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ある男  作者: 井上
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ある魔術師の清算

 きっと、おれには気がついて無かったんだろう。回りの兵が倒れ伏す中、おれだけが戦場で立っていた。皆、目耳鼻から血を垂れ流し苦悶の表情を浮かべていた。


 おれの視線の先には一人の魔術師が居た。あの顔は見覚え、というか、誰かの面影を感じる……誰かまでは分からない。


 アイツを討伐するのが今回の任務なのだが、依頼主の想定よりも魔術師が強く、御覧の通りこの場は地獄絵図と化している。


 回りの様子を伺う限り、状態異常魔法の使い手だろう。精神を錯乱させその隙に毒で体を侵すという具合だろうか。


(悪趣味な魔法だ)


 心中で舌打ちをした。


 課せられた任務は可能ならば果たすべきだ。そして、おれは今それが可能だ。足を魔術師の方に運ぶ。いまおれの存在に気がついた魔術師が恐怖する。何かを呟きおれに毒弾を打ち出した。


 なるほど、大きさ速さ精度威力、どれをとっても申し分ない魔法だ。


 相手が普通の人間なら。生憎、おれは普通の人間でもましてや生き物でもない。


 おれの直前で毒弾は霧散する。


 魔術師が動揺したのが見て取れる。おれは更に足を進める。


 魔術師は精神錯乱の魔法を唱える。だが、おれには効かない。焦りが顕著なものになる。


 おれは剣を抜いた。ぎらりと光を反射し妖しげに光った。魔術師の顔が恐れに歪んだ。


 屍を踏み、魔術師の傍に到る。哀れにも、彼は腰を抜かし涙を浮かべていた。自らの持ちうる全てが通じなかった、それに対し恐れをなしている。そして、そのそれというのがおれだ。


 こいつは何の罪もなかった。ここにこうして転がっている屍も、無実のこいつを襲ったからこうなった。


 しかしこいつには業がある。先祖が作った、血筋を絶やすほどの償いをしなければならないものがある。らしい。これは依頼主からおれだけが聞いた話だ。


 魔術師は最後の足掻きに魔法を発動させようとするが、震えて上手く唱えられていない。


 おれは魔術師の心臓に剣を突き立てた。赤い血で装束が染まる。瞬きをすれば、それは肉塊に成り果てていた。


 おれは剣を抜き、その場を後にしたのだ。

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