声を出して足を止めてもらう。そして振り返る顔を見てやっぱり思う。


 ああ、可愛い。美人だ。


 そんなことに気を取られていたのだろう。交互に出していた足は反対側の足に絡まり。


 転ぶ! そう思った俺は思わず両手を前に出した。



「ひっ――――!」



 ひきつけのような声が上部からする。


 恐る恐る目を開くと、転びそうになった俺は彼女に抱きついてしまったようだ。


 周囲からは憎しみの視線を感じ、目の前の少女は口をパクパクとさせていた。


 よし、ここは俺の言葉でこの場を鎮めてみせようじゃないか。



「……俺を、殺してくれないか?」


「い、いやああああぁぁっ!!」



 ドン、と突き飛ばされる。無理もない。


 突き飛ばされた先は車道。偶然にもやって来る車。


 吹き飛んだ俺は、悲鳴を耳に留めながら意識を手放した――



――鼻筋が、1%アップ。やったね。



 リンネの声だった。


 やったね。

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