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桜並木に紅葉を


「あくまでもワシの推論じゃが……もぐもぐ」



 コンビニ脇のスペースでどら焼きを頬張るリンネ。


 その手に提げられたビニール袋にはたい焼きや団子、大福が山程入っている。


 どら焼きだけのハズだったのに、一ノ瀬に『ケチケチするな』と言われ無理やり買わされたのであった。



「恐らく、麗人の事故に巻き込まれたからであろうな」



 一ノ瀬に寄り添うように立ちながら、和菓子を頬張るリンネ。すっかり一ノ瀬に飼いなされたようだ。


 食い物で釣られるとは卑しい奴め。ていうかそれ買ったの俺なんだけどな。


 寄り添われている当の一ノ瀬も恍惚な表情をしているので、ウィンウィンの関係といったところか。


 唯一の敗者は俺の財布だけである。ちくせう。



「というか原因はそれしか考えられん。今まで幾度となく巻き戻ったが、深愛の記憶は戻っておらんかった」



 名前呼びですか。随分懐いたものですね。


 嫉妬に非ず。


 もう一度言わせて欲しい、嫉妬に非ず。


 単に食い物で簡単に懐くリンネが腹立たしいだけである、うむ。それに俺のことだって最初から名前呼びだったし。



「すまなんだな深愛、妙なことに巻き込んでしまって」


「いいよ、リンネちゃんと出会えたんだし」


「すまないな一ノ瀬。巻き込んでしまったようだ」


「絶対許さない」



 この差よ。


 まあ、片やのじゃロリ美少女。片やブサイク男子だ。


 うーむ、さもありなん。



「じゃあ、これから私はどうなるの? ずっとこいつの巻き戻りに付き合わされるワケ?」


「いや、恐らく大丈夫じゃ。麗人が単独で死ねば、ワシと麗人だけが巻き戻るはず」


「あ、そうなんだ。じゃあ死んできて?」


「言い方もうちょっと無いんか?」



 俺だから良いものの、他のやつに言えば絶望の淵に立たされ、涙をちょちょ切らせながら命を断つだろう。


 まったく、俺だから良いものの。



「しかし、一ノ瀬に殺してもらわないとペナルティがなあ」


「え、超イヤなんだけど」



 まあ、確かにそうか。


 記憶が無くなるとわかっていても、自ら手にかけるには抵抗がある。当たり前のことである。


 え? 理解していながら、今まで一ノ瀬に手をかけさせていたのは誰かって?


 それはこの俺、池杉 麗人。通称今世紀最大のブサイク。


 他人の心を解さないことに関しては天下一品。


 鬼畜? 外道? だから何?



「おい、そこのトリップしてる醜男や」


「へいお待ちどう」



 変なこと考えてる場合じゃない。


 今回は一ノ瀬を巻き込んでしまったのだし、ペナルティに文句を言う資格はないか。



「しょーがない、ひとっ走り行って首を括ってやらあ!」


「買い物に行くみたいに言わないでよね」



 いい感じの木を探し、何処からか取り出したロープを素早く結ぶ。


 ぐえ。



 ………………



 …………



 ……



「ぐっもーにん」


「ぐっもーじゃ」



 目覚めればいつものベッドの上。



「あれ? リンネのナビボイス無かったけど?」


「うむ、今回はペナルティを恐れず一ノ瀬のために容易く身を挺したのでな、その気概に免じてペナルティなしじゃ。勿論プラスも無しじゃけどな」



 ありがたい。


 さて、今日から再スタートだ。前回のドタバタはもう過ぎたこと、これからは如何に人を巻き込まずに死ねるか考えようじゃないか。


 さしあたっては入学式という恒例行事を終わらせるのが目下の目標だな。


 慣れた手際で着替え、母親に参加しなくて良い旨を伝える。手放しで喜ぶ母親を見て、何か思わなくもないが……こっちとしても一人で行動した方が楽なので、特に深く考えるのはやめておこっと。


 外に出ればいつもの光景、遠くに見える桜並木には新入生が歩いて学校へ向かう姿が見える。


 そして家の近くの公園には、仁王立ちで俺を睨む新入生の姿が見える。…………あれ?



「一ノ瀬……?」



 あ、しまった。記憶はリセットされてるはずなんだし、いきなり名前を呼んでしまうと面倒なことに――



「忘れてないんだけど」


「は?」


「バッチリ覚えてる。忘れるんじゃなかったの?」



 ………………。



「さあて、今日から高校生だぞう。どんなことが起こるかなぁ」


「ちょっと無視しないでくれる?」



 そんな事言われても。


 俺はリンネのルールに沿ってるだけだから、イレギュラーな事情とかは何もわからないんですぅ。


 とバカ正直に言うのも憚られたので。



「え……誰ですか?」



 少しふざけてみることにした。それが間違いだと気付いたのはすぐ後だ。



「えっ…………」



 信じられないものを見た顔。口元を両手で押さえ、二歩三歩と後退る。


 風が吹いた。桜並木に落ちた桜の花びらが、こちらにまで飛んでくる。



「嘘、記憶持ってるのって、私だけなの……? これからどうすれば……」



 ……やっべ。


 冗談にならない冗談を言ってしまったらしい。



「あ、そうだ……リンネちゃん。リンネちゃんに聞けば……あれ、でもどうやって……?」


「………………」



 どうしよっかなあ。早く正直に言ったほうがいいんだろうけど。


 タイミングがなぁ。



「いや、でもただ最初からやり直しと思えば……まだ…………良いの? 本当に?」



 お、勝手に解決するかもしれないな。とはいえ、一ノ瀬が記憶を持ったままループした事実は何も解決してないんだが。


 これ、次からどうなるんだろう……?



「……ごめんね、人違いだったみたい」



 自分の中で一旦の解決を見せたのか、取り繕うように言って立ち去ろうとする一ノ瀬。


 そんな彼女の背中に向かって、俺は言葉を投げた。



「う……うっそぴょーん……?」


「………………は?」


「…………」



 春だと言うのに、俺の横っ面に大きなもみじが作られるのは、それから数秒後の話だった。

読んでいただきありがとうございます。


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