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ある男  作者: 井上
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ある雨の日の夜

 まったく、じめじめとしていて敵わない。


 窓の外をふいとみれば、雨粒が窓をつぅと幾本も流れている。その更に上は淀んだ雲天だ。


 雨は嫌いだ。しかし、この季節は嫌いでは無い。嫌いと好きが同時に存在するこの時期はいつもおれを悩ませる。


 それを気から逸らすように、俺は手元の木細工に再び目を向けた。おれは基本的に外で働いているのだが、雨だとどうしようも無いので、だいたいこういう小物やらを作成している。最近は人形が評判だ。何に使うのだろうか、女子のごっこ遊びだろうか。


 いろいろと思考を巡らせながら無心に手元を動かし木を削る。不注意というのは本来良くないものだが、どうもおれは怪我をしないからかその辺が疎かになってしまう。


 不注意が良くないのは怪我をするから、おれは大して注意しなくても良いのでは……と心の中で誰が聞いている訳でも無いのに色々と言い訳をした。


 がらがらと水車が回っている。おれが川にのまれる心配はしていないが家はどうかよく分からない。その不確定要素がおれを若干心配にさせる。


 無心になって作業をしていると、案外時は経つもので、手元が見づらくなったと、窓を見ればもう雨は止んでとっぷりと日は沈んでいた。


 一日というのは早いものだ。それは昔から変わらない。鍬の手入れを軽くし、いそいそと布団の準備をする。道具類を片せば、寝巻きに着替え就寝した。


 ……しかしながら眠れない。たまにこうも寝付けないある。これは平常の範囲内だ。


 おれが体調を崩すことは無いから、そういう時は窓を開け放しひたすら夜空を見つめていることが多い。そうしてると、いつの間にやら座りながら寝ているのだ。もっとも、健康的では無い。


 普段は夜空を見つめたって何も無い。ただ、今日は違った。


 しゃんしゃんと夜空に光が何筋も通る。ついつい目が冴えてしまった。


 そうか、今日は流星群の日だったか。前に流星群を見たのも、この家ににたような、川のそばにあって水車がある家だった。


 あの日は緩やかな丘に寝転び、途中で飽きて家に帰っていた。今日は家で、最後まで見てみよう。どうせおれに時間は沢山あるんだから。


 今日ばかりは、世界に祝福されているような、そんな錯覚を覚えてしまった。

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