大変美味にて
アレストリア国バーベリア領、そこの現領主の息子たちであるカリベルとユグートは、以前と変わってしまった領内を改めて巡っていた。
バーベリア領は決して広くない。他の領地に比べると小さい。しかし栄えていないわけではなく、むしろバーベリア領は食の美味しい領地として有名で人も物資もよく流れ、人々の笑顔の多い地であった。
しかし今はどうだろうか。
バーベリア領の一部がレスリア帝国に譲渡されたあの日を皮切りに、領民たちの暮らしは変わってしまった。
レスリア帝国の使者が来たあの日。使者が告げた領地の一部とは、バーベリア領の三分の一以上というとても一部とは言えないものだった。
その想定外の使者の言葉に現領主のフォンスタンは抗議の声をあげたが、そんな領主の声に使者は一言
「我が国王とアレストリア国王が決めたことですので。」
と応え、足早に謁見の場を後にしたのだった。
あまりにも一方的。しかしそれに否と言えない事実。使者が去っていた後に残ったものは、バーベリア領を治める者として不甲斐なさを嘆く一人の男だけだった。
どこでもない遠くを見つめる兄、カリベルにユグートはどうしたと尋ねた。
「この地に彼らが来た日のことを思い出してね……。」
そう応えたカリベルにユグートは低く唸った。
「あれは利権譲渡なんてものじゃねえ。ただの侵略だった。兄貴もあの時を実際に見ただろう?!そして今のバーベリア領も!」
最後は怒号になっていた。彼らの乗っていた馬たちは急な大声に驚いたが、背中に乗せた主たちを振り落とすことはなかった。
「町や村から前までの活気が失われている……特に譲渡された周辺は酷かった。人々は疲れていたね……元気なのはレスリア帝国から来た者たちだけだ。何も知らない子供たちに笑顔があったことが、唯一の救いだよ。」
カリベルはそう言って溜め息を吐いた。
利権だけではなく、主導権をも奪われた土地。そこは最早バーベリア領とは呼べないものとなっていた。
レスリア帝国の人々が大量に来たと思えば彼らは大きな壁を建設し、その壁内を知るものは出入りができるレスリア帝国の者たちのみ。そんな彼らは近くの町や村で騒いではその壁内へ消えてゆく。そうしてバーベリア領民の物資を食い荒らしていくのだ。
「俺たちでも壁の中には入れないとはどういうことだ?与えたのは利権だけだっただろう!最早あそこはバーベリア領ではない、レスリア帝国だ!」
ユグートの言葉にカリベルも同意する。
「このままではバーベリア領の全てが無くなってしまう。父上に改めて現状を伝え、どうしていくか考えをお聞きしよう。」
そう言って馬を走らせたカリベルに続きユグートも馬を走らせる。砂埃をたてながら、二頭の馬は主のために駆け出した。
「ここが最前線基地か……!」
「それ、なんだかくすぐったくなるなあ。」
レスリア帝国からバーベリア領まで移動してきた勇者たちは、連れてこられた基地の屋上にいた。
「はい、勇者様方。こちらが今最も魔物たちに近いところにある砦です。勇者様方にはこれからここから魔物の討伐に向かっていただきたく……。」
説明をしながら頭を下げる兵士長に、
「OK、任せろ!俺たちにはなんてったって神器があるからな。」
「これがあればこわいものなんてないわ。」
と口々に勇者たちが応える。
「ハッハッハ、心強い限りですな!さてさて、もうすぐ暗くなります。勇者様たちのために今夜は宴の場を用意しております。ここの食べ物は大変美味でしてな……勇者様方にも満足いただけると思います。」
兵士長はそう言うと、勇者たちをエスコートし始めた。
「異世界ウマ飯楽しみ〜!」
嬉しそうに騒ぐ勇者たちを、鳥たちだけが見ていた。




