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【書籍化】婚約者に「あなたは将来浮気をしてわたしを捨てるから別れてください」と言ってみた  作者: 狭山ひびき
第一部

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避暑地へ 2

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 王都から北へ馬車で半日。

 標高の低い山の中腹のあたりに建てられている王家の別荘は、一か月も王族がすごすため広い造りになっている。


 国王が一か月も滞在するため、武官や文官も大勢移動するのだ。避暑とはいえ、国王が一か月も遊んでいられないので、別荘で仕事をするのである。


 一度に全員が移動すれば大行列になるので、三組に分かれての移動となる。

 国王と王妃一行、第二妃とウィージェニー王女一行、そしてグラシアンとマチルダ一行だ。


 時間をずらして出発するため、グラシアンとマチルダ一行は、フェリシテたちが別荘に到着する翌日に到着することになっていた。

 グラシアンたちが来る前にマチルダの部屋を整えるのだというフェリシテは楽しそうだ。


「ふふ、娘ができるっていいわね」


 そう言いながら、マチルダがすごしやすいようにと、カーテンを明るいものに替えさせたり、部屋に置いておく茶葉の用意をさせたりしている。

 マチルダの部屋はグラシアンの部屋の隣だ。結婚すれば同じ部屋グラシアンともども夫婦の部屋を使うことになるが、さすがに結婚式前に堂々と夫婦の部屋を使わせるわけにもいかないのである。


「王妃様、クッションカバーはこちらの水色のものでよろしいですか?」

「悩んでいるのよねぇ、ピンクと水色、どっちがいいかしら?」


 クラリスがクッションカバーを手に訊ねると、フェリシテが顎に人差し指を当ててうーんと唸る。


「夏なので水色の方が涼しそうに見えますわね」

「でも、ピンクも捨てがたいですわ。白い花の刺繍が可愛らしいですもの」

「それなら水色のカバーの鳥の刺繍も愛らしいわ」


 水色とピンクのカバーを並べて、侍女たちが揃ってむむっと悩みだす。

 王太子夫妻の部屋を整えるときはマチルダが好きにするだろうが、この部屋は結婚前に使うだけなのでフェリシテに任されている。義母としてマチルダが気に入る部屋を整えたいフェリシテも、そんなフェリシテの役に立ちたい侍女たちの目も真剣だ。


「他にも色があったわよね?」


 フェリシテが荷物が詰められている鞄に視線を向けた。


「他にはミント色と、クリーム色、それから白のレースをご用意しています」


 ブリュエットが鞄からさっとクッションカバーを取り出す。

 レオニー夫人は一か月も子供を放置できないため同行していないが、荷物の準備はレオニー夫人が確認しながら行った。どうやらフェリシテが悩むであろうことはお見通しで、たくさんの選択肢を用意しているようだ。


「ううん、悩むわぁ……」


 クッションカバーを一枚一枚確かめながら、フェリシテが頬に手を当てた。


「何を悩んでいるんだ?」


 どうやら開けっ放しにしていた扉から外に声が漏れ出ていたようだ。ひょこっと顔を出したのは国王陛下で、クラリス達は慌てて姿勢を正す。


「あら、陛下。ちょうどいいところに。クッションカバーの色ですけど、水色とピンクとミントとクリームと白、どれがよろしいかしら?」

「またずいぶんと持って来たな……。どうせなら全部使えばどうだ? クッションならたくさんあるだろう。足りなければほかの部屋から運んで来ればいい」

「まあ! 名案ですわ!」


 目からうろこ、というようにフェリシテが手を叩く。

 悩んでいたフェリシテは、嬉々として五色すべてのクッションカバーを使うことに決めて、ソファやベッドの上にクッションを並べさせた。


「ベッドの上は白とピンクにしましょう。残りはソファね」

「解決したか? それならば休憩につきあってくれ。小腹がすいてね」


 国王はフェリシテを誘いに来たらしい。フェリシテがくすくす笑いながら、マチルダの部屋の準備をクラリスたち侍女に任せて部屋を出ていく。

 フェリシテと国王がいなくなると、ブリュエットが部屋の扉を閉めながら小さく息を吐きだした。


「第二妃殿下の部屋からは遠いから、ここなら大丈夫そうだけど、念のため部屋の中にあるものはすべてリストアップしておきましょう。……嫌がらせをされたら大変だもの」


 小声でささやくように言ったブリュエットの言葉にクラリス達は大きく頷いた。

 夕方にはジョアンヌたち一行が到着するだろう。フェリシテを目の敵にしているジョアンヌが、マチルダの部屋に何か悪戯を仕掛けないとも限らないのだ。


 考えすぎかと思うかもしれないが、実際、過去にフェリシテの部屋には細工がされたことがあったらしい。犯人不明のままで終わったが、レオニー夫人からおそらくジョアンヌだろうと聞いていたブリュエットの顔は険しかった。


「リストにないものを見つけたら注意するのよ。家具の色もチェックして。少しでも色が変わっていたら警戒するのよ。いいわね?」

「ええ」


 マチルダにはフェリシテの侍女たちも交代でつく。必ず誰かがマチルダの周囲を警戒しておくようにと決めて、クラリス達はフェリシテが国王とお茶をしている間に急いで部屋の中の確認を開始した。


(命にかかわるようなものではないとしても、結婚前に何かあったら大変だもの)


 以前フェリシテの部屋に細工がしてあったときは、触れればかぶれを起す薬品が、窓枠や家具に塗られていたらしい。大事にはならなかったが、フェリシテも小さなかぶれを起してしまったと聞いた。陰湿な嫌がらせである。結婚前にもしマチルダの手や顔がかぶれてしまったらと思うとゾッとした。


(そんな悲しい思いでの結婚式は嫌だもの。気をつけないと)


 記憶ではマチルダがそのような嫌がらせをされたものはなかったけれど、花をめでる会の時と同じだ。記憶にないことが起こるかもしれないと警戒しておくに越したことはない。

 クラリスは飾り棚を確認しながら、この一か月、何事もなくすごせればいいけれどとそっと息を吐きだした。


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