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ある男  作者: 井上
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ある面倒事の結果

 うーん困ったな。


 右方に敵。左方に敵。前方に敵。後方に敵。


 なるほど、これはいわゆる詰みと言うやつだろう。あるいは四面楚歌とも言う。


 だがおれの心内は無そのものだ。まるで朝夕の水面のように穏やかだ。


 こうも敵に囲まれている理由は大体検討が着く。恐らく先日の謎の少女を救出した事だろう。今から考えたら、あの老人は老いしかの将軍だったんだろう。昔、アイツはなぜかおれをみて愉快そうに笑っていたからな。おれをある程度買っているとみえる。


 というか、そうじゃないと今こうしてあまりにも過剰すぎる戦力に囲まれている理由が説明できない。


 昔こそはこの戦力などいなせたかもしれないが、今はそのような力はない。いわば、おれは眠れる獅子なのである。もっとも、その眠りは永眠であるが。


 まあ、そんなわけなので、いまのおれにはあれらは殺せないし何もできない。同様に、あれらもおれに危害を加えることもできない。


 ……よくよく考えれば、あれらがおれに危害を加えることができないなら、「お前らなんて怖くないんですけど」という面をしてつかつかと薄暗い道を抜ければ済む話じゃないか。そうと決まれば、よし、心を決めて、何食わぬ顔で足を踏み出す。


 それにあれらは反応し、矢やらをおれに向かって放ってくるが、哀しいかな、突風が吹いたり、すこし角度が悪かったりして、矢はすべて当たらなかった。少々のざわめきが耳に入るが、そんなものお構いなしである。にしてもこの程度でざわめくとは、もしや、烏合の衆なのだろうか。確かに数は重要だが、それでも質も大事だぞ。


 どうやら、矢はすべて放ってしまったらしく、とうとう直接攻撃しに来た。が、足をすべらせたり、踏み出そうとして足が引っかかり派手に転んだり、手に持っていた剣がからすに奪われたりと、これもまた失敗に終わった。


 当たり前だ。世界がおれに変化が起きることを許さない。


 そうこうしているうちに、おれは大通りに出た。ここまでくれば、もう安心だろう。後ろを振り返ってみても、追ってはここまで来ていない。周囲の人もおれのことをなにか特別な目で見てくるわけでもない。


 更に後にまた行動を向こうが起こすかもしれないが、それも今は関係ない。


 こうして危険地帯から抜ければ、あれらに対し腹が立ってきた。これは良くない。こういうときは美味しいものを食べると、ある程度落ち着くと相場が決まっている。


 腰元の金があることを確認し、おれは食堂に入っていった。

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