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ある青年の独白

 僕が何かの物語に人間として出てくるとしたら、名前もない背景に溶け込んでいる透明人間のような存在で出てくるのだろう。

 それくらい僕は僕の立ち位置をよく理解していた。




 昔からそんな立ち位置だった。

 特別何かが秀でているわけでもない。だからといって何かが劣っているわけでもない。友達がいないわけでもなく、特に尖った特徴もない平々凡々な人間。それが僕だった。

 そんな僕の憧れたものは、漫画やゲーム、小説に出てくる魅力的なキャラクターたちだ。魅力的な彼らは各々がみんな、僕には無い"何か"を持っていた。


 人間は強欲とはよくいったものだ。

 自分に無いものに、人間は憧れ強欲になる。


 僕は彼らに魅せられ憧れた。人によっては僕が持った感情をきっと"恋"やら"愛"に例えたのではないだろうか。

 そうして僕は彼らがたくさん現れる物語たちに惹かれていき、僕の部屋には彼らの物語が記された漫画やゲーム、小説たちが積み上げられていった。

 毎日彼らの魅力に触れ続け、僕自身も彼らの一員となって冒険をすることが、叶わないと知りながらも僕の夢となっていた。

 


 口にすれば笑われる。それが僕の夢だった。



 そんな夢を抱いたまま、そう変わらない日々を過ごしていたときだった。僕に転機が訪れたのは。


 気が付いたら、そこに僕は立っていた。

 周りには頭を抱える人や呆然とする人たちがいて。見知らぬ人がそんな僕たちを"勇者"と呼んだ。

 "勇者"。それは僕の惹かれたキャラクターたちにも付けられていた呼び名だった。

 物語のような世界。物語のような武器。物語のような、夢のような呼び名。


 「あなたたちは勇者です!」

 ここでは僕の夢は笑われることはおろか、現実になったんだ。



 

 僕に与えられた武器の効果は"身に付けれると子どもの姿になれる"というものだった。

 派手に魔法を放つ仲間たちを見てしょぼくれていた僕に、武器を与えてくれた人はこう言った。


 「あなたの武器は特殊で特別なものです。そんな武器を持つあなたにしかできない役割があるのですが……引き受けてはくださいませんか?」

 僕の心を惹きつけ動かすには充分すぎる言葉だった。



 僕に与えられた役割は"スパイ"。

 子どもの姿になり敵の懐に潜り込む、僕にしかできない役割だと言われた。


 その役割を受け入れた僕は色んな物語で得た知識を使い上手く敵の村に潜り込むことができた。

 僕にはこんなに素晴らしい才能があったのだ!と感動した。僕は透明人間なんかで終わる人間じゃなかった!こんなことができる人間だったんだ!

 僕は優しくしてくれる潜入先の獣人たちを知りながらも、彼らの目を盗んで色んなものを見聞きし、触れた。

 いずれ僕をこのスパイという勇者の役割を与えてくれた人たちに感謝として情報を伝えるために。


 

 僕なりの勇者としての行動はとても順調だった。

 長くは続かなかったけれど。


 ある日"獣の長"と呼ばれるやつが来た。

 僕はそれが思っている以上に偉いやつだと知ってチャンスだと思った。スパイという勇者が探る相手として、そこまで偉いやつの情報を得るということに、高揚感を覚えないわけがなかった。


 僕はドキドキしながら獣の長を待っていた。

 それが間違えだった。待つべきではなかった。僕は逃げるべきだったんだ。


 獣の長と目が合ったとき、僕は恐怖した。

 僕は蛇に睨まれた蛙だったと思う。あの目は"子どもの僕"は見ていなかった。確実に"僕"を見ていた。"何で僕を見ているんだ?"等という疑問とともに足元から恐怖で冷えていく感覚に襲われた。



 そこからはあまり記憶が無い。

 気が付いたら獣の長はいなくなっていて、なんだったら次の日だった。

 僕は直ぐにここから逃げ出そうとしたけれど、子どもの僕は雑用を頼まれてしまった。雑用は水汲みだった。


 天は僕を見捨てなかった、と思ったんだ。


 水汲みをするフリをして逃げようと思った。

 が、それは叶わなかった。


 



 「あなたは何者なのかしら?」

 武器を取られた僕を、美しすぎる人魚が見ていた。



 

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