ある坑道の事故
ツルハシって、重いな。
ふぅ、と息を吐き出し小休憩をとる。作業を初めてからどれ程時間が経っただろうか。
松明がバチバチと音を立て燃えている。それ以外の光源は無く、あたりを薄暗く照らしている。足元におれの汗がたれ色を落ち込ませた。
確かに、だいぶ苦労のする肉体労働ではあるが、案外気は悪くしていない。やはり、この手の仕事が性に合うのだろうか。
坑道は音が聞こえやすい。遠くの音も響き響いてここまで届いている。さて、これ以上休憩をとっていては監督がきて怒られるだろうから、再開することとしよう。
腰を据え、よっこいしょとツルハシを持ち上げたその時、轟音と大きな揺れが鉱山を襲った。しばし困惑したあと、あぁ、ガス爆発が何かと理解する。同じ坑道にいる者共が音がなったであろう方向を心配そうに覗き見る。そら、あいつなんか泣きかけている。
ヒュウヒュウ、ゴウゴウと風が吹き荒れる音があたりを包んだ。しかし、感じるのは音だけで、そこにあるはずの風も炎もなにも見えない。
気になる……が、こういう時は動かぬが己にとっても皆にとっても吉とされるとおれは思う。
でも気になるもんは気になるので、せめて音だけでも周囲を把握しようと、手を耳に当て耳を澄ます。あ、あの声は叫び声だろうか。泣きかけていた奴がひぃと情けない声を漏らした。
(おれは運がいいな)
爆破が起きてからだいぶ経ったが、何も、おれらには被害が及んでいない。というか、おれのいる道に奇妙な程何も起きていない。空気の状態も周囲のヤツらを見る限り変わってないようだ。それに、鳥もまだ鳴いている。
(まるで茶番だ……)
おれは顔を顰め壁を殴った。
ここからは後に聞いた話なのだが、どうやらおれがいた道以外は全て何かしらの被害を受けたようだ。キレイに何も起きていないのは、おれの所だけだと。がれきも煙も炎を、まるでなにかに導かれたように逸れていたらしい。
こんなこともあるものなのだな。おれは久しぶりに過去を想起した。




