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マリアンヌ、かく語りき  作者: 境 時生
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感動の再会?

第6章

 特に何も宰相殿の様子もお変わりなく、フィリップ殿がザルツブルグに出発されてしばらくしたある日、カサンドラ様に呼ばれたの。カサンドラ様の旦那様も皇帝陛下に同行してザルツブルグに出かけられたから、私の別荘に遊びにいらっしゃい、久しぶりに女同士でおしゃべりしましょうよ。あのクリームも持ってきてね。お友達も呼んだわ、って。これはまた私のクリームを売り込むチャンスだと、沢山クリームを持って、カサンドラ様の山荘にお邪魔したの。


 マリアエレナ様を紹介されたときは、初対面だと思って、いつも通り、さっそく治療&営業トークをはじめたわ。とくに乾燥したお肌におすすめのクリームに興味をお持ちになったから、早速、ためしに塗って差し上げましょうと申し上げて、マリアエレナ様がショールをお取りになったとき、あの傷に気がついて、心の中であっと叫んでしまったわ。おかわいそうに、まだ傷跡が残っているの。冬場や雨の日などは、いまだに傷口が傷むとかおっしゃるじゃない。塗って差し上げながら、私も母のことなど思い出してきて、ちょっと涙ぐんでしまったわ。本当に、いつも傷つくのは女ばかり。愚かな男のわがままや嫉妬や暴力のせいで。かわいそうな女たち。だから私、女性を美しく生き生きとして差し上げることに喜びを感じるわ。その日は、朝から憂鬱な空模様だったからかしら、私も珍しく、しみじみした気分になってしまったの。


 そして、午後から大雨になってしまって、結局、街から山荘までの途中にある橋が濁流に流されてしまって、帰れなくなってしまったの。3週間近く、山荘から出られなくなってしまった。でもその間、ずっと、カサンドラ様だけでなく、マリアエレナ様にも集中的に治療して差し上げることができてよかった。


 で、やっと仮の急ごしらえの橋がかかったとかで、マリアエレナ様のお迎えが到着したと思ったら、なんと、カルロスじゃない。久しぶりの夫婦の再会とかで、仰々しい抱擁のシーンを目の前で見せ付けられた後、カルロスは私の顔を見つけて、ぽかんとしてた。マリアエレナ様ったら、

 「私の新しい親友のマリアンヌ様よ、アナスタシア様の侍女もされていた方。今は宰相殿の主治医でもあるんですって。あなたを待っている間ずっと、肩の傷を治療してくださったのよ。本当にお優しい方。」

って紹介してくださったの。あのときのカルロスの顔!

 「あ、あ、あなたが、宰相殿の侍医でらっしゃる?」

なんて素っ頓狂な声を出すものだから、

 「はい。左様でございます。このたびは、カサンドラ様のお招きでこちらにお邪魔しておりました。」

と丁寧にお答えしたの。

 やっとカルロスも落ち着きを取り戻して、

 「宰相殿からの内密の特命がございます。こちらへ」

って無理やり私を別室に呼んだとたん、いきなり昔のカルロスに戻ったわ。

 「マリアンヌ、どういうことなんだ! なんでここに?」

 「だから申し上げたでしょ、カサンドラ様のご招待です。」

 「そうか、君が、宰相殿の。そうか、リッカルドの差し金だな。しかし、何でここで君に会うんだ?」

 「カルロス、ねえ、宰相殿の特命って何でしょう?それとも嘘なの?」

 「いや、本当だ。一緒にジェノヴァに行ってくれといわれた。何か荷物を引き取りに行くと。代金も預かってきた。」

 「まあ、プロヴァンスから届いたのね!よかったわ。でも、私があなたと取りに行くの?ジェノヴァまで?」

 「ああ、治療に使うものなんだろう?中身を確かめる必要があるとか。」

 「ええ、そうよ。でもなぜあなたとなの?」

 「宰相殿のご命令だ。」

 「今からすぐに?」

 「ああ、すぐに」

 「かわいそうなマリアエレナ様。だんな様にやっとお会いになれたと思ったら、またすぐ引き離されて。」

 「大丈夫だ。マリアエレナは強い女性だ。それに私を信じてくれている。」

 「う~ん、やはり一度、宰相殿のお屋敷に戻りましょう。私はあなたとは行けないわ」

 「私が信じられないのか?」

あのときみたいに顔を真っ赤にして言うから、ちょっと笑ってしまったわ。

 「違うわよ、このままのカルロスとは行けないわ。ねえ冷静になって。あなたは、教会軍の総司令官でしょう。そのままジェノヴァ入りして、あなたの顔やいでたちを知っている人に会わないとも限らない。ヴァティカンに潜入したときのように、変装が必要よ。ま、あのときのあなたの変装は、私にはすぐバレてしまったけどね。」


 どうもカルロスはからかう癖は抜けないわ。でも絶対変装は必要だと思ったので、商人夫婦を装ったのよ。宰相殿に私の提案をお話したらちょっと面白がって、確かにそうしたほうがよいと言って、支度金も足してくださったわ。


 「偽名も必要ね。ジャンマリア二世、なんてどう?」

って言ったら、また顔を真っ赤にして憤慨してたわ。でも内心、カルロスは、この小旅行が楽しかったみたい。ジェノヴァまでの道中、お互い軽口をたたきあって、10代の頃に戻ったようだった。


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