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◆ 7話 プライドって・・・


 日曜日。


 朝、目が覚めた俺はいつも通り自分の部屋からリビングへ行く。


 親は共働きで家には誰もいない。相変わらず静かだな、この家は。


 洗面所へ行き、鏡に写った寝起きの自分の顔を見る。 そして今日も相変わらず無愛想な顔だな、俺は。


 今日もいつもと同じだな。


 ・・・いや、何か違う、今日はいつもと何かが違う気がする…


 なんだ、この違和感一


「暗いわ!」


「ぅわっ!? せ、先輩!?」


 いきなり背後から怒鳴りながら延髄チョップをお見舞いしてくる先輩。


 先輩は俺が軽く脳震盪を起こしてしゃがみこむと、その上から俺を踏みつける


「暗いのよ! 始まり方が! コメディーでしょこれ!」


 始まり方? コメディー?


 食いつくと長くなりそうなので、とりあえずその不思議ワードは無視して立ち上がる。


「先輩」


「なによ」


「ここどこかわかってます?」


「ブラジル」


「惜しいですね。答えは日本にある俺の家です」


「あらそうだったの?」


「実はそうだったんですよ。で、どっから入ったんですか?」


「合いカギよ!」


 そう言って自慢げに我が家のカギとそっくりなカギを俺につきつける先輩。


「どーして合いカギなんか持ってるんですか!?」


「つくった」


 平然と答える先輩。


 合い鍵なんていつの間に…


「そんな軽々しく言わないでください。犯罪ですよ? 不法侵入って知ってます?」


「うるさいわねー 男のくせに」


「男とか女とか関係ありません。とにかくこれは没収しときます」


 目の前にある先輩の手からカギを奪い取る。


「あ、返しなさいよ!」


 両手を伸ばして鍵を奪い取ろうとする先輩。


「ダメです」


「じゃあいいわよ!」


 あれ、あきらめるの早いな、もうちょっとねばると思ったのに。


「まだいっぱいあるし」


「なんか言いましたか?」


「何も言ってないわよ?」


 両手を大袈裟に広げてとぼける先輩。


「そうですか。それで、こんな朝早くからこんな強盗まがいなことしていったい何の用なんですか?」


「知りたい?」


 目をキラキラと輝かせる先輩。


「知りたくないです」


「聞きなさい!」


 そう言うと思ってました。


「今日はこれで遊ぶわよ!」


 そう言った先輩の手には、いつの間にか首輪のような物と画面が大きい携帯電話みたいな物が握られていた。


「…それ、どっから出したんですか?」


「さぁね。とにかく行くわよ! 5秒で用意しなさい!」


 なんて無茶をマジ顔で言う先輩。


「無理です」


「やってみないとわからないでしょ! さあ早く!」


 あぁもうしかたないな。歯磨きして顔洗って寝癖直して・・・ 五分もあれば大丈夫か。


「はぁ、わかりました。じゃあ今から用意しま一」


「はい5秒たったぁ! さぁ行くわよ!」


「ぇえ!? ちょ、ま、無理ですって! まだ何もしてな一」


ゴン 


「ぐぁ!」


 突然後頭部に衝撃が走り、俺はそのまま意識を失った。






「ぅぅ…ん?」


「…ぁ」


 目を覚ますと、なぜか目の前に先輩の顔があった。


「…何、してるんですか?」


「ぁ、ゎ、ち、違うのよこれは!」


 先輩は顔を真っ赤にしてものすごい勢いで後ろに跳ねて俺から離れた。


「何が違うんですか… てゆーかここどこ?」


 周りをみてみる。 公園か?


