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チャプター10 迫りくる夜明け

「てめぇ、どういうことだ?」


 ゴールデンバットは息も絶え絶えにそう告げる。


 彼は今、レジの向かいにある商品棚に背を持たせかける形で座り込んでいる。彼の周囲にはそれまで乗っていたお菓子類と共に、彼自身の血が広がっていた。撃たれた腹部からとめどなく溢れてくるものだ。


 しかし、その瞳にまだ闘士があることを見て取った暁は、「あらら」とひょうきんな声で言った。


「思ったより傷は浅かったかな? なら、もう一発」


 そう言って銃口を再びゴールデンバットに向けた。その状態で彼はさらに言う。


「あ、そうそう。冥途の土産に教えてやるよ。実は俺もコンビニ強盗だったりして」


「どういうこと?」桜がすかさず答える。


「どういうことも何も」暁は言った。「言葉通りだよ。実は俺が一番にこのコンビニの訪れた強盗だったってわけ」


「え、でもだって」敷島がすっかり動揺した調子で尋ねる。「さっきはバイトだって」


 暁はそんな彼を軽く嘲笑った。「そんなの嘘に決まってるじゃん。君が来たから、仕方なく店員のふりしてやり過ごそうと思ったんだよ」


「じゃあ店長を殺したのも?」


 問いかけてくる桜に対して、暁は威勢よく「ご名答!」と答えた。そしてこう付け加える。


「でも殺したかったわけじゃないからね? ごちゃごちゃ言ってくるから仕方なく、ね」


「仕方なくって、そんな簡単に……」敷島が言う。


 暁は答えた。


「そ。人間は簡単に死ぬんだ。その気さえあれば素手でだって殺せる。だからさ、まず人を見たら殺される心配をするべきなんだよ。なのに世間の人たちは呑気だよね。自分が殺されるだなんて心配」と、彼はここで肩を竦める。「まるでしちゃいない」


「そんなに簡単に人を殺せる人間なんていない」桜が言い返した。


「多くはね。でも俺みたいに躊躇いなく殺せる人間は確かにいるし、ましてやどんな人だって時と場合によれば人殺しになる。生まれながらの人殺しなんかいない。きっかけというものが必ずあるんだ」


「……」


 桜の沈黙をいいことに、暁はさらに続けた。


「じゃあ、どうして目の前の人間がそうでないと言い切れる?」


「なら……」桜はようやく口を開いた。「なら、なんで私たちをずっと生かし続けてきたの? あなたにとったら、私たちを殺すことなんてわけないんでしょ?」


「勘違いしないでよ。俺は何も人を殺したいわけじゃないんだ。面倒と手間とを天秤に掛けて、面倒そうになったら殺すの」


「この状況は、とても面倒そうだけど」


「ちょっとね」暁は微かに微笑む。「でも正直、楽しんでいたところもあるかな。俺、今まで犯罪で生計たてていたから、バイトしたことなくてさ。少しだけでも店員の気分を味わうのもいいかなって」


「あまりいい参考にはならなかったんじゃない」


「そうなの? 俺の見てきたコンビニ店員って、だいたいこんな感じだったような気がするけどなぁ」


「それはあなたがいつも強盗の立場だったからでしょ」


「おお、なるほど」


 暁は皮肉でもなんでもなく、素直に納得した。しかしそんな無邪気な表情も一瞬で、目を細めてこう尋ねる。


「ねぇ、ところでさ。あの敷島っていうガキはどこ行った?」


 桜は如何にも知らないとばかりに肩を竦める。「さぁ? 怖くなって逃げ出したんじゃない?」


「へぇ? もしかしてだけどさ、俺を出し抜く気じゃあないよね?」


「彼が今のうちに警察に届け出てるとでも言いたいわけ?」


「いや、あるいはさ」暁は辺りを見渡した。「どこかから俺に狙いをつけているんじゃないかなって」


「へぇ、こんなふうに?」桜が拳銃を構えた。


 暁はその様子を見て、それまで貼り付けていたかのようなにやけ面から、目を細めて真剣な表情になる。どこか冷酷に見えるその視線を、桜は一身に受け止めることとなった。


「これはまずいことになったな」


 暁はそこで、ゴールデンバットに向け続けていた拳銃ごと腕を上げて、降参するかのようなポーズをとった。しかし、その声音にはまだ余裕そうな色がある。


「言っておくけど」桜は言った。「射撃に関しては素人とはいえ、見くびらない方がいいから」


 暁は肩を竦める。「そりゃもちろん。警戒するならまず君だからね。だいたい、あのガキが持ってるのはどう見たってモデルガンだ。おそるるに足らずだよ」


「知ってたんだ」


「当然。一目見ただけでわかったさ。何年、拳銃を握って来たと思ってるの?」


「知るわけないじゃない」


「ご尤も」


「それに」桜は続けた。「忠告しておくけど、あまり自分を過信せずに、もう一目くらい見てみれば?」


 その時だった。暁は背中に固い何かが当たるのを感じた。さらには興奮したような荒い息遣い。男色家の変質者がいるわけじゃないのなら、残る可能性は一つだろう。


 その答え合わせをするかのように敷島が叫んだ。


「動くな! 動いたらどうなってるかわかるよな! 撃つからな!」


 彼が暁の隙をついて背後まで回っていたのだった。そして今、背中に拳銃を突きつけて、いつでも撃てる状態でいる。


 暁はしばらく桜の持つ拳銃を眺めて、それから言った。


「なるほど。入れ替えていたわけのか。君の拳銃と、彼のモデルガンとを」


「あなたが悠長に話している間にね」


「あくまでも自分たちで打開しようとする意志。実に見事だよ」


「それはどうもありがとう。でも見逃してはあげない」


 桜は一層強くこう言い放った。


「あなたの負けよ、暁」

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