語られるカスタム事情の裏話
入学式もつつがなく終了。
一ノ瀬に睨まれ続けているのを除けば、だが。
同じクラス、これもいつも通り。出席番号順の席順なので一つ後ろの席に一ノ瀬が。これもまあいつも通り。
ただ一つ違うのは、一ノ瀬も何故か記憶を引き継いでいる、ということ。
「さあ、聞かせなさい!」
解散になるやいなや俺の机をバンと叩いて周囲の注目を浴びる。
ただでさえ美人の一ノ瀬、周りからヒソヒソと持て囃される声が聞こえる中。俺という醜男に気安く話しかけるこの状況。教室中がざわめている。
「物騒な話だし、人がいないところがいいんだが」
「何処でも、全部ちゃんと聞けるんならね」
「じゃあ俺の家――――は、ダメですよね」
「当たり前。ふざけてんの?」
しかし、今回の件に関しては俺もあいつに聞きたいことがある。
話し合うのは大歓迎だが、今日は入学式。
「親とかは大丈夫なのか? 俺は親が来てないから構わないけど」
「…………」
両親と共に来ている学生が多い故の軽い質問だったが、その質問をするなり一ノ瀬の顔は陰りを見せる。
何か事情があるのかもしれない。
「……じゃあ、俺の家の近くの公園でも良いか?」
「…………ええ、いいけど」
というわけで、俺の家近くにある公園で話すことにした。ひとまず一ノ瀬には公園で待っていてもらい、リンネを連れて公園で合流する。
すると。
「なにこの子、めっちゃ可愛いんですけど……!?」
「…………見えとるのか?」
「どうもそうらしい」
突然連れてこられた銀髪の幼女に、一ノ瀬は目を輝かせてリンネの前で屈む。
リンネにとっても青天の霹靂なのか、目を丸くしながら一ノ瀬に撫でられまくっていた。
しばらくされるがままだったリンネだったが、いい加減鬱陶しくなってきたのか手を振り払って俺の後ろに隠れる。
「ずるい!!」
「そんな事言われても」
俺のズボンを掴んで一ノ瀬を睨む姿は、まるで人馴れしていない子猫のよう。
遮蔽物扱いされている俺を睨み付けるが、ただの遮蔽物の俺に成す術はなく、成り行きに任せて肩を竦めるのみだ。
「……で、話なんだけど」
「そうだ……そうだった。ちゃんと説明しなさい!!」
理不尽。自分が別のことに気を取られたくせに。
まあいいや。俺も話を聞いてみたいし…………と思っていたんだが。
「……なんで覚えておるんじゃ……?」
どうもリンネも理解していない様子。
……あれぇ? これは俺が聞きたいことも聞けない気がするぞ?
驚いた様子を見せるリンネは、原因を特定出来ているのだろうか。出来ていないだろうな。
まずは一ノ瀬に詳しく説明しよう。人に説明している間に自分の頭の中も少しは整理できるかもしれないし。
「まず、俺は今から三年後の卒業式の日から巻き戻ってきたんだ」
「は? 何言ってんの?」
………………。
「話の腰を折るなら帰るぞ?」
「あ~…………わかったわかった。まったく、うるさいったらない」
煩わしそうに手を振り、ベンチに腰を掛けて足を組む。
一連の所作だけで絵になるのは、恐らく彼女だけだろう。不遜な態度でしか無いのだが。
俺から見ても、いや恐らく周囲から見ても美人な一ノ瀬は、何気ない仕草一つでもとても惹きつけられる。例えそれがとても尊大な態度であったとしても、だ。
「俺は三年後、卒業式の日に一ノ瀬に告白するんだ」
「うげ」
「うるさいな。……それで、まあ今の反応でもわかるように俺は玉砕」
「まあ当然よね」
「だからうるさい。で、俺はしつこく食い下がる」
「キモ」
「なんなの? いちいち口を挟まないと死んじゃうの? ねえ、静かに話を聞くことって出来ないの?」
話す度に心を抉る言葉を突き刺され、俺の心はズタズタに…………なってないな。死に戻りを繰り返すことでメンタルが鋼のようになってるんだろうか。
俺の説明を興味無さそうに聞きながら、ベンチの背もたれに両肘を掛ける。とても行儀悪い。
「話を続けるぞ。その時に、俺は事故で死んだんだが……起きた時、何故か三年前の入学式……つまり今日だな。この日に、戻ってたんだ」
「なんで?」
「リンネ……こいつが言うには、俺がブサイク過ぎて不憫だったらしい」
ベンチから立ち上がり、俺の顔をまじまじと眺める。
顔が近い。
「ふうん……ブサイクはブサイクだけど、言うほどブサイクじゃなくない?」
「………………」
褒められた。妙に恥ずかしい。
そんな時だった、リンネが無言で懐から一枚の写真を取り出す。
「これが初期モデルの麗人じゃ」
「人を大量生産のように」
「うわぶっさ!!!」
大声が響き渡る。うん、まあ言いたいことはわかるけど。
そんな叫ばなくてもよくない?
「ぶっさ!!!!」
二回も言わなくてもよくない?
っていうかリンネもなんで持ってたんだ?
「記念に。魔除けになりそうじゃから」
「大変失礼」
「はあ、なるほどね……確かにこれはブサイクだわ。不憫って言われてもしょうがないかも。でもどちらかというと魔を除けるんじゃなくて呼び寄せそう」
「…………確かに……そうじゃな……返すぞ麗人」
……返されても。
とりあえず写真を制服のポケットに仕舞う。ポケットの中からは怨念が放たれている気がしたけれども気の所為だということにしておきたい。
「何度も繰り返して、ようやく今の顔に改造が終わったのじゃ。それでもまだ建設途中じゃけど」
ちょくちょく人体に使う言葉ではない単語が出てくるな。
だがもうリンネのこういった口の悪さには慣れてきている俺がいる。ちょっとやそっとじゃ動じないぞ。
「それで? こいつの顔面改造にどうして私が巻き込まれてるの? 私関係ないよね?」
確かに関係はない。しかし、なんと説明すればいいか。
続きを話そうと俺が口を開くと。
「ちょっと待った!」
リンネが待ったをかけた。
「どら焼きを食べてからでないと話せん。あんこ不足で電池切れじゃ」
そんなことってある?
と思ったが、突如リンネの腹から腹の虫が鳴き始める。
「な?」
「な? じゃねえよ」
「まあいいじゃない。私も一杯喋って喉乾いたし」
そこで俺は公園の中央を指し示す。
石造りの立方体。側面には歯車のようなハンドルがあり、天辺には銀色の蛇口が空に向いている。
つまり水飲み場。
「女の子と一緒にいて水道水で終わらせようとするなんて、冗談でしょ? 顔がブサイクなら心もブサイクね」
「顔を指摘する必要あった? ねえ?」
と異を唱えてみたものの、二人の中でコンビニに行くのはどうやら確定のようで。
俺も仕方なく付いていくことにしたのであった。




