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ある男  作者: 井上
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ある夢の話

 夢だ。


 夢を見ている。


 おれは何も無い空間に立っていた。辺り一面真っ白で、自分の体と、立っているという感覚だけがあった。


 夢だと気が付かぬうちは、誰かとなにか話していたような気がする。辺りを見回して見たが特に何も誰もいない。おれは不気味に思った。まあ、不気味もなにも、そもそもこれは夢なのだから、不可思議なことが起こって当然ではあるのだが。


 しかし、夢だと気がついたのに、周りの状況が変わる事も、目覚めることも無かった。おれは仕方なかったのでその空間を歩いていくことにした。奇妙な感じだ。感覚はあるのに、この空間はどうも現実味にかける。夢だといえばそこで終わりだ。しかし、おれはなぜかこれはただの夢ではないと考えていた。


 なにか、懐かしさを感じる。かつて昔もこうした場所にいた気がする。


 おれはもう悠久の時をすごした。その大半がいまのこの状態(・・・・)、というのが気に食わないがその気持ちも対して激しいものにはならないはずだ。この身にある呪いのせいで。


 ――……忌まわしい……――


 しかし今ばかりはなぜだか怒りが湧いてくる。そりゃ、普段だって多少イライラすることはある。それでもこんなに激昂することはない。おれは手元にいつの間にか剣を持っていることに気がついた。さっきまでこんな剣は持っていなかった。なぜだろう?


 それに、この剣は見覚えがある。そうだ、この剣は――――。


「■■、息災か?」


 不意に後ろから声がかかった。


 はじめの単語はうまく聞き取れなかったが、おれはそれが何を指すかすぐにわかった。ああ、おれはこの声を知っている。そうだ。ここは……。


 振り返って、おれがそいつの名前を呼ぼうと、口をひらき、そいつの目を見つめた瞬間地面が揺らいで視界が歪んだ。おれはその世界で意識を保てなくなって、そのまま意識を失った。



〜〜〜〜



 目覚めたときおれは強く頭を打った。痛い……。


 目覚めれば、先程の呪いへの激昂も失せていた。


 外を覗いてみれば、まだ真夜中だった。おれは外を眺めながら、旧友に会えたことで生じた、その僅かな喜びを噛み締めていた。


 ところで、あのときあいつは、なんて言っていたんだっけなあ……、聞いたその時は、わかっていたのになあ。

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