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ぷろでゅうさあの演技指導


 俺と一ノ瀬の戦いは終わることを知らない。


 ある時は俺のターン、またある時は一ノ瀬のターン。攻守交代制という約定のもと、お互いに自分のやりたいことを追求していく。


 そんなとある周回のこと、今回は一ノ瀬が先輩を真人間…………真人間? にするターンである。


 いつもの男三人組によるナンパ。からの、先輩が颯爽と登場して一ノ瀬を危険から救う。すると乙女脳な一ノ瀬はイケメンな振る舞いな先輩にズッキュンでホイというわけだ。


 しかし今回は俺がいる。邪魔をする俺という存在が。


 ちなみに今回、隣を歩くのは却下された。精神状態が侵されると言っていた。失礼しちゃうわ。


 故に少し遠くから眺めるしか方法が無いというわけだが……さて、どうしようか。



「すげぇ可愛いじゃん。ね、遊びに行こうよ」

「絶対楽しいって。いいじゃん」

「キミも一人でいるよりいいっしょ? 仲良く遊ぼうぜ」



 お、始まった。


 何度か聞いたセリフ、一語一句違えないその言葉はまるでテレビドラマを見ているかのような錯覚に陥る。


 同じ口調、同じ動き。同じ囲み方。



「い、いやぁ~、離してぇ~」



 同じクソみたいな演技。…………そうだ!


 着ていた上着を脱ぎ、背中に羽織って袖を胸元で結ぶ。いわゆるプロデューサー巻きとかいうやつだ。


 何処からか取り出したサングラスを掛けて、フリップボードを手に持つ。


 一文を書いて、一ノ瀬に見せた。



『演技して!』



 俺の書いた文字に気付いたようだ。ちょっと距離があるため目を細めてじっくりと見た後、俺を見て冷たい視線を飛ばす。


 一瞬だけ目を閉じた後、カッと目を開く。それはあたかも女優の魂を目覚めさせるような、昔から覚醒シーンと呼ばれる伝統的な1ページ。漫画なら見開きに使われてるだろうな。


 一ノ瀬の奥底に眠る女優魂が、今――!



「離してよ~!!」



 しませんでした。元から女優魂なんてものは一ノ瀬には無いのかもしれませんね、ええ。


 しょうがない、助け舟を出してやるか。フリップボードに改めて文字を書いて……はい、どうぞ!



『ここでボケて!』


「え、ぼ、ボケて……? え、えーと……」



 アドリブ弱っ。一ノ瀬は目に見えて狼狽している。


 ふう、どうやらダメみたいですね。これではとても番組で使えるVTRではありません。


 演技もダメ、お笑いもダメ、とくれば…………こうだっ!



『色っぽく!!』


「色っぽ……!? あ、あぁん、やめてぇ」



 それはやるんだ。


 演技がゴミだから色っぽさもゴミだったけど。まあ、頑張ったよ。


 思わず俺は落涙して拍手を送る。頑張りは認めるよ、成果は無いに等しいけどね。



「さっきから無視してんじゃねぇぞ!」


「きゃあっ!」



 一ノ瀬が突き飛ばされて、車道へ。


 助かるとわかっていても、危ない目に合うのは少し心臓に悪い。


 そしてヒーロー登場。颯爽と一ノ瀬を助け出す最上級生の先輩。


 まあ、でも確かに? 俺から見ても目鼻立ちは整っており? 高身長の爽やかスポーツマンといった感じ?


 でも知ってた? 将来テニサーで酒池肉林三昧するんだぜ?


 …………ちょっと羨ましいとか思ってないんだからねっ。



「大丈夫?」


「ありがとうございます……っ」


「怪我がなくて良かったよ、じゃあ気を付けてね」



 このまま去ってしまうのだろうか? 今回は接点を持たない作戦か?



