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【書籍化】婚約者に「あなたは将来浮気をしてわたしを捨てるから別れてください」と言ってみた  作者: 狭山ひびき
第一部

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事故と陰謀 6

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「それで、クラリスは?」

「大事を取って侍女の仕事はしばらく休みますが、打撲と擦過傷だけなので命には別条ありません。頭も打っていますが、それほど強打したわけではないようで、後遺症も残らないだろうとのことです」


 心配でブラントーム伯爵家に泊まった翌日、アレクシスはグラシアンの執務室で昨日のことを報告していた。

 部屋にはもう一人、グラシアンの側近のジェレットがいる。


「そうか、それなら一安心だな」

「ええ……ただ――」

「ああ。ジェレット、報告を頼む」


 グラシアンが視線を向けると、ジェレットがいくつかの紙を机の上に並べながら口を開く。


「昨日報告した通り、暴走車には御者、乗客ともに乗っておりませんでした。振り落とされた可能性も考慮しましたが、どこにもそれらしい人物はいなかったようです。それから、馬車を引いていた馬を解剖した結果、興奮作用のある薬物が検出されました」


 暴走した馬はその後骨折して転倒し、安楽死させられたそうだ。骨折した馬は、蹄葉炎や内臓疾患を起しやすい。今回暴走した馬は前足と後ろ脚をそれぞれ一本ずつ折っていて、医師が致命的と判断したそうだ。苦しまないように、すぐに安楽死の処置がされ、その後解剖に回されたらしい。


 本来であればわざわざ解剖まで回さないのだが、御者と乗客がいなかったと報告が上がった瞬間にグラシアンが解剖指示を出した。グラシアンが解剖指示を出したとき、すでに馬を火葬する準備が進められていて、一歩遅ければ灰になっていただろう。いくら何でも火葬に回すまでの時間が短すぎるため、何かあると感じ、グラシアンは即座にジェレットにも調査するように命じたそうだ。


(クラリスか、もしかしたら別の人物を狙ったのかもしれないが、故意的に馬を暴走させたとしか思えない)


 アレクシスの見解はグラシアンとも一致している。


「馬車の持ち主はコットン伯爵家です。騎士団が調書作成のためコットン伯爵家に事情を確認したところ、当日は娘とその侍女が買い物でその馬車を使っていたと回答がありました。買い物中だったため馬車には乗っておらず、御者も休憩で馬車から離れていたと」

「馬車を残してはなれる御者がいるか」

「はい。ですので、コットン伯爵はその日のうちにその御者を職務怠慢で解雇したそうです」

「その日のうちに?」

「ええ。その後、御者の身柄は騎士団により確保されましたが、今朝がた釈放。職務怠慢ではありますが、馬の暴走には関係がないだろうと判断されたようです」

「馬鹿な。死人も出ているはずだぞ?」


 暴走車に巻き込まれた市民は多かった。クラリスとエレンは命まで奪われなかったが、馬にはねられて一人死亡したと報告が上がっている。


「死者が出ているのに、その日のうちに釈放されるなんておかしいですね。職務怠慢だけではなく、管理を怠った責任を取らされるはずですけど」


 アレクシスが思案顔になると、ジェレットも頷く。


「ええ。本来はそうなんですが……コットン伯爵家の関係者のためか、第二妃殿下が口添えをしたそうです」

「ああ、そういえばコットン伯爵家は第二妃の実家の遠戚にあたるんだったな。御者とはいえ、親戚で雇われていた男が罪に問われれば体裁が悪い、そんなところか」


 グラシアンが忌々しそうに舌打ちする。

 ここから王太子権限で再度捕縛命令を出すことは可能だが、そうなればジョアンヌとの間にひと悶着あるだろう。ジョアンヌの命令よりグラシアンの命令の方が優先されるが、黙って引き下がるとは思えない。国王まで巻き込んで大騒ぎをはじめるだろう。


「……今騒がれるとそれはそれで面倒だ。ジェレット、その男の行動を裏から監視させておけ」

「手配済みです」

「助かる」


 グラシアンは眉間をもみながら、ふう、と息を吐き出す。


「ちなみに、今回の事件とあれとのつながりは?」

「今のところは、これと言って……」

「何か尻尾を出すかと思ったが、ここでも何もなし、か」

「はい。……あ、ただ、馬に使用された興奮剤ですが、市場では手に入りにくい類のものでした。普通に考えて医者を通さなければ手には入りません」

「入手ルートがわかりそうなら突き止めてくれ」

「かしこまりました」

「アレクシス。クラリスが狙われた可能性も充分考えられる。今以上にクラリスの身辺には気を配れ」

「わかっています」

「ジェレット、私の派閥――いや、母上の派閥まで含め、狙われそうな貴族はすべてリストアップしろ。相手がどこまで手を広げるかわからない。警戒しておくに越したことはないはずだ。アレクシス、騎士団長から報告は?」

「騎士の中で信用できる人間の選別はすでに終わったと報告がありました。殿下の結婚を理由に、隊の編成をし直すそうです」

「よし。気をつけろよ。おそらくだが、私が戴冠する予定――二年後までには大きな動きがあるはずだ」

「「御意」」


 アレクシスとジェレットが揃って頭を下げる。


「私の結婚式では、何事もないといいのだが……」


 疲れた顔でぼやくグラシアンを見ながら、純粋に愛する人との結婚式が楽しめない彼に、アレクシスはひどく同情した。




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