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マリアンヌ、かく語りき  作者: 境 時生
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派遣看護師?時代

第3章

数ヵ月後に、何とか叔母の体調が持ち直して、ほっとしたと同時に、あの宮廷生活が懐かしくて、じりじりしてきたわ。そこへまたタイミングよく、リッカルドがやってきて、ある国の領主のもとに行ってくれないかというの。体調を壊してしまった治療と看護目的だというのと、その領主の体調および言動、人間関係について秘密裏に定期報告をすれば、ヴェネツィア政府からのかなりの報酬が確実の上、領主からの個人的な報酬も受けてよい、という条件だったので、お受けしたわ。商売の元手を稼ごうってつもりだったのよ。


 ところがそのフランソワっていう領主に、妙に気に入られちゃって、まあ、いいように利用させていただいたわ。お互いさまだけど。領主夫人とうまくいってないのは、すぐにわかったし。

 でも恋愛沙汰に巻き込まれるのは面倒だったから、ほとんど領主夫人には顔を合わせないように細心の注意をしていたわ。で、フランソワが私の侍女の女性に手を出しはじめたときに、そろそろ潮時だと思って、こちらからリッカルドに連絡したのよ。本来も目的である治療と介護はもうとっくに必要なくなっていたしね。


 そしたら今度は、法王のもとに治療と看護に行けというじゃない。私くらいの歳で、これだけいろんな世界を見ている女性もいないものだと思ったわ。

 実はこのとき、リッカルドにクレームしたのよ、今回の「治療と看護」は、余計なサービスまで含まれているんですかって。でも今度は、本当に治療だけで、しかもかなり重篤だと。これは私の腕の見せ所と思ったわ。「唖の女に化けてくれ」っていうのも、面倒がなくてかえって好都合と思ったくらいよ。


 ところが、私がヴァティカン入りしてすぐ、ヴェネツィアにいる叔母から、彼女の息子が事業投資に失敗して、かなりの負債をかかえてしまったという手紙が届いたのよ。これには慌てたわ。

 叔母は呆然自失になってしまうし、その息子は債権者から逃げて雲隠れしてしまったし。私がヴェネチィアに戻れないから、リッカルドに何とかしてもらいたかったのに、あの時期の彼、少し様子がおかしかったのよね。私が頼んだことも忘れてしまっていたり、同じ状況報告を何度も求めたり。


 叔母の家のために、何にもしてくれないことに、私もちょっと頭にきていたし、リッカルド以外のヴェネツィアの人間と何とかコンタクトがとりたかったのよ。

 そこでヴェネチア出身の枢機卿となんとか親しくなりたくて、彼の交友範囲を探っていたら、そのヴェネツィアの枢機卿が、共和国政府に内緒で、メディチから賄賂を受け取っていたのに気づいちゃったのよね。

 ちょっと強引だったかな、何しろすぐに叔母を助けなきゃって必死だったから「ゆすり」っていうと言葉だときついけど、まあそもそも、ゆすられている当人自身が悪いことしているんですもの。そこに漬け込んで

 「あなたのこんなことしているのですね、共和国政府にバレてもいいのですか。」

みたいな感じかしら。


 言っておきますけど、本国政府には、集めた情報をすべて報告していたのであって、政府には一切嘘はついていなかったのよ。私もまだ若くて怖いもの知らずだったけど、リッカルドという存在があったからね。後でそのリッカルドからも「あのときの君の情報は非常に役立った」と秘かにお礼を言われて、報酬アップしてもらえたくらいなんだから。


 それにしても、いつもの治療を終えて法王の私室を出たところで、カルロスの姿を見てしまったときは、心臓が止まるかと思ったわ。あの変装、まるでなってないわね。すぐわかったもの。あの日は一日中カルロスがヴァティカン内を走り回っているから、私も逃げ回っていたのだけど、翌日、とうとう捕まってしまって、開口一番、何を言うかと思ったら「なんでフランソワの愛人なんかになったんだ!」って。私、ぽかんとしちゃったわ。


 「そのこととあなたと何の関係があるの?」

 「あれから、君のことを忘れようと必死だったんだ。」

 「私、あなたと将来の約束をしたかしら?」

 他人が聞いたら、痴話げんかだと思ったでしょうね。

 さらにカルロスが

 「アナスタシア殿のところにいたときも、ずっとくだらない連中と付き合っていただろう?」とまで言うので、私もかちんときて

 「私が誰と付き合おうと、あなたには関係ないでしょ!もうご結婚されているわけだし!」

って言い返したら、彼、そのまま何も言えなくなっちゃって。

 相当頭にきていたし、身バレしてしまったから、その足で「叔母のもとに戻ります」とリッカルドに書置きを残して、とヴェネツィアに帰ったわけ。

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