キミのカレはヤリサーメンバー
来る日も来る日も彼女の友人に阻まれ続け、進級してクラスも離れてしまい、久々の交流になったわけだが。
突然目の前に現れた一ノ瀬が、俺に向かって言葉のナイフを全力投球する。
「死んでくれない?」
それは俺の予てからの要望、是非もない申し出ではあるのだが。
……なんだろうか、あんまり乗り気じゃない俺がいる。
死ね、と言われた今のタイミングであれば道路に飛び込むだけで俺の願望は叶う。一年生の入学式まで戻り、またやり直しの日々が始まる。
問題ない、むしろ願ったり叶ったりだ。
なんだが……。
「なんで?」
「なんでって……」
そう『なんで?』が頭の中を駆け巡る。
あれだけ死ぬことを許されず、完全に無視を決め込んでいたあの一ノ瀬が、今になってどうして?
言いづらいことなのか、俯いた挙げ句黙り込んでしまう。
さっきも言った通り、死ぬこと自体は文句はない。しかし疑問を解消しない限り、俺はテコでも動くつもりはなかった。
俺の改造計画に関わることだというのに、一ノ瀬に生殺与奪を握られるわけにはいかないのだ。
「い……いいじゃん、別に。死ねば顔がマシになるんだから」
「そうだな。だけど一ノ瀬の一存で決めることじゃない、俺に行動をさせたいならそれ相応の説明をするべきだ」
また黙り込む。
そんなに言いにくいことなのだろうか? 深く聞くべきじゃないのか?
いや、むしろ逆だ。隠されてると余計に知りたくなってしまう。
何が何でも知りたくなってしまうのは、俺の崇高なる知的好奇心か。
それともただの下衆の勘繰りか。どちらなのかは言うまでもない。
「………………に、なったの!」
「……なんだって?」
よく聞こえなかった。
改めて尋ねると、キッと顔を上げて俺を睨み付ける。
「彼氏が……テニサーに入ったの!」
「はあ……そうですか」
そんな報告聞かされてもな。
っていうか。
「彼氏いたのか」
「そりゃあね。でも……ただのテニサーじゃなかったみたいで……」
「……というと?」
詳しく話を聞いてみた。
とある日、ナンパにしつこく絡まれ困っていると、男の人に助けられたようだ。
その人は学校の先輩で、最上級生だったそうな。
どうやら巻き戻る前はただの憧れで終わっていたそうだが、巻き戻ったが好機とばかりに先輩に告白、交際することになったらしい。
しかし交際はピュアなもの、手を繋いだりとかも無い心だけの繋がりだったそうだが……。
「幼稚園児か何か?」
「うるさいなぁ、話の腰を折らないでよ」
「へい」
そんな状態が一年続いていたが、卒業し大学に進学した先輩が入ったのはテニスサークル。
実態は、その…………ごにょごにょなサークルだったようだ。
それ以来男としての自信をつけたのか、事あるごとに体の関係を求めてくるようになった……そうだ。
「好きならすればいいのに」
「そういうのは結婚してからでしょ!?」
婚前交渉を固く誓ってるとは、いまどき古風な。
「んで、戻ってどうするんだ?」
「もちろん決まってる、先輩を大学に行かせないの!」
人の人生をなんだと思ってるんだ?
「もしくは、テニスサークルにだけは入れさせないようにするの!」
「ああ、それならまだ理解できた」
「だから、お願い! 死んでくれない!?」
夏が近い、春の陽気はもう過ぎた過去の話。
そろそろ半袖が必要になろうかという微かな暑さを以て夏の訪れを知らせる朝に。
死ねと言われる平日。背中に流れた小さな雫は、暑さ故の汗か。
それとも一ノ瀬の傍若無人っぷりに対する冷や汗か。
少なくとも往来のど真ん中で、そして俺の家の前でする話ではない。
「死ぬこと自体は構わない」
「じゃあっ……!!」
「早まるな!」
喜びを全身で表現しようとする一ノ瀬を手で制した。
「しかし、実情を知った俺は――――これから邪魔をするぞ!」
「………………え?」
「俺の告白を蹴ったのに、他の男と付き合うなどと言語道断。出会いから告白まで、すべてにおいて邪魔をしてやろう!」
「な、なんでぇ!?」
なんで? どうして?
