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ある男  作者: 井上
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ある図書館の本

 突然だが、おれはほとんど図書館にはいかない。なぜならこれまで近くになかったからである。


 行こうと思えば行けるが、そんなわざわざ行くようなものでもないので、ここ数年、いやそれ以上かもしれない、は本というものにほとんど触れてこなかった。


 しかーし、なんとめでたく、おれが住んでいる街に図書館がやってきたのだ。しかも一応誰でも使用可能。つまり宿暮らしのおれも使えるわけだ。そして今日は仕事がない。これはもう、世界が図書館に行けと言っているのではなかろうか。


 まあそんなわけないだろうが、それでもタイミングがいいので今日は図書館に行くこととする。


 デカ! 広! そして警備体制も万全だ。本は人間の歴史の集大成だもんな。そりゃ警備もしっかりしてるよなーと思いつつ、おれは善良な民です盗みも殺しも詐欺もしていませんという顔をして扉をくぐる。……いや、殺しはしたことがあったな。


 ともかく、建ったばかりというのもあって、匂いも新築独特の匂いがした。


 だが匂いなんてどうでもいい。今のおれの興味は本にのみ向けられている。


 おれが一直線に向かったのは神話関連の本があるエリアだ。ふとしたときから、昔のことがどう言い伝えられているのか興味があった。それが今日解決するわけだ。


 とりあえず適当に一冊選び、近くにあった椅子に座りページをぱらぱらとめくる。


 へぇ……ほぉ……ふーん……。


 だいたい読み終えるとパタンと本を閉じ、内容をもう一度脳内でなぞり、思案する。よって出た結論は、おれが知っている歴史とかなり近い解釈と流れで書かれていた、ということだ。このあと他の本も確認してみたが、ところどころニュアンスは違えど似通った内容だった。


 おれは昔から生きているので歴史はそんじょそこらの人間より詳しい自信があるが、これほどきれいに書かれているのも気持ちが悪い。本来ある程度のミスはあるだろうに。


 とりあえずこれで頭にあった疑問はなくなったので他の本を見に行こうとしたら、身分の良い人たちから庶民は来るな的なことを言われたので素直に出ることにした。まったく、腹立たしい。罵倒されたことではなく、その罵倒に何もできない自分が腹立たしい。


 もっともこんなことを言ったってしょうがないので、このまま帰ってねる。そう決めた。

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