光を浴びる日
「あなたたちは選ばれた勇者様たちです!」
そう言われて、私は光を浴びた。その瞬間から今までこわいと思っていたものがこわくなくなった。何でも出来る自信がどこからともなく湧いて湧いて湧き溢れて。
今ならなりたい自分になれると確信したの。
私は私が憧れた、勇者になったんだ。
「うわあ。こんなに人が多いなんて思いもしなかったー!さすが王都、侮るべからずですね!」
大荷物を抱え込みそう声をあげる彼女に
「おう嬢ちゃん、田舎者にはここは刺激的だろう!」
とパンを売り歩く恰幅の良い男が笑顔で声をかける。少女はそれにコクコクと頷いて大きく深呼吸をした。
「こんなに人が大勢いるところなんて初めてですよー!見たことない調味料やら薬やら……もう大混乱です!」
それを聞いた周りの民衆は朗らかに笑う。
「アッハッハ!嬢ちゃんは相当田舎から来たんだな!」
「田舎も田舎というか……。人なんかより動物の方が多いですよー!」
少女が手で狐やら犬やらの動物の形を作ってみせた。それにまた周りは笑う。
「おいおい、今どきどれだけ田舎者なんだ。まあ、良いさ!たっぷり王都を楽しみな!」
これは俺からのプレゼントだ。とパン売りの男から手渡されたパンを食べている少女の傍らに老婆が座る。
「お嬢ちゃん、ここには何しに来たんだい?」
微笑みを浮かべながら優しく老婆は少女に話しかけた。少女はゴクンとパンを飲み込んで応える。
「ここにはお師匠様……いえ、おばあさまに言われて来たんです!このレスリア帝国王都でたくさんのものをみてきなさい、と言われまして!」
「あら、素敵で聡明なおばあさまね。今この王都で見られないものを探す方が難しいわ。ぜひたくさんのものを見てお行きなさい。」
「はい、ありがとうございます!」
そんな老婆と少女の温かな会話に、周りの空気は穏やかなものとなっていた。「ここにあるもの全てを見るんなら寿命が足りないぞ!」なんて優しいヤジが飛ぶ。
やがてパンを食べ終えた少女は立ち上がり身支度を整えた。
「たくさんのものを見るなら早く動かなくちゃね!ねえ、お嬢ちゃん。あなたのお名前は何ていうの?」
旅立つ少女の背中に老婆がそう話しかける。それに少女は振り返って笑顔で応えた。
「私はバーベナ!お師匠様の一番弟子……じゃない、おばあちゃんっこのバーベナです!」
「バーベナ、あなたレスリア帝国の王都にいってらっしゃい。」
「はい!わかりました!……って、え?」
「そうね、わかったのね。なら早く王都に向かう準備をなさい。」
敬愛する師匠からの言葉にいつものように是と応えたバーベナは狼狽えた。
「……え?お師匠様、今なんて……?」
師匠であるトゥルペの方を向いた時に調合していた薬品がこぼれた気がしたが、バーベナはそれどころではなかった。
「あなた、王都にいってくれるのでしょう。今回こぼしてしまった薬は私が片付けておくから、あなたは早く支度をしてきなさいね。」
まったく仕方のない子、なんて言いながらトゥルペは片付けを始める。
「わ、私が王都に……?しかもレスリア帝国の?何で?!え、お師匠様、聞き間違えですよね。いつものように泉に水汲みとかですよね?」
縋り付くようなバーベナの声にトゥルペは応える。
「聞き間違えじゃあないわ。あなたはレスリア帝の王都に行ってくるのよ。」
「何で急にー?!」
頭を抱えたバーベナの肩に手をかけながらトゥルペは話し続ける。
「何もレスリア帝国の王を殺してきなさい、と言ってるわけではないじゃない。あなたにお願いしたいのは、ただ王都行くこと。そして色んなものをみてくること。それだけなのよ。」
「お師匠様、相変わらず発言が物騒!……というかそれは……観光してくる、ということですか?」
「観光でも何でも良いわ。とにかく今のレスリア帝国王都で様々なことを見聞きして、何なら体験してきなさい。」
ね、とニッコリ笑うトゥルペにバーベナの気は抜けた。最初からバーベナは是と応えてしまっていたし、意図は読めずとも敬愛する師匠のいうことだ。バーベナに拒否する理由はもう無かった。
そしてバーベナがレスリア帝国王都に出発する日。
トゥルペはバーベナに鈴を渡した。バーベナがそれを揺らしてみたが、音は聞こえない。
「お師匠様、これは何ですか?壊れた鈴……?」
「壊れてないわよ。それはそういう鈴なの。王都に行ってあなたがみたもの、感じたもの、私にも教えてほしいのよ。だから手紙を書いてほしいの。その手紙にはあなたの好きなことを書いて良いわ。そして手紙が書けたらこの鈴を揺らしなさい。私のお友達が手紙を取りにいくから。」
「ふむふむ……つまり報告書を出すときに使え、と。」
魔女とその弟子であるトゥルペとバーベナにとって、こういった道具は特段珍しいものではない。
「さあ、いってらっしゃい。バーベナ。」
「はい!お師匠様の一番弟子バーベナ、レスリア帝国王都に行ってきます!」
「バーベナ、あなたの目にはどんな世界がうつるのかしら……。」
大荷物で元気に出発した愛しい弟子を見送りながらトゥルペは呟いた。