「あ、あの……っ!」


「ん?」



 おお、声を掛けた。しょうがない、ここで俺も最後のダメ押しをしよう。


 フリップボードにカキカキ……。



『カス演技』


「うるっさい、ほっとけバカ!!」


「――え?」



 どうやら先輩は自分に言われたと思ったらしい。爽やか笑顔が引きつるのがわかった。


 一ノ瀬の罵倒はどう見ても俺に言ってる。だって俺の方向いてるし。


 しかし、何故かさっきから俺という存在を、一ノ瀬以外の全員が無視してるような気がするんだが……。



「え、えっと……ごめんね、余計なお世話だったのかな。じゃあ……っ!」


「え、あ、あの、ちが……っ!!」



 そそくさ。


 先輩は去って行った。残されたのは俺と一ノ瀬だけ。


 彼女の方が怖くて見れません。……とか思いながらも、ちらりと覗いてみたりして。



「………………」


「あ~ん~た~ね~!!」



 おお、ここにおわすは般若。俺への恨みは骨身に染まり、鬼の化身となりてその方を――


 ゴン、と俺の頭に拳骨が落ちる。



「痛いじゃないか」


「誰のせいだと思ってんのっ! ……ああ、もう、待ってください先輩!」



 脱兎の如く逃げた先輩の背中を慌てて追う。


 邪魔を許可されたのはここまで、後は一ノ瀬の頑張りに対してエールを送るしか出来ることはない。



「失敗しろっ!」


「黙れバカ!」



 大変地獄耳でした。



 ………………



 …………



 ……



「なあ、リンネ」


「なんじゃ~?」



 ここはコンビニ。リンネの和菓子を買いにやってきたのだ。


 周囲の人間にはリンネは見えていない、だから俺も小声で喋る。



「洋菓子って食べないのか?」


「ようがし……?」



 それって日本語か? みたいな顔をされた。当たり前じゃい。


 冷蔵ショーケースから一つ手に取り、見せてみる。



「これとか」



 シュークリームである。中には生クリームとカスタードがたっぷり。


 ふわふわの生地の中にもっちりとした甘みが広がり、和菓子には出来ない甘味表現がここにはある。



「邪道じゃ。ワシは和菓子しか好かん」


「…………邪道?」



 邪道とは?


 むしろ和菓子しか食べないことが正道なのか? 果たしてそうかな?



「むぅ…………今日はたい焼きの気分じゃ! あんこたっぷりのたい焼きを食べたいぞっ!」


「あー……じゃあ、ちょっと歩くけど買いに行くか。美味いところがあるんだ」


「おお、それは楽しみじゃっ!」



 面白いこと思いついたしな。


 上機嫌なリンネは隣に歩き、鼻歌を歌いながらスキップでもしそうな雰囲気だった。


 歩くこと十分ほど、商店街の入口近くにあるたい焼き屋へと到着。



「買ってくるからちょっと待ってろ」


「おう! よろしく頼むぞ!」


「ああ」



 俺は屋台へと足早で向かい――――『数種類』のたい焼きを注文するのであった。


 注文してから焼いてくれるたい焼きは、いつでも出来立てホカホカ。


 紙袋の中に収められた熱々のたい焼きを手に、俺はリンネの元へと戻る。



「ほい、お待たせ」


「待ちかねたぞ……っ! 温かいぞ、今食べても良いのか!?」


「ああ、いいぞ」



 本来なら帰るてからでないと行儀が悪いと言いたいところだが、熱々のうちに食べる方が良いだろう。


 それに面白い反応は早く見たいしな。



「三つもあるぞ………………ん? なんかどれも匂いがそれぞれ違うのう」


「……そうか? 中で色んな物を作ってたから、匂いが混ざっちまったのかもな」


「それもそうじゃな、いただきまーすっ!」



 危ねえ危ねえ。


 俺の言葉に疑いもしないリンネは、たい焼きを一つ手に持って大口を開けて……いざ、実食。


 パクリ。



「…………っ!? っ!?!!?」



 かじりついたまま、目を白黒とさせる。しかし手は離さないし、口も離さない。


 もぐもぐとゆっくりと咀嚼。味が口内に広がっているのか、目はどんどんと大きくなっていく。


 口をようやくたい焼きから離し、中身を検める。


 その中身は――カスタードだった。



「な…………なぁんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」



 絶叫、いや咆哮というべきか。


 初めての味に戸惑いを見せながらも、口はもぐもぐと動き続ける。



「ごくん……っ。ぱくり…………なんじゃこりゃああ!!」



 ワンモア。もしかしてずっとやる気か?



「れ……麗人、これはいったい……あんこは……!?」


「それはな……カスタードだ! 洋菓子によく使われるな!」


「かすたあど……」



 そんな古風な言い方する必要あったか?



「あんこは……?」


「残り二つのどれかがあんこだ」



 紙袋の中身を見る。同じ形のたい焼きが二つ。



「ぱくぱく……ごくん、ぱく……うまっ」



 今美味いって言ったなこいつ。いや良いんだけど。


 ただの食わず嫌いだったか。和菓子至上主義で洋菓子を下に見ていたに違いない。


 しかし洋菓子としての甘味を知ってしまった今、どちらに軍配が上がるのだろうか。



「こっち……か? ………………違うっ! 甘酸っぱい、なんじゃこれは!?」


「あんこじゃなかったか。そっちはリンゴ餡だ!」


「りんごあん……?」



 なんで未知の物を前にすると平仮名でオウム返しするんだろう。



「アップルパイならぬ、アップルたい焼きだな。まあパイ生地にも出来たらしいけど……」



 それはまたの機会に。


 甘酸っぱい味わいに目を白黒させながらも、ぱくつく手と口は止まらない。


 二匹を丸々平らげ、残されたのはあんこのたい焼き。


 最後のたい焼きを見たまま動きが止まる。



「どうした? 満腹か?」


「いや…………これ、本当にあんこか?」



 疑心暗鬼になっていたようだ。


 しかしそれはあんこ。元々好きな物は一つは混ぜておくべきだと思い、あんこだけは混ぜておいたのだ。


 俺が頷くと、リンネはおずおずと手を伸ばし……食べた。


 食べ慣れた甘味の風味。目は幸せに蕩け、体全体で幸せを表現する。


 食べ終わるのは一瞬だった。



「どれが一番好みだった?」


「それは勿論あんこじゃ!」



 流石に好みは変わらないか。まあ好みを変えたかったわけじゃない。


 他にも美味しい物はあると知ってもらいたかっただけだ。



「…………まあ、たまには洋菓子もいいかもしれんがな!」

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