垂直落下は突然に
新連載!
何卒!
よろしくお願いします!
第一印象は見た目で決まる、と言われていたことがある。
言ってしまえばルッキズム全開の酷い言葉だと思う。
しかしながら、なるほど。俺に関しては当てはまる、当てはまってしまう。
「俺と付き合ってください!!」
高校生活最後の卒業式。俺たち以外誰もいない屋上で俺は腰を90度折り曲げ、頭を下げて右手を差し出す。
緊張で胸がバクバク音を立てている。今にも心臓が口から飛び出そうだ。
汗が出てきた、汗が屋上のアスファルトにポタポタと染みを作っていく。
さあ、返答は――!?
「キッショ、豚が人語喋ってんなよ」
………………。
ホワイ?
「わんもあ、ぷりーず」
「は? キモい、死ね」
言葉のナイフがグサグサと胸に刺さる。高校生最後の日にこの仕打ちか?
頭を上げる。目の前にいる美少女が俺の顔を見て顔を引きつらせた。
目線を落とし、自分の影を見てみる。うーんダルマみたいな影。
低身長、肥満。そして多汗症。
眉毛は毛虫のように太く生え揃い、目は一重で細く、エロいことを妄想しているとよく勘違いされたものだ。
勘違いじゃない時もあったけど。
鼻は低く、団子鼻。おかげで鼻詰まりが酷い。
唇は分厚く、まるでタラコが二つくっついているよう。そして顔に広がるニキビ。
うーん、我ながら醜い面で生まれてきたものだ。
小、中、高校と俺はこの面構えの所為で誰からも忌避されて生きてきた。
両親ですらたまに小さく悲鳴を上げるほどだ、ひどくない?
しかし耐えに耐え、耐え忍びようやく卒業。次は大学生活が待っている。
夢のキャンパスライフだ。
夢に必要なものは何か? そう、彼女である!
彼女を作り、キャッキャウフフな夢のキャンパスライフを満喫するため!
当たって砕けろの精神でクラスで一番可愛い、今は目の前で俺を蔑むように見下すこの子に告白した次第!!
結果は玉砕。
「もういい? もういいよね、んじゃ」
俺の返事を待つこと無く背を向けて校舎に入ろうとする。
あいや待たれい。そこで行かれると俺の高校生活はただただブサイクで過ごしたという汚点しか残らぬではないか。
「そこをなんとかぁ!!」
背後から両肩を掴む。
「ひぃぃ!!」
悲鳴を上げられた。我ながら無理もない。
「ちょっとだけ!! さきっちょだけでいいからぁ!!」
第三者から見れば俺は性交渉を強要している変態に見えるだろう。恥も外聞もあったもんじゃない。
だがしかし問題はない。ここには誰もいない、いるのは俺と彼女だけだ。ならば高校生の恥はかき捨て、どうせかくなら、盛大に恥をかいて立ち去ろうではないか。
立つ鳥は跡を濁しまくって立ち去るのだ。
「ちょ……マジでキモい!! 離せ!!」
ジタバタジタバタ。
俺も振り放されない為に必死だ。
このまま行かれてしまうと、勘違い豚野郎と県に名を馳せてしまう。それは嫌だ。
「短い間だけでもいいからぁ!!」
「イヤだっつってんだろ!!」
ズルッ。
嗚呼、多汗症の性よ。
暴れたことによって生じた手汗は、指を滑らせ彼女の肩から離れていく。
振り解かれた勢いでバランスを崩し、たたらを踏んで体勢を整えようとするが……。
嗚呼、肥満の性よ。
脂肪だらけのこの肉体。増えた体重を支える脚力などあるわけもなく。体勢を整えられずどんどん前へと向かう。
向かった方向はフェンス。フェンスの向こう側はもちろん空。
いやでも、おデブ一人くらいもたれたところで外れてしまうような、チャチな作りな訳……。
「あ」
ガシャン、という音と共に傾く体。老朽化のためかフェンスはいとも簡単に外れ、俺はフェンスの向こう側へ。
倒れた体は宙に放り出され、重力に従い地へと真っ逆さま。
落ちる前に振り返ってみると、口を押さえて目を見開いた彼女がいた。
――最期に俺が見た景色は、それだった。
当たって砕けろの精神で告白に臨んだ結果。砕けたのは俺の全身でした、って? ハハッ!
…………笑えねー。
視界が真っ暗になっていく中、聞き慣れない音声が頭に響くのが妙に印象的だった。
――――鼻筋が1%アップしました。
なにそれ?
………………
…………
……
「ぶはぁっ!!」
慌てて体を起こす。ベッドがギシリと軋んだ音を立て、カーテンの隙間から日が漏れている。
…………あれ、ここ……俺の部屋?
ということは……さっきまでのは……夢?
「なぁんだ、夢かぁ」
死んだ俺なんていなかったんだ。良かった良かった。
「アッハッハ!」
高笑いしながら時計を見る。とても笑っていられる時間じゃなかった。
「遅刻だああああ!!」
慌てて着替え、身支度を整える。
母親への挨拶もそこそこに、でも朝食だけはしっかり食べて。靴をつっかけるように履きながら慌てて外へと飛び出した。
遅刻寸前だけど良い朝だ。振られて全身が砕けた俺なんていなかったのだから。
……でもまさか、正夢? 予知夢ってやつ?
もしそうなら、今日の告白はもう……やめておこうかな。死にたくないし。
いやいや、俺にそんな能力があるわけがない。あったらもっと有意義に使ってる。
やけに現実感がある夢だったけど、あれは俺のスペックを客観視した夢なんだろう。
つまり順当な結末とも言える。
…………やっぱ告白するのやめよっかな。
悩みながらも足は止めない。汗が出ない程度に走り、いつもより少し早めの時間で到着。
ふう、これで卒業式に遅刻するとかいう偉業は成し遂げられずに済ん…………だ?
三年間通った、通い慣れた高校。
正門には立て看板が立てられていて、こう書かれていた。
令和◯◯年度、入学式。
…………あれぇ?
年数を見れば、それは三年前の年度である。
………………どうなってんの?
パニクりながらも、クラスを確認。
一年のときと同じクラスだ。……とりあえず向かうか。
勝手知ったる校舎内、特に迷うこと無く目的のクラスへと到着し、扉を開く。
ざわめいていたクラス内は一瞬で静まり返る。いつものことだった。
そしてその後は入学式が粛々と進む。その間も俺の頭の中は疑問符だらけだが、表情だけは平静を装う。
式が終わった後のLHRでの自己紹介。俺の自己紹介では歓声ではなく悲鳴が上がる。これも記憶通りの出来事だ。
それはまるで追体験のよう。
…………はっ!? もしかして、実は死んだのが現実で、今この場は夢だとか?
手の甲をつねってみる。超いてえ。
俺の疑問は何一つ解消されないまま、本日は解散となった。
家に帰るなり母親に怒られた。何故怒っているのか、それは入学式だというのに母親を置いてさっさと行ってしまったからだった。さもありなん。
しかし説教が俺の耳に届くことはなく、未だに現実感のないまま階段を上がり、自室へと戻る。
すると。
「あー、くちゃいくちゃい。たまには窓でも開けたらどうなんじゃ」
小さい体で窓を必死に開けようとする幼女がいた。
…………やっぱ夢だよな?
読んでいただきありがとうございます。
5話までは毎日更新していこうと思っています。
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