◆ 2話 弱気なあの子
昼休み。
そろそろ温かくなってきたなぁ。なんて思っていると、先輩がまた変な事を言い出した。
「ヒマね」
「そうですね」
昼飯も食い終わり、先輩と俺は屋上で寝転がってだらだらしていた。
「そうだ!」
先輩、なにか思いついたな。
「ヒマだしシュウの腕でもへし折ってみようかしら」
!?
「やめてください。もうそれSとかそーゆーレベルじゃないですよ?」
ガバッ! っと起き上がって、本気でやろうとしてる先輩をとめる。
「なんでよ?」
睨んでくる先輩。
「怒る意味がわかりません。とにかくダメですそんな拷問みたいなこと、やめてください」
「ふん、わかったわよ」
そー言って口をとがらせながらそっぽをむく先輩。
これが最近問題になっている切れる若者ってやつか。・・・いや、違うな。
ん? 何か違和感が・・・ とゆーよりも誰かの視線を感じるな。
俺はあくびをするフリをして、そーっと視線を感じる屋上のドアの方を見てみた。
ぁ、誰かがドアのすき間からこっちを見ている。
だめだ、一瞬じゃ誰だかわからん。
「先輩」
小声で先輩を呼ぶ。
「なによ?」
先輩はゴロンと転がってこっち側を向く。
「ドアのところに誰かいるんですけど、見えますか?」
「ドア?」
先輩は少し頭をずらしてドアの方をみる。
「……げ」
顔を少し歪ませる先輩。
「先輩? あの、聞いてますか?」
「え? ああ聞いてるわよ」
「それで、ドアの所にいるのは誰なんですか?」
「…モエよ」
「モエって、先輩の妹の?」
米原 萌 同じ高校の一年生。
なぜか俺が喋りかけると、いつも顔を真っ赤にして「ご、ごめんなさい」とか言ってどこかに走って行ってしまう不思議少女だ。
先輩いわく、「乙女心よ!」だそうだ。
ちなみに性格は先輩の正反対、奥手、引っ込み思案、まぁおとなしい子ってゆーイメージがある。
「えぇ… あ、そうだ」
なにやら考え込んでいた先輩は、何か思いついたらしく、急に表情が明るくなる。
あの顔は絶対ろくなことを考えてない顔だな。
「シュウ、放課後もう一度ここにきなさい」
「放課後ですか? でもなんで―」
「つべこべいわない!」
「わ、わかりました」
「じゃあ準備があるからもどるわね」
先輩はそう言って立ち上がり、屋上を出て行った。
準備って… いったい今度は何をするつもりなんだ?
不安だ。
そして放課後。
俺は言われた通り屋上に来てみたけど、
「誰もいないな」
もしかしてすっぽかされたか?
なんて思いつつ、しばらくボーっと遠くの景色をながめていると、
「よくきたわね、待ってたわよ!」
と声がしたので、振り向くと先輩は腰に手をあてて入口のところで立っていた。
「待ってたのは俺ですけどね。それで何の用ですか?」
「聞いて驚きなさい! 今日はあんたのためにプレゼントを用意してあげたのよ!」
プレゼント?
「えっと、今日は誕生日でもなんかの記念日でもないはずなんですけど…」
「ええ、別に何の日でもないわよ」
自信たっぷりに答える先輩。
「ならなんで…」
「たしかあんた前から妹がほしいって言ってたわよね?」
「言ってません!」
俺は即答で否定する。
「いいえ、あんたは口ではそんなこと言ってるけど、目が語っているわ! 妹がほしい! とね」
デーン! って感じで俺に指をさしながら叫ぶ先輩。
目で語るってなに? 言っててキモくないですかそれ。
バカですか? ……バカですね。とりあえずあとで頭の方も診てくれる病院でもググっておこう。
「なら、もし俺の目が妹ほしいって言ってたとして、妹でもプレゼントしてくれるんですか?」
「そうよ」
平然と答える先輩。
冗談だよな?
