表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

ゆくえ

 「…………っ!」

刺すように冷たい水に身体を囚われた青年を、冷たい眼差しでラスティーは見ていた。


 ヴェールトから昨日流されてきた手紙でこの青年のことは聞いていた。"怪しいやつがいるから水にきいてみろ"と。普段なら近くの精霊たちに任せたが、そのヴェールトの一文でラスティーは自ら出向くことを決めたのだ。

 ラスティーといえど、水の言葉はわからない。水に言葉があるかすらわからない。けれども水はあらゆるものを流し、姿を変えることができる。ヴェールトの"水にきいてみろ"というものは格好つけでも何でもない。そのままの意味だ。


 「我でも水の前では隠し事はできぬよ。」

そう笑いながら手を挙げていたマルベーリのことを思い出しながら、マルベーリは目線の先の青年に声をかける。


 「ヴェールトの勘も凄いけれど、あなたも凄いわね。獣人の土地でこんなに勝手できるなんて。」

 精霊からラスティーに青年の腕輪が渡される瞬間。


 「触るな!」

青年は初めて大声を出した。それにクスクスと周りで笑っていた精霊たちが驚き黙る。が、ラスティーはお構い無しに腕輪を握った。

 「……これ、あなたにとって相当大切な物なのね。獣人の長すら欺きかねないこんな魔道具が人間に作れるなんて……。」

 「……黙れ……!それは僕の……僕だけの…………なんだからな!」

首にも届き始めていた冷水が彼の喉を痛めたのか、青年の声は掠れていた。それに気付いたラスティーは青年への拘束を弱めた。

 「何?よく聞こえなかったわ。もう一度……」

その言葉の続きは突然の轟音でかき消された。


 轟音と共に現れたのは、仮面を被り翼を持った機械仕掛けの鳥……のようなものだった。大体のものはそれを鳥だというだろう。ただラスティーにはそれが鳥とは思えなかった。

 機械仕掛けといえど、足や翼のそれは鳥のものだろうと思えた。異様なのは胸元まで覆う不気味な仮面。仮面に仮面を重ねたような不気味で大きな仮面を付けたそれが不協和音を発する。

 その吐き気を催す音にラスティーを含んだ精霊たちは青年を捕らえているどころではなかった。精霊たちはたちまち散り散りになり、そこにはラスティーと青年、不気味な鳥だけとなった。

 

 「クルヴィさんのところの……!僕を助けに来てくれたんだ……!」

魔族であるラスティーですら吐き気などで立っていることもやっとなのに、人間である青年は元気に不気味な鳥に近付いて何やら声をかけている。

 「ここであったことを話します!僕を王都に連れていってください……!」

そんな青年の言葉に不気味な鳥は不協和音で応え、青年を載せて空高く飛び上がる。


 「……!ま、待ちなさい!まだあなたには聞きたいことが……たくさん……!」

目的を達成したであろう不気味な鳥と青年はそんなラスティーには目もくれず、忽ち雲の彼方へ消えていった。

 


 




 「……これが僕が獣人たちのところで見た全てです。」

レスリア帝国の王城の一室に、美女と青年の姿があった。

 「なるほど……。」

美女は一通り書類を書き上げ顔を青年に向けた。

 「上手くやったようですわね、キョウ様。さすがですわ!」

ニコニコと笑いながら自分を労る美女、クルヴィに青年は続ける。

 「神器である腕輪は失ってしまったけれど、獣人たちのところで魔族の文字や言葉を少しだけ教わりました。僕はまだまだお役に立てます!」

そう笑った青年に返されたのは、クルヴィの刃物のように鋭く冷たい眼差しだった。

 「キョウ様、今なんと?」

青年は戸惑いながらも言葉を絞り出す。

 「えっと、魔族の文字や言葉を学んだので……。」

 「その前ですわ!!」

青年が初めて聞くクルヴィの大声に驚いていると、クルヴィは立ち上がり、ダン!と大きな音を立てて筆記類を机に叩きつけた。

 「あんな唯一無二の貴重な神器を失う……?あなたは馬鹿なんですの?!ハズレばかりの勇者モドキたち、価値なんて神器を扱えることくらいなのに、その神器を失う愚か者の多いこと!」

今まで聞いたことのないクルヴィの声と言葉たち。

 「どうせあなたも元の世界では履いて捨てるほどいる夢見人の一人……。何の役にも立たないだろうとこちらの世界へ招待しても、結局役立たずは役立たず……!」

 身体を震わせて怒るクルヴィの姿と、紡がれる言葉に青年は混乱していた。

 

 勇者モドキ……?何の役にも立たない……?

青年の脳裏には、自分がこの世界に召喚された時のことが過っていた。


 「あなたたちは私たちがずっと待ち望んでいた勇者です!」

 そういったのは誰だろうか。


 「あなたたちは特別な存在なのです!」

 そういわれたのは、何なのだろうか。


 「私たちは歓迎します!」

 そういわれたのは……。


 青年の顔には、もう絶望しかなかった。

クルヴィはそんな青年など知らずに問い詰める。

 「神器が無くてあなたが生きている!さあ、お言いなさい!誰に、お前の、神器が奪われた?!」

クルヴィは力無く座る青年の襟元を掴み無理矢理自分に視点を合わせる。犬歯を剥き出しにして詰め寄るその言動は、青年からすれば化け物だった。

 「言え!お前の神器は今、何処だ?!」

 「……クルヴィさんの、機械鳥が来たときにいた……美しい、あの……ひと……。」


 人とは言ったけれど、あの美しい方は人間ではなかった。でも……美しかった……あれは……僕が今まで見てきたなによりも。

 クルヴィにほっぽり投げられた青年は絶望の中に、あの美しい人魚のことをボンヤリと思い出していた。


 「ザッシュ、あの時の映像を……。なんてこと?!よりにもよって、長であるあのラスティーに……!本当に腹立たせる!!」

機械鳥の分鳥であろう小型の機械鳥に映像を出させたクルヴィは驚き、怒りを増幅させた。

 「まだ"あれ"が魔王にバレるわけにはいかない……!」

 ならば、クルヴィが取る方法は一つだった。



 「フゥー…………。役立たずだけれど、使い道がないわけではありませんのよ?一応あなたも"勇者"ですので。最期にあなたに価値を見出して差し上げましょう。ただし、私を怒らせ手間取らせた罰はしっかり、たっぷり受けていただきますわ……。」


 

 最期にもう一度だけ、美しいものをみたかった。

青年は静かに瞳を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