深呼吸
焦った心に囚われることはありませんか。
私はよくあります。
そんな心から解放される過程を詩にしてみました。
焦っているな、と思う。
いまさら何を焦っているのか。
心臓の半分が本当に汗をかいて、ちりちりと火に焙られている感じがする。
そんなことじゃ何もできない。
たとえできたとしても、自分すら納得するものはできない。
空回りだ。貴重な時間と労力をどぶに捨てるようなものだ。
そんな思いにかられて、うろうろと私は自室を歩き回る。
何をしようという訳でもない。
方向性が定まらないのだ。
取り分けて何をするでもない人生というのもあるかもしれない。
ただ与えられたものを味わい、日常の仕事をそつないようにこなすだけ。
でも、自分が、それで満足できるだろうか。
死ぬとき、後悔にさいなまれないだろうか。
窓の外の雲は濁って雨の気配がする。
空を行くカラスは私以上に焦って、バタバタと音を立て翻って、山の方へ去っていく。
私は出来が悪い。
何が悪いって心の出来が悪いのだ。
心は人生の基本だと思う。
土台が悪ければその上に乗るものは不安定で質は良くない。
物が悪いばかりか、事故まで起こす。
仕事にありつかない。
友人に去られる。
絵に描いたような不良債権だ。
もちろん自分で家庭を営むことなど無理の上のまた無理。
音を小さくしたラジオからは、台風が大きな被害をもたらすだろうと告げている。
焦るな。と言い聞かせる。
深呼吸をしてみよう。
瞑想と言われる奴だ。
瞑想アプリを開き、目を閉じて座ってみる。
一分、二分。
イライラ、そわそわが止まらない。
ああそうだ、ラジオをつけっぱなしにしていた。
スイッチを切って、もう一度、瞑想アプリに向かう。
背筋を伸ばす。
動いてしまうてのひらを両の足に強く押し付ける。
5分。
心は鎮まったのだろうか。
分からない。
私の心は荒れっぱなし。
ただ、少しだけ心臓の一部が柔らかくなったのを感じる。
そこから、暖かいものが流れていくのを感じる。
この、細く、うっすらとした暖かい流れに注意してみよう。
この流れに慎重に身を任せれば、どこか違うところに行きつけるかもしれない。
冷房の運転音が高くなった。
私は今、外に出ている植木鉢のことを考えている。
あれに水をやって、ラッピングでもして、友人の誕生祝に持っていこうかと考えている。
不器用な私の仕事になるが、気持ちよく受け取ってくれるだろうか。
嵐が来る前に作業を終わらせたい。
行き当たりばったりの考えかもしれないけれど、丁寧にやれば、きっと受け取ってくれるだろう。
ささやかでも外の世界に働きかけたい。
そして、何か歓びを作りたい。
心を使いこなさなければ。
柔らかい優しい豊かなものを少しでも引き出していかなければ。
焦った心は他の人の心を平気で踏みつけすらする。
同じ過ちをもう繰り返すまい。
鉢の花は満開だ。
私を待ってすらいるのだ。
きっと友人も私の再生を待っている。
心がうまく良く働きますように。私もあなたも。