祈るものと死神
遠くからでもわかるであろう濃い血の匂い。その場に散らかる酷い死骸の山。"目当てだけ"取り上げられたそれらに彼らは弔いの言葉を口にする。
大地にただある死骸が土に還る時間は人間が思っているほど早いものではない。無造作に放り出されたそれらは長い時間をかけて、やっと土に還ることができるのだ。
その間に食べられ他の生き物へ命を与えられるなら良い。しかし酷い死を迎えてなお屈辱を受けることもある。
そんなことが許されて良いわけがない。
そのような思いから、祈るものたちは生まれた。
人間側にも魔族側にも属さず、弔われなかったものたちへただ祈り、弔っては消えてゆく。だから彼らの現れるところには必ず死がある。その為彼らは恐れられ、恐怖の対象となった。
ここ最近、各地で多く見られるようになった彼らを、異世界から来た者たちはこう呼んだ。
死神、と。
「あのような不気味なものたちが神なのか?」
祈るものたちを遠くから見ていた兵士がそう尋ねる。
「話しを聞く限り、俺たちの世界では完全に死神だね。さすが異世界、死神にも会えちゃったよ。」
血で染まった重そうな麻袋を片手に持った勇者はそう応えた。麻袋の中身はカーバンクルの宝石やアルミラージの角、魔物のものでありながら人間が欲しがる宝物と呼ばれる類いのものだった。
「あのものたちは死骸に群がり、謎の言葉を吐いてはそれらを消し去るんだ。」
若い兵士が恐ろしげにそう言う。
「それは死神の特徴だよ。死あるところに死神あり、死神あるところに死あり、これ鉄則ね。」
勇者の言葉に兵士は震え上がる。
「勇者たちは、その死神が死体を何処に消し去るのか知っているのか?」
その言葉に勇者は少し黙り込んで考える。そしてこう応えた。
「死神なんだから、地獄に運んでるんじゃないか?」
「地獄?!勇者の世界にもあるのか。地獄はそれは恐ろしい場所と聞く。あのものたちは死んだものたちをそんな場所に送っていたのか……!」
「こっちにも地獄ってあるんだな……いや、天国のような場所があるとは聞いていたから地獄もあるのは、うん、わかる。」
兵士の大声に勇者は驚きながらも"死神"を見ていた。
そして目が合った。
これは直感だった。
"死神"と呼ばれたものは黒衣に身を包み、顔も靄のようなもので見えない。しかし確かに目があったのだ。
"死神"は話すこともなければ目を逸らすこともしなかった。ただこちらを見ていた。それだけだった。
そしてそれが何よりも恐ろしいと勇者は感じのだ。何もされていない。距離も離れている。直ぐに何かされるわけではない。いや、相手は"死神"だ。死神になんてここに来るまでに出会ったことなどない。
得体のしれないものに恐怖する。それは人間の根底に隠された本能だった。
死神の目が自分の持つ麻袋にうつった時、勇者はそこから叫び声をあげて逃げ出した。
急に大声を張り上げて走り出した勇者に兵士は只事ではないと、続いてその場から逃げ出した。
それを何をすることもなく、"死神"はただ見つめているだけだった。
命は等しく、美しく、輝かしい。
ならばそれを宿したものも愛おしい。
だからこそ、最期は静かに眠りにつくべきなのだ。
静かな眠りを与えられなかった我らのようなものをこれ以上増やさぬように。
ただ輝く命を見ていた祈るものは、自分の傍の死体に祈りを捧げ弔った。




