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マリアンヌ、かく語りき  作者: 境 時生
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情報収集もぬかりなく

第5章

 リッカルド行方不明の状態に不安を覚えながらも、日々のロバート殿への治療を行っていたところ、それなりの成果が出てきて、宰相殿は、あまり表情にはお出しにならないけれど、大変喜んでいらっしゃったわ。

 ある日、ご子息と一緒に、30分ほど乗馬することができたときなどは、早速来週、遠乗りに出かける、なんていい出して。マレーネ殿との間にご子息が出来なくても、ロバート殿を自分の後継者とする希望が生まれてきた、ということだったんでしょう。


 ちょっとマレーネ様はお気の毒だったわね。お会いしたばかりの頃は、大喜びで私の化粧品を使っていたのだけれど、ロバート様の体調が回復されていけばいくほど、宰相殿の自分への関心がどんどん薄れていくと感じていたのではないかしら。心ここにあらずという感じで。半時間もじっと何もいわず涙を流されていることもあったわ。夜もほとんど眠ることができなかったみたい。

 

 そんなお姿を拝見して、私はつくづく男に翻弄されない人生を選んでよかったと思ったけど、まあ、彼女の場合、皇帝の親族の一員ですものね。選択の余地なんてほとんどなかったのかもしれない。

 そんな姿を見たアナスタシア様も、とても心配されて、マリナンヌ、何とか元気づけてあげられないかしらって。そこで考えたのが、心地よい花の香りで、せめて心静かに安眠できるようにしてさしあげよう、ということだったの。

 ただ、そういうお花を抽出したオイルの生産地は、プロヴァンス地方でね。なかなか入手が困難だった。どちらかといえばジェノヴァ商人が握っていた交易ルートだったし。そこで、ロバート殿の治療成果でのご褒美を差し上げよう、というお言葉をいただいたとき、宰相にお願い申し上げたの。ぜひプロヴァンス産のラベンダーのオイルをいただけないかと。何に使われるのかとおっしゃるので、マレーネ様の状態を申し上げたわ。宰相殿は、少し反省された様子でね、すぐ手配するとおっしゃったの。でも、ちょっとドキリとしたわ。宰相殿は何気ない風を装って、わざと私にこう聞いてきたの。

 「しかし、そういうことなら、あなたの後見人であるリッカルド殿に依頼するほうが早いのでは?」

って。私はすかさず

 「今、リッカルド殿は、ご容態の思わしくない奥方様のもとにお戻りだとアナスタシア様に伺いました。そんなときにお願いするのもはばかれますし、そもそもプロヴァンスの物産はジェノバの商圏ですので。」

とお答えしたわ。宰相殿もリッカルド殿が行方不明だと探しているのか、それとも宰相の差し金で、リッカルドがどこかに幽閉されているのか、判断できなかったけど、明らかに何か裏があると、このとき確信したのよ。


 この会話のあと、後見人であるリッカルドの不在に改めて少し自分自身の身の上の安全が心配になってきた私は、どうしたものだろうかと考えていたの。

 夕方になっても、何もよい案が浮かばず、ぼんやりと窓の外を眺めていたら、中庭で知った顔をみつけたわ。そこで急いで中庭に下りていったのよ。フィリップ殿は、私のことを心よく思っていらっしゃらないのはわかっていたけど、リッカルド殿の情報を何か掴んでいるはずだと思って。でも、彼はほとんど情報を持っていなかった。彼も追い詰められていたみたいだったわね。 


 実をいうと、彼との会話から、私、何となくリッカルド殿はザルツブルグに行ったのではないかって思いついたわ。皇帝陛下や宰相殿がご存知かどうかは知らないけれど。確かに塩の流通量は、しばらく前から宮廷内で噂になっていたけれど、それより、リッカルド殿に宰相殿の前の奥方様のことを調べて欲しいと頼んだときに、リッカルド殿が「確か、宰相の前妻はザルツブルグ候の長女だったはず」とつぶやいていたことを思い出したの。それをフィリップ殿に話したら、黙り込んでしまったわ。そして私に、もしリッカルドから何か連絡が入ったら、必ず知らせて欲しいって。そのかわり、こちらに連絡がきたら、知らせます、と。そんなに私を信用していいの?って聞いたら、リッカルドがあなたを信用できるといっていました。だから私も信用しますって。いまどき、驚くほど純真な方だと半分あきれてしまったわ。何しろ、あのエドモン殿とエレノア様のご子息だものね。

 まあそれに、彼は法王庁という組織に属した人間。私のような、何かあったら吹けば飛ぶよな自営業ではないから。


 大きな組織にありがちな、面倒なしがらみや人間関係がない分、私は自分で自分の身を守らなくちゃいけないのよね。そのためにも人脈作りと情報収集は欠かせない。あ、でもぜんぜん苦じゃないのよ。だってヴェネツィア人だもの。


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