そんなものの答え、決まっている。
「気に入らないからだ」
「……気に入らない?」
ああ、と深く頷いて一ノ瀬に指を差す。
ビシィ! という効果音まで聞こえてきそうだ。
一方一ノ瀬は冷たい目をしていた。
「俺の行動を制限しておきながら、自分はキャッキャウフフと恋を満喫。俺も満喫したいわ! そのために死ぬ必要があったというのに、死ぬことも許されず!」
「だ、だって……それは」
「自分だけ幸せになろうなんて思うなよ、俺と一ノ瀬は太いパイプで繋がれてるんだ」
「……くぅっ!」
唇を噛む一ノ瀬。ふふふ、さぞ無念だろう、さぞ悔しかろう。
しかしリンネが連携解除の方法を探している間は、俺と一ノ瀬は繋がり続けている。それは紛れもない事実。
「なんなら俺と付き合うか?」
「冗談じゃない、あんたみたいなブ…………! ……言うほどブサイクじゃなくなってきてるけど、それでも先輩の方がカッコいいもん!」
あらやだ、褒められた。
なんだか悪い気分じゃない。むしろ良い気分だ。
「今回は一ノ瀬の要望を聞いて巻き戻ろう。だが、次からは絶対邪魔をするからな!」
「出来るものならやってみたら!? 勝負よ!」
「じゃあ――言え!」
「死ね!」
「応!!」
そして巻き戻る。
――口元が1%アップじゃ。しかし、妙なことになってきおったのう。
ふふふ、自分だけ幸せになろうなんてそうはさせない。地獄も天国も道連れにしてやる……!
――禍々しい怨念が出とるの。本当に人間じゃろうか。
やかましい。
そして巻き戻る。
一年と少しという長い時を、また巻き戻っていく。
そこで得た経験はどれほどのものか。死を繰り返す度に、クラスメイトの俺への対応は着実に軟化している。
後の問題となっているのは、俺の他人への卑屈で陰険な態度らしい。らしい、というのはリンネ談だからだ。
何度も巻き戻ってる所為か成績は常に上位をキープ、そしてひねくれた態度につっけんどんな物言い。
俺を疎ましく思ってる人間は多い、というのが一ノ瀬の見解のようだ。
前ほどブサイクじゃなくなってる、らしい。俺個人ではよくわからないが。
最初よりも良くなっている、それはわかる。顔立ちが良くなると共にニキビも減ってきたし。体重が落ちると共に多汗症も落ち着いてきた。
残る問題は……。
「お主の心の奥底にある人間不信じゃな」
ベッドの上で目を開くと、リンネの声がベッド脇からした。
顔を動かすと、ベッド脇に立って腕を組んだリンネの姿が。俺を咎めているのか、それとも心配しているのか。どちらとも取れる視線を俺に向ける。
「過去に虐げられ続けたトラウマというべきか、他人に冷たく当たる節がある。それではどれだけ顔が整おうと、人を寄せ付けないのであれば…………って、何処に行くんじゃ?」
リンネのお説教を耳に入れながら、俺は立ち上がる。
「何処に? 決まってるだろ」
巻き戻った今日は入学式。そして……。
「一ノ瀬の邪魔をしに行くんだよ!!」
「…………まあ、先輩とやらはお主の恋敵じゃしな、そうなるのはわかるが……あんまり人の嫌がることばかりしてると、嫌われるぞ?」
母親のお説教か。
しかし今の俺に聞き入れる余裕はない。何が何でも邪魔してやるのだ!
フハハハハ!!
「虚しくならんか?」
「ちょっとだけな」
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