 そこはそれなりに広く、ブランコやすべり台などの遊具がある所と、何もない芝生のみの広場とがある。ぁ、家のそばにある大きい公園かここ。


 そして俺は今、芝生の上に寝転がっている。


 ん? さっきまで自分の家にいたような… 確か先輩に急かされて・・・


「違うのよ? 私は寝顔がかわいかったからちょっと見てただけで、別にその、顔に落書きしてやろうとか思ってたわけじゃないのよ!?」


 先輩はなにやらテンパってわけのわからないことを言っている。


「先輩、聞いてますか? 変な薬でもやりました? の○ぴーですか?」


「まぁたまにあたしだってねこんなんがあってもいいと思うわけよ」


 完全に無視だな。 なんかこーゆーとこモエに似てるかも。


 しかたない、とりあえず起きるか。んでなぜか寝起きの格好だし着替えに戻るか。


 そう思い、重い体を動かしてなんとか立ち上がる。


「―ッ!?」


 しかし立ったのとほぼ同時に頭に激痛が走り、俺はその場に膝をついて崩れた。


「だ、大丈夫!?」


 それにこっちの世界に戻ってきた先輩が心配して駆け寄ってくる。


「正直大丈夫じゃないです。ところで先輩」


「な、何よ?」


「俺に何かしましたか? 先輩が現れた辺りから記憶がない上に、後頭部にとても激しい痛みを感じるんですが」


「別に何もしてないわよ?」


「ならなぜ俺と目を合わせようとしないんですか?」


「そんなことないわよ? そ、それより早くこれで遊びましょ!」


 先輩は強引に話題を変え、さっきの首輪と携帯電話みたいなものを取り出す。


「はぁ、ところでそれ、いったいなんなんですか?」


「これ? これはね―」


 先輩は首輪&携帯電話みたいな物の説明をしてくれた。




「つまり、先輩の知り合いが勤めてる会社の新商品であるその犬語翻訳機(いぬごほんやくき)を実際に使って、不具合がないか確かめればいいわけですか」


「そーゆこと! この首輪を犬につけると、こっちの画面に犬の言ったことがでてくるのよ」


「へぇ~」


 ちょっと面白そうだな。


「じゃあさっそくそこらへんの犬にこの首輪をつけてきてちょうだい!」


 首輪を俺に手渡し、にっこりとはにかむ先輩。


「やっぱり俺が行くんですか?」


 まぁなんとなくわかってたけど。最近しっかりパシられ癖がついてきたなぁ。


「当たり前じゃない! なんのためにあんたを呼んだと思ってるの?」


「一人じゃ寂しいから」


「ばっ、ばか! そんなんじゃないわよ!」


 あ、デレた。


「ほら! 早く行きなさい!」


「はいはいわかりました」


 顔を赤くした先輩に急かされ、俺はしぶしぶ犬さがしに出発した。




「いない」


 その後、一度家に戻って用意をして、それから10分ほど周りを探したけど犬はみつからなかった。


 しかたない、先輩の所に戻るか。




「お、シュウや!」


 先輩の所へ戻る途中、俺は聞き覚えのある声に呼び止められた。


「ん? なんだカズマか。変質者かと思った」


 振り返ると同じクラスのカズマが、ジャージのズボンにTシャツとゆーラフな格好で立っていた。


「うわ、いきなりひどいこと言うなぁ。ってかこんなとこで何してるん?」


「見てわかるだろ」


 俺は大袈裟にため息をつき、首を振る。


「あぁ~ アヤカさんか、二人とも本間仲ええなぁ。ほんで今日は何させられてるん?」


「野良犬を捕まえろってさ… ぁ」


 いいこと思い付いた。


「カズマ、ちょっとばかし頼みがあるんだが…」


「ん? なんや?」




「行ってきましたよ」


「遅い! それで犬は捕まえてきたんでしょうね?」


 先輩はこっちに背を向けて犬語翻訳機をいじりながら返事をする。


「はい、これです」


 そう言って俺は犬、になりきってよつんばいになっているカズマを先輩に差し出す。


「わん!」


 カズマの鳴き声を聞いた先輩は、一瞬ビクッとして驚いたあと、ゆっくりとこちらを振り返った。


「…へぇ~、犬、ねぇ、これが?」


「は、はい…」


 俺はギロリと睨みつけてくる先輩から目をそらす。


「ほれ」


「へ?」


「お手しなさい、お手。さぁ早く。犬ならできるでしょ」


「く…」


 先輩はカズマの前に手をだしてひらひらさせる。


 しかしカズマは人間としてのプライドが邪魔をしているのか、なかなかお手をしない。


 先輩、あんたなんて挑発的なんだ!?