「遠慮します。全力で」
なんか犯罪の匂いがするから断っとこう。
「いいから受け取りなさい!」
やっぱり強引にそうくるか。これは俺が受け取るって言うまで、RPGの村人みたいにずっとあのセリフ繰り返すんだろうな。
「わかりました。ならありがたくいただきます。それでプレゼントって何ですか?」
「やっと食いついたわね、好みがあると思うから妹候補をいくつか用意したの、どれか一つ好きなのを選びなさい」
そして先輩はサンタが持っているような白くて大きな袋を取り出し、ゴソゴソと袋に手をつっこんだ。
って、先輩、
「その袋、どっから出したんですか?」
「うるさい」
「す、すいません…」
怒られた… なんで!?
なんて思いながらぼーっとしていると、先輩は袋から何かを取り出した。
「まずはこれよ」
そう言った先輩の手にあるのは…
「いりません!」
リコーダーだった。
「んじゃこれ」
次にでてきたのはランドセル。 …妹候補って言ってませんでした? 物ですよね、それ。
「いりません」
「じゃあ次!」
次はスクール水着、
「いりません! てゆーかどーして全部小学校ではおなじみの物ばかりなんですか!?」
「どーしてって、男ってそっちの方が興奮するんでしょ?」
小首をかしげる先輩。
「残念ながらそんな変な性癖は持ち合わせていません! そんなマニアックな物で興奮するのはごく一部の人だけです」
「そうなの?」
「そうなんです」
「これ全部、私が使ってたものでも?」
「なおさらいりません」
すると先輩は
「うーん・・・」と少し唸ったあと、頬を赤らめながら上目づかいに俺を見つめ、
「じ、じゃあ私がプレゼ―」
「いりません」
「な、まだ何も言ってないでしょー!」
「だいたいわかります。それより他にもっとましな物はないんですか?」
できれば普通に受け取れる物でお願いします。
「ふん、最後にとっておきのがあるわよ」
ぁ、先輩がすねてる。 まぁいいか。
「じゃあそれでいいんでください。もうそれもらって帰ります」
そろそろ疲れてきたし早く終わらせよう。
「ほんとにいいのね?」
「はい。何でもいいです」
期待なんかしてませんから。どーせ帰ったらほかしますから。
「ならうけとりなさい! とっておきの妹候補! あたしの妹よ!」
先輩がそう言いながら体をずらすと、後ろに先輩の妹のモエが立っていた。
おー本物の妹かー じゃあさっさともらって帰って家のゴミ箱にでもほかして―
「ってもらえるかぁぁ!!」
モエがプレゼント!? なんで最後だけガチなんだよ!?
「ぁ、ぁの… よろしく、お願いします」
もじもじと俺の前まで出てくるモエ。
いや、よろしくって言われても…
「ま、そーゆーことで今日からモエはシュウの妹よ!」
どーゆーことだよ。
「んじゃね」
そう言って帰っていく先輩。
「いやいや困ります!!」
「何? 何か不満でもあるの?」
先輩は眉間にシワを寄せて凄んでくる。
「いや、あの、正直いらないです」
俺がそう言うと、さっきまでずっとうつむいていたモエが急に顔をあげ、
「モエ、いらないんですかぁ!?」
目をうるうるさせ、泣きそうな顔をこっちに向けてくる。
「違う! 別にいらないとかじゃないんだ、や、いるわけでもないんだが… ちょっと先輩― っていない!?」
くそ、いつの間にか逃げられた!
「ぅ、ぅぅ、そーですよね、どうせモエなんていらない子なんですよ・・・」
「ちょ、落ち着けって! 泣くな、な? 頼むから!」
俺はその後、半泣きのモエをなんとか落ち着かせ、そのまま家まで送り届けた。
モエを送った帰り道。 空はもうだいぶ薄暗くなってきて、そんな中を俺は一人で寂しく歩いている。
結局今日は先輩に遊ばれただけで終ったな…
てかモエとちゃんと話したのって初めてだよな。 あれがちゃんとって言えるのかどうかは置いといて。 まぁ先輩と違って良い子そうでなによりだ。
でもなんで先輩は俺にモエを押し付けて帰ったんだろ…
ただの嫌がらせか?
謎だ…