◆ 8話 カズマの買い物 その1
「ちょい大事な話あるんやけど」
昼休み。
俺が自分の席で昼飯を食べていると、カズマが深刻な顔をして話しかけてきた。
「どーしたんだ? 真面目な顔して」
「あのな…」
カズマは言いにくそうに、もじもじとしながら、
「付き合ってくれへんか?」
と言った。
…はっ!?
「どーゆー意味だ? 返答次第によってはお前の命は無いと思え!」
「そのまんまの意味や!」
カズマは少し熱っぽいような、真剣な瞳で俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。
なのでとりあえずこのバカの眼球にちょうど食べていたホットドックのマスタードを塗ることにした。
「ぐあぁぁぁあ!! 目がぁぁ! 目がぁぁぁぁ!!」
「カズマお前・・・ 俺のことをそんな目で見てたのか?」
「はぃ?」
「前々からそーじゃないかとは思ってたんだが、 まさか本気だったとわな」
「え? なにが?」
「悪いけどお前の気持ちには答えられないぞ、俺にそっちの気はないんだ」
「だからなにがやねん!? ふざけてやんとちゃんと話聞け!」
「なんだよ?」
「だから付き合ってくれって!」
「お前とだろ?」
「オレに! や! もうすぐ妹の誕生日やから、プレゼント買いに行くんに付き合ってくれってことや!」
「あぁ… なら始めからそー言えよ。変な勘違いしちまったじゃねーか」
「わかるやろ普通!? まぁええわ。んで放課後空いてるんか?」
「まぁ空いてるけど… 何か用でもあるのか?」
「だぁかぁらぁ! 妹の誕生日プレゼントを買いに行くって言ってんねん!」
ほとんど発狂しながら大声で叫ぶカズマ。
こいつからかうのって楽しいんだよなー
「わるいわるい! 大丈夫だあいてるぞ」
「はぁ、んじゃとりあえず放課後なー」
大袈裟にため息をつき、カズマは教室から出て行った。
放課後。
「それで、あんたの妹は好きな物とかないの?」
腰まである艶やかで長い黒髪を揺らしながら俺の前を歩く先輩が、俺の隣にいるカズマに質問する。
俺たちは今、近所にあるそれなりの広さを誇るショッピングモールに来ている。
なぜ先輩がいるかというと、ここに来る途中に学校帰りの先輩とモエに偶然ばったりと会ってしまい、なんやかんやでなぜかニ人も一緒にプレゼント探しについてくることになったからだ。
なんやかんやっていうか強引に先輩がついて来ただけだけど。いつもなら迷惑なこの行動も、今回はもしかしたら当たりかもしれないな。
正直プレゼント選びなんて俺にはできないし。
「んー あんま知らないっす」
俺たちはとりあえずショッピングモールをぶらぶらしながらカズマの妹のプレゼントを探すことにした。
「妹の好きな物くらいわかっときなさいよ。そうねぇ、わからないんならモエに選んでもらえば? 同じ妹どうし趣味合うんじゃない?」
と、なにやら理不尽な理屈をのべる先輩。
「そうすか? んならお願いしよっかな。ええか?」
そう言ってカズマは、一番後ろを歩いていたモエの方に振り向く。
「おりょ?」
「どした?」
変な声を出すカズマに若干引きつつ、俺もつられて後ろに振り向く。
「あれ?」
モエがいない。
「どこ行ったんや?」
「さっきからいなかったわよ? はぐれたんじゃない?」
カズマの疑問に前を歩いていた先輩が答える。
「モエがいないの気付いてたんですか?」
「当たり前じゃない? 私はモエのお姉ちゃんよ?」
先輩は腕を組み、俺を小ばかにしたように答える。
当たり前なのか? ていうか姉ならなおさらいなくなったのにあせるべきだと思うんですが。
「いないってわかってたなら早く言ってくださいよ。何かあったらどーするんですか?」
「いいじゃない、いつものことだし」
自分の妹がいなくなったというのに、まったく動じた様子も見せない先輩はどこまでも冷静だ。
モエがいなくなるのってそんなによくある事なのか? まぁ確かに納得はできるかもな、なんかあいつちょくちょくぼーっとしてるし。
「とにかく捜しましょう! まだ近くにいるかもしれませんし」
「どっかで絡まれてるかもしれんしな」
「今どきそんなヤツいないでしょ」
「そっすよねぇ」
冗談を言ってけらけらと笑うカズマと先輩。
どーして二人ともこんな冷静なんだ? 心配じゃないのか?
あーもーしかたない。やっぱり俺はこういう役回りなのな。
「心配なんで捜してきます」
俺はほんわかムードの二人にそう言って、今来た道を戻って行った。
「いた」
それから10分、色々と探し回ってようやくモエを見つけることができた。
道の真ん中で不安げな顔をしてキョロキョロとしているモエに近づいて話しかける。
「おいモエ、先輩が心配して… なかったけど探しにきたぞ」
「ぁ、シュウ君!」
モエは俺の姿を見たとたんぱぁっと笑顔になる。
「こんなところで何してるんだ?」
「ぇっと、みんなの後ろを歩いてたら、急に女の子に服をつかまれて… 気がついたらみんなもういなくて…」
どんどんと声が小さくなっていくモエ。
気がついたらって… やっぱりかって感じだ。
「女の子って、知り合いかなんか?」
「うぅん知らない子。道を聞かれたの」
「…ちょっと無理がありすぎじゃないか? うそをつくならもっとましなうそを―」
「違うよぅ! ほんとだよ? 背がこれくらいで、髪がこんなで目が透き通ってるみたいなまるでお人形さんみたいな女の子!」
モエは手をぶんぶんと振り回して、必死にその女の子を再現しようとしているが、残念ながら全く伝わらない。
先輩もモエも、テンパると色々と動作が大きくなるようだ。
「で、その女の子はどーしたんだよ?」
「道を教えてあげたら何も言わずに、頭だけさげてどっかに行っちゃいました」
「うそくさ」
「ほんとなんですよぅ…」
モエは涙目になりながら訴えかけてくる。
なんでそんな必死なんだよ。正直本当とか嘘とかどうでもいいんだが。
「わ、わかったから泣くなよ。ほら、先輩のところに戻るぞ」
「ほ、ほんとにほんとなんですよぅぅぅ・・・」
こうして俺は、涙目で必死にほんとほんとと唱えてくるモエを無理矢理連れて歩き出した。