「わ、わん・・・」


 そしてようやく自分のなかで納得のいく答えがでたらしいカズマが、先輩の手に自分の手をのせようと、プルプルと震えながら右手を持ち上げる。


「ふっ」


 それを見た先輩は冷たい目でカズマを見下し、鼻で笑う。


「ぐおぉぉ! 無理やぁ!」


 あ、カズマが折れた。


「ったく役に立たないわねぇ! ちょっとでも期待した私がバカだったわ!」


 そんなカズマを見た先輩は痺れを切らして立ち上がる。


 そしてカズマを道に転がっている小石でも見るような目で見下し、一言。


「お手もできないなんて犬以下ね! この豚野郎!」


 先輩はどこぞの女王様よろしく、カズマに冷たく言い放った。


「ぶ、豚野郎やて!? さすがアヤカさん、相変わらずなかなかのドSっぷりやな…」


 立ち上がりながら言うカズマ。


「……」


 しかし挑発もむなしく、先輩はカズマを無視してポケットから笛のような物を取り出した。


「シュウこんなのがあったわ」


「ぇえ!? 無視すか!?」


 無駄に吠えるカズマ。ぉお犬らしくなってきたな。


「なんですかそれ?」


「犬笛よ。知り合いの人が困った時は使いなさいって機械と一緒に渡してくれたの」


「なら先にだしてくださいよ…」


 俺の努力はなんだったんだ… まぁ別に何もしてないけど。


「忘れてたのよ。まあみてなさい」


 そう言って先輩は悪ぶれる様子も無く、犬笛を吹いた。 が、何も聞こえない。確か犬笛って人間には聞こえないんだったよな。


 そして待つこと20秒。


「何もおこりませんね」


「そんなはずないわ!」


 そしてもう一度、先輩が笛を吹いた。


 すると一匹の犬が、向こうから凄いスピードで走ってきた。


「おお、本当にきた」


 すごいな犬笛。


 走ってくる犬の姿がどんどん大きくなっていく。つまり近づいてくる。


 真っ白な毛の犬だ。その目はまるで獲物を狙う獣のように異様にギラついている。


 なんかあいつ恐いなぁ。


 そして俺の目の前、走ってきた犬は減速するどころか、どんどんスピードを上げてそのまま横にいたカズマめがけて華麗に跳んだ。 当然、カズマはそれを避けることもできず一


「グホゥ!」


 奇怪な叫びを上げ、犬もろともに後ろに吹き飛んだ。


 …この犬、今の絶対わざとだよな。


 そして白い毛の犬はカズマの上ですぐに起き上がり、先輩の足元に行っておすわりをする。


「よしよし、よくきたわね。あんたは… 柴犬ね」


 先輩は犬を撫でながら話しかける。


 やっぱりカズマのことは無視なのか?


 カズマを見ると、結構な衝撃があったらしく、体が痙攣している。


「さぁシュウ、早く首輪をつけなさい!」


「わかりました」


 じっとおすわりをしている犬に首輪をつける。


「つけましたよ」


「よし、じゃあなにか言ってみて、お父さん」


「お父さん!? もしかしてこの犬の名前ですか?」


「そうよ、白いし柴犬だし」


 まんまパクりじゃないか。ソ○トバンクの。


「さすがにお父さんはマズイです。 他のにしましょう」


「じゃあ役立たず」


 今一回カズマを見てから言ったよなこの人。


「ちょぉっと待ったぁぁ!! もしかして役立たずってオレのことっすかぁ!?」


 そう叫びながらカズマは立ち上がり復活する。


「よし! んじゃあんたの名前は、ナメ太郎にしましょ!」


「無視や!?」


 カズマはそのまま四つんばいになって崩れた落ちた。忙しいやつだな。


 てゆーかナメ太郎って… かわいそすぎるだろ。


「ワン」


「「あ」」


 吠えた。


「なんて言ったんですか?」


 先輩の横に行き、機械の画面を覗き込む。すると画面にピピッっと文字が出る。


『あぁ… 地球、滅びねぇかなぁ…』


 こわッ!?


 何言ってんだこの犬!?


「…これ、言ってること合ってるんですか?」


「ええ… 知り合いの人が間違えることはないって言ってたわ」


 ってことは本当か。にしても病みすぎだろう・・・


「犬が地球の滅亡を願うなんて、世も末やな」


 突然、先輩と俺の間にカズマの顔が現れた。


「ひゃ!? ぁ、あんたいつの間にか復活したのよ!?」


「今っす。にしてもこんなこと言うなんてナメ太郎、お前なんかあったんか?」


 カズマは優しくナメ太郎に声をかける。


「ワン!」


 ぉ、返事したのか。なになに…


 画面を覗く。


『うっせぇ! 馴れ馴れしいんだよ!』


 ぅわ、荒れてんなぁ、こいつ。


「まぁ落ち着けよ、オレでよかったら愚痴聞いたるで?」


 それでもカズマは優しく声をかける。


「わんわんわん!」


ピピッ


『しつけぇんだよこのエセ関西人が! キャラがありきたりなんだよ!』


 口悪ッ!? 世間の野良犬ってこんな罵るのか!?


