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見えないみえない

 「ふと思ったんだが、俺たちが倒すべき魔王ってどんなものなんだろうな。」

夜の森、ある光は焚き火の炎と空一面に広がる美しい星々だけ。改めて異世界に来たことを思い知った勇者の一人がそう口にした。


 「あーそういえば聞いてないかも。っ!あっつ!」

 「出来立てホヤホヤなので気を付けて食べてくださいね〜!」

シチューの具とキスをした女に、盛り付けを担当した少女が慌てて声を掛ける。

 「魔王っていうくらいだから……やっぱりあれじゃないか?なんかこう……髑髏!」

 「髑髏はどっちかっていうと死神じゃないか?なんだろうなあ……。こう、やっぱりデカくて角が生えてて……人外?」

 そう話す男は地面に自分の想像している魔王像を描いた。それに口を火傷した女が口を出す。

 「え〜やっぱり羽も外せなくない?」

その意見を皮切りに、ドンドン意見は出されていき最終的に魔王像はとんでもないキメラとなった。その結果に勇者たちは大爆笑に包まれた。

 「こんなキメラだったら出会った瞬間逃げ出しそう〜!」

 「コレは勝てる気しないな!」

口々にそう話す勇者たちはとても楽しげだ。


 そんな輪から少し離れた一角に、静かに座りながら星を眺める勇者の少女がいた。

 「本当に綺麗な星……。」

元の世界では見られなかったその景色に圧倒的されながら、少女は自分に与えられた神器を握りしめる。

 「私はこの世界に来て、生まれ変わったんだ。私はここで生まれたの……。」

そう言うと、少女はぎゅっと自分自身を抱きしめた。





 

 荒れ果てた地を見下ろすように空中に浮く少年の姿のそれは、魔王マルベーリだった。眼下には焼かれ荒らされ破壊され尽くした、哀れな地が広がっていた。生命の息吹も感じることはない。

 そんな地を改めて見てから、目を閉じる。マルベーリの手が指揮者のように動き出す。すると風がふき緑の、生命の匂いが流れてきた。

 残骸は風で優しく流されて、地面からは次々と小さな芽が出始める。焼かれた大地には水が運ばれ潤い、そこからまた芽が出る。様々な植物が芽吹いてたちまち一体は花畑となった。

 マルベーリが腕を下ろし地上に降り立つ頃には、そこは動植物のあふれる楽園となっていた。

 降り立ったマルベーリをひときわ迎えたのは七色の角を持つ鹿だった。鹿はマルベーリに親愛と感謝を込めて頭を下げた後、鼻先をペロリと舐めた。

 「今回は秘密の大盤振る舞いじゃぞ。他に話すでないぞ?お主と我との約束じゃ。」

 その言葉に鹿は頷いた。

 「よし、良い子じゃ。」

マルベーリはその場にあった丸太に座り込む。すると動物たちがやってきて、マルベーリは直ぐ様囲まれてしまった。

 「おお、これは逃げられんな。うん?ここにもっと居ても良いと?ならば遠慮なく、暫くここでゆっくりさせてもらおうか。」

頭には何羽も鳥が座り、膝の上は小動物たちが席の取り合いをし、足元には狼や猪が横になっているという完璧な連携を見せた動物たちと話し、マルベーリはスッと瞳を閉じた。


 マルベーリは原初の生命体の純粋な最後の生き残りだ。神ではないため何でも出来るというわけではないが、人間は勿論のこと、魔族や龍、長たちでもどうにもできないことを平然とやってのける。

 マルベーリが神ではないのに生命を生み出せたのは、大地や緑と歩むことを決めた原初の生命体のおかげである。彼らはもう完全に大地や緑に溶け込んでいるだろう。しかし同胞であり、家族であり、仲間だったマルベーリのことだけは忘れられなかった。その意識が大地や緑に溶け込み、マルベーリの呼びかけに応じて目覚めるのだ。

 マルベーリは生命を生み出したように見えるが、厳密にいうと大地や緑に呼びかけただけである。


 昔は荒れた土地などを見付けたら直ぐにこういった呼びかけを行っていたが、王となった今では控えるようになっていた。

 それはマルベーリが長い時の中で実際に見聞きし、体験を重ね……王になった頃には滅多に行わなくなっていた。

 マルベーリが王としての責任や、最後の原初の生命体として今後の世界の成長を考えた時、この行為はよろしくないと思ったからだ。


 自分のこの行いは決して死者を蘇らせているわけではない。しかしこうして自分が干渉することであらゆる事柄の成長が止まるのではないか、と考えたのだ。

 また王として考えた時、この力は強いものだけの世界を作ってしまいかねないとも考えた。


 こうしてマルベーリ自らが生命に関わることに滅多に干渉をしなくなった。怪我は治そう。病気も薬を共に探そう。自らしか使えないものに頼ることは止め、皆ができることを共に行おうと決めたのだ。



 「人間は何故命を大切にしない、か。」

ルアルの咆哮はマルベーリの耳にも届いていた。



 「身近にあるものほど接し方は難しいものよ。……命は人間の身近にありすぎるのじゃ。そう、最早近すぎて見えないほどに……。見えないものを大切にすることの難しさを、誰が今の人間に教えられるのか。」

マルベーリはそう言うと、そっと自分の膝にある温かな体温に触れた。

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