ゴムボートは突然に
死んで、死んで、また死んで。
何度やっても上手くいかず、何度繰り返しても先輩はサークルに入ってしまうらしい。
俺としては一ノ瀬を助ける時しか顔を見ていないため、先輩の人柄そのものを知らないため何を言えるわけでもないが。
まあ、俺は俺でパーセンテージを上げられてるからいいんだけどな!
そんな今の俺の数値がこちらです。
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目元 68 / 100%
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鼻筋 69 / 100%
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口元 70 / 100%
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身長 175 / 177cm
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体重 70 / 70kg
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順調にこなしつつあり、体重に至っては目標数値まで達成した。
三桁の時は少し動けば汗だくだったというのに、今では汗どころか息一つも切れないという健康っぷり。
肥満はよくないね、うん。
改造計画が思ったように進んでご満悦の俺、その隣で。
「もう、ホントになんで!? なんで絶対に入るの……!?」
入学式を終えた帰り道。隣で不満を垂れ流す一ノ瀬 深愛氏。
もはや何度目になるだろうか。
「麗人もちゃんと対策考えてくんない!?」
いつの間にか、俺への呼び方も名前呼びになっていた。
……っていうか、その前ってなんで呼ばれてたっけ?
ちょっと、とか。ねえ、とか。
到底人を呼ぶ言葉ではないことは確かだった。
「なんで俺が考えるんだ。俺は俺で先輩に助けられる時に邪魔する内容を考えるのに必死なんだぞ」
何十回もやるとなれば、レパートリーも切れてくる。
毎度毎度ひねり出すのが大変なのだ。
「でも前回の凄かったよね。ペットボトルロケットがたまたま先輩の頭に当たるなんて。びしょびしょになってた」
「しかもその上で無視だからな。あの人のメンタルが強靭過ぎる」
思い出してケラケラと笑う俺たち。
以前までは死ぬ時だけ交流を持っていた俺たちだったが、いつの日からか学校内や外でも交流を持つようになっていた。
先輩を一番に考えるなら、成功するまで何度も何度も巻き戻る必要がある。その度に友人関係を構築するのが面倒になったんだろう。
俺か? 俺は作ろうとすらしていない。だからその苦労が俺にはわからないのだ。
ホワイトボードの数値的にも、少なくとももうブサイクとは呼ばれないだろう。現に俺とぶつかって悲鳴を上げる人はいなくなった。
以前はマンドラゴラの巣窟に紛れ込んだのかと錯覚するくらい四方八方から金切り声が聞こえてたからね。
「よし、決めた。今回は先輩に助けられるのを無視してみようと思うんだけど」
「いいのか? そうなると接点が無くなってしまうんじゃないのか?」
「同じ学校っていう接点自体は残ってるから……たまには切り口を変えてみるのもいいかもじゃない?」
「まあ、ダメでもやり直せばいいしな」
そういった意味では完全に無駄とは言い切れないだろう。
――――――――――
……そして、約束の日がやってきた。
本来であればナンパに襲われ、先輩に助けられるXデーだ。
その日、何故か一ノ瀬は俺といた。
リンネの大福を買いに行くため外に出たら、家の前で待ち構えていたのだ。
「だーいふっくー、だーいふっくー」
「リンネちゃんはいつもご機嫌ねー」
「うむっ! この世に大福がある限りワシは常にご機嫌じゃ!」
あいも変わらず音の外れた歌を歌いながらリンネは前を歩く。
その少し後ろを俺と一ノ瀬は並んで歩く。少し前なら考えられなかった光景だ。
ブロック塀が左右に挟まれた住宅街、コンビニまではもう少しだ。
「もうすぐナンパされる時間だけど……場所まではまだ遠いし、今回はナンパされずに終わるんじゃないかな?」
「ああ、一体どうなるか…………だ、けど……?」
俺の言葉尻が途切れ途切れになる。
目の前からやってくる三人組。見慣れたド派手な衣装の三人組は……まさか……。
「お、すげえ可愛いじゃん」
「えええぇぇぇぇ!?」
「なにぃぃぃぃ!?」
ナンパの三人組である。
目的の場所はまだ先だと言うのに、まさかの先回りである。
流石の出来事に俺も一ノ瀬も驚きを隠せない。
「マジかよ……なんでここにまで……?」
「驚きを通り越してキモいんだけど……!?」
絶句しているにも関わらず、ナンパたちは独りでに言葉を投げかけ続け。最後には突然キレる。
「さっきから無視してんじゃねぇぞ!」
ドンッ。
一ノ瀬が突き飛ばされる、その先はブロック塀。
頭でも打ったら一大事だ。先輩が来る保証もないし助けた方が良さそうだな。
手を伸ばそうとするが、思わず止まる。それは何故か?
何処からともなく飛んできた、空気の入れられたゴムボートが一ノ瀬とブロック塀の間に割り込んできたのだ。
ボヨンと弾んだ一ノ瀬の体を受け止める。ナンパたちは怯えた表情で逃げて行った。
「……なんだこの展開!」
「あ、ありがと……」
俺の胸を押し返すように手を伸ばしながら、自分で立つ。
ゴムボートは自分の役割を終えたかのように、またも弾んでこの場から飛び去っていく。なんだったんだあれは。
と、その時だった。
飛び去るのと同時に、ゴシャァ! と轟音を立てて何かが飛び込んできた。
先程までゴムボートがあった場所に砂煙がモクモクと立ち込められ、現れたのは。
「大丈夫?」
「あんたが大丈夫か!!」
「あはははっ!!」
砂煙の中から立ち上がったのはなんと先輩。
頭から血を流して一ノ瀬に手を差し伸べていた。
「怪我してない?」
「あんたが怪我してるぞ!?」
「あははっ!! も、もうやめて……っ!!」
最近、先輩とのファーストコンタクト時、常に笑ってる気がするな。
助けたにも関わらず、腹を抱えて笑い転げる一ノ瀬を見て、ヤベェものを見た目をしながら先輩は立ち去っていく。
「まったく、ナンパはワープしてくるわ、先輩は何故かブロック塀に突っ込むわ。一体どうなってんだ?」
「…………ふぅー……ね、どうなってるのかな。ふふっ……」
「早く大福を買いに行くぞっ! 大福がワシを待っている!」
とことんマイペースなリンネだった。
……しかし、本当になんで違う場所にまで移動してきたんだ?
コンビニで大福を買って、頬張るリンネを見ながらぼうっと考えていた。
「って、外で食べさせるのは行儀悪いからダメだって言っただろうが」
「いいじゃない、別に歩きながら食べてるわけじゃなし」
「そうやって甘くしてると、他のところも緩めちまうようになるからダメなんだって」
「そうなったらその時注意すればいいじゃない?」
まるで子どもの教育についての議論みたいだ。
そんなことを思っていたら。
「……まるで夫婦の揉め事じゃのう」
俺と思っていたことを同じことをリンネが言う。
一ノ瀬はようやく気付いたのか、少し顔を赤くしながら離れる。
妙な空気だ。こんな空気はよくない。
「となると、リンネは子どもってことになるな。確かに身長は子どもそのものだが、こんな和菓子お化けが子どもってのもなぁ」
「なにおう! 洋菓子よりへるしぃなんじゃぞ!?」
「過ぎたるは及ばざるが如しって知ってるか?」
「もち! つまり食べすぎなければ良いってことじゃな!」
そうじゃない。いや、そうだけど、そうじゃない。
そんな俺とリンネのやり取りを、少し離れたところで一ノ瀬が微笑みながら見ていたことを、俺たちは気付いていなかった。
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