「こんのクソ犬ゥゥ!!」


 そしてそれにキレたカズマが犬に飛び掛かろうと腰を落として狙いを定める。


 やっぱキレたか。そりゃ犬にキャラがどーのこーの言われればなぁ。


「ちょ、待ちなさい! 犬の言ってることを真に受けてどーすんのよ?」


 獣化しようとしていたカズマは、先輩の言葉で動きを止める。


「た、確かにそーっすけど…」


「そんなことくらいで怒るなんて本当に犬以下よ?」


 おぉ、先輩が珍しくマトモなことを言ってる。


「…で、ですよね!? たかが犬の言うことやしな! そや! オレは人間やから犬の言うことなん気にしゃんでぇ!」


 カズマは自分に言い聞かせるように何度もそのセリフを繰り返す。


 見苦しいぞカズマ。


「わんわん!」


「今度はなんや? ま、オレは犬の言うことなんどーでもいいんやけどな!」


 カズマは無駄に声を大きくして言いながら、画面を見る。


『情けねぇなぁお前。男のくせに女の言うこと聞いてよぉ。 それでも男か? ちゃんと《ピー》ついてんのか? どーせついててもも小さいんだろ? ピー野郎!』


「「ぅゎ…」」


 先輩と俺の声がハモる。


 この犬、かわいい顔してなんてグロィことを… ぁぁやばいぞ、カズマからどんよりとした黒いなオーラが・・・


「―――コロス」


「!?」


「キエェェェェェ!!!」


 カズマは目をギラリと光らせ、ナメ太郎にまた飛び掛かろうとする。


「カ、カズマ!? まて! 落ち着けって!」


 さすがに本当に殺りそうなオーラが出てたので、暴れるカズマを後ろから羽交い締めにして押さえこむ。


「はっなっせっ!! おいクソ犬ゥ!! お前も男やったらわかるやろ!! そこは絶対にけがしたあかん男の聖域なんや!! 絶対にふれたらあかんのや!!! それとなぁ!! オレの中学の時のあだ名はジャン棒やぁ!!!!!!」


 俺の腕の中で暴れながらカズマは叫ぶ。


「な!? カズマ、お前…」


 そのあだ名は封印したんじゃなかったのか!?


「はぁ… はぁ… し、しもた!? つい頭に血がのぼって…」


「「………」」


 俺と先輩は言葉を失い、沈黙状態。


「あの、ぇと… アヤカさん?」


 沈黙に耐え切れず、先輩に助けを求めるカズマ。すると先輩は、


「ぶっ!」


 いきなり吹いた。


「あはははは!! じ、ジャン棒? あはは! ゃ、やめてぇ!! お腹痛い!あはははは!!」


 そして先輩はお腹をおさえて大笑いしだした。


 まぁ、しかたないよな… 俺もそのあだ名を聞いたときは笑いが止まらなかったし。


 カズマは笑われたのがショックなのか、声を出さずにピクリとも動かない。


 俺はとりあえず先輩が落とした機械を拾い、何気なく画面を見ると新しく文字が出ていた。


『なんだ… その、悪く言ってすまなかったな』


 謝ってるし…


「おいカズ一」


「く、くっそぉぉ!!」


 俺が声をかけるのと同時に、カズマは叫びながら急に走りだした。


「おいカズマ!? ぁあもう… 先輩、追いかけなくていいんですか? 笑いすぎですよ」


「あはははは!! む、無理! あははは! お、お腹痛いぃ!!」


 お腹を押さえ、転げ回って笑う先輩。


 かわいそうに…


 俺がカズマの走って行ってしまった方向を眺め、ぼんやりしていると、犬が足元まで歩いてきた。


「ん? なんだ?」


「わん!」


ピピ


『人間って、大変だな』


「ああ、お前は気楽でいいな」


 ……はぁ、帰ろ。


 俺はいつまでも笑い転げてる先輩を公園に残し、帰路についた。

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