チャプター3 先入れ後出し
「金を出せ」
ゴールデンバットは、拳銃を突きつけつつそう言った。カウンターを挟んで、突きつけられている側の暁は平然とした態度でこう答える。
「あー、もしかしてコンビニ強盗であらせられますか?」
「その通りだが、なんだその妙な敬語は」
「あ、いえいえ。予想外な出来事が起こったもので」
「たりめぇだろ。どこの世界にわざわざ予告する強盗がいる」
「そりゃご尤も」
「もういいだろ。四の五の言ってねぇで、さっさと金を出せ」
「そうしたいのは山々なんですが、できない相談というかなんというか」
「てめぇ、どういうことだ?」
「実は俺、今日入ったばかりのバイトでして、レジの開け方をまだ教わってないんですよね」
「そんなバカな話あるかよ。てめぇは会計するためにそこに立っているんだろ?」
「そう言われましてもね」と、暁は肩を竦めた。「店長はどうせこの時間に人は来ないからと」
「ふざけた奴だ。おい、店長を出せ」
「え、クレームですか?」
「ちげぇよ。レジを開けさせんだよ。そうすりゃ済む話だろうがよ」
「確かに。ですが、それはどうでしょうね」
「今度は何だって言うんだ」
「店長は多忙な方ですからね」
「そんなこと言ってる状況か?」
「でも、疲れて眠っているかも」
「叩き起こせ。どの道、仕事中に居眠りなんざ言語道断だ」
「反社会勢力のくせして、随分と手厳しいですね」
ゴールデンバットは「ああ?」と凄む。しかし暁は臆する気配もなく、「何と言うか、気が引けるんですよね」と言った。
「店長、死ぬほど疲れているでしょうし」
「何も本当に死んでるわけじゃねぇだろ?」
「え、いやー……」と、暁は目を泳がせる。「あるいは手遅れかも」
まるで埒の空かないような会話に、ゴールデンバットは一つ溜め息を吐いた。そしてこう言う。
「もういい。俺が起こしてくるから、事務所に通せ」
「関係者以外立ち入り禁止です」
「……ふざけてるのか?」
「いや、だって現にそうなってるし」
と、その時ゴールデンバットの後方から走り込んでくる影があった。影の男は滑るようにしてゴールデンバットの隣に並ぶと、拳銃を取り出してこう言う。
「観念しな!」
敷島だった。彼はどこか嬉しそうに拳銃を見せつけて、こう付け加えた。
「撃ち殺されたくなかったらな!」
その拳銃をしばらく見つめてから、暁が「え、それで?」と言う。しかし敷島はまるで意に介した様子もなく、こう続けた。
「兄貴の言うことには大人しく従っといた方が身のためだぜ。逆らえば、命がいくつあったって足らねぇんだから」
そのセリフの後にはしばらく沈黙があったが、しばらくしてゴールデンバットが口を開く。
「え、おいちょっと待て。その兄貴ってのは誰のことを言っている?」
敷島は「やだなぁ」と井戸端会議中のおばさんよろしく手を振り、「兄貴は兄貴でしょ」と言った。そのまるで答えになっていない返答にしばらく迷ったが、やがてゴールデンバットは合点がいく。
「もしかして、俺のことを言ってるのか?」
「そっそ」
そのやり取りを眺めていた暁がこう言った。
「なるほど。実は二人組のコンビニ強盗、つまりコンビニ強盗コンビということでしたか」
しかし、ゴールデンバットはすぐさま否定した。
「馬鹿言うんじゃねぇ。俺は、仲間は作らない主義だ」
続いて、敷島に向かって言う。
「なぁ、誰なんだよお前」