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チャプター8 ありあり店

「コンビニってのは犯罪の温床だ。そうは思わないか?」


 とある郊外の、海岸線沿いにあるコンビニに二人の警官が立ち寄っていた。一人は中年の小太りの警察官で、もう一人は新人と思しき警察官だ。


 時は深夜。もう日の出まで数時間であろうという時に、夜勤中の二人は軽食を買いに行きがてらコンビニに立ち寄っていた。ダラダラと雑誌コーナーで立ち読みをしていたかと思うと、中年の警官が冒頭のようなセリフを言う。


 新人の警官が、「そんなこと言うと、訴えられますよ」と返した。


「訴えられるって、誰にだ?」


「全国のコンビニの経営者にですよ」


「何でだ、事実じゃないか。誰でも入れるおかげで民度の低い奴も集まるし、とかく二十四時間やっているせいで、不良のたまり場ともなる。これを犯罪の温床と呼ばずして、何と呼ぶ?」


「でも、それは利用する人に問題があるだけで、コンビニ側の責任ではないですよね」


「その通りだ。だが世間が責めるのはいつも事象ではなく、原因だ。引き寄せる側に問題があるってことだな」


「だから、そんなこと言ったら訴えられますって」


 会話はそこで打ち切られ、二人は移動を開始した。店の隅に位置している雑誌コーナーを離れ、冷蔵コーナーに並ぶ野菜やスイーツ、紙パックの飲料物など横目に歩く。やがて店の一辺分をしめるガラス張りの飲料用冷蔵庫へと突き当たる。


 二人はそこで飲み物を物色しようと手を伸ばし掛けたところで、中年の警官が「ん?」と声をあげた。「どうしたんですか?」と新人の警官が聞く。


 中年警官は、飲料用冷蔵庫に沿って目線を這わせた。それから九十度に首を振り、今来た道を振り返る。再び元の位置に向き直り、「いや」と首を傾げた。


「何か動く気配があったんだが」


 と、曖昧に呟く。


 店内はがらんとしていた。レジにやる気のなさそうに店員が立っているのみで、他には誰もいない。動くようなものなど、どこにもなかった。


「気のせいじゃないですか?」


 新人警官がそう言うと、中年の警官は「そうだな」と素直に認めた。それから二人は、思い思いの飲み物を手にレジへと向かう。


 たかだか数百円程度のものを別々に会計するのも面倒だったので、二人は一緒に会計をすることにした。すると、店員は焦ったように電卓を取り出し始めた。


「おい、レジ使えばいいだろ」


 中年の警官がそう指摘すると、店員は「今、故障中で」と言う。さらに、「お釣りもそんなに出せないので、できればぴったりで出してくれるとありがたいです」と続ける。


 面倒くさいが致し方ない。二人は各々財布を弄りだし、小銭をすぐに出せる準備をしていた。合計が終わるのを待つ。


 と、その時だった。飲料用冷蔵庫の裏から声が聞こえた。男女一対の声だ。何を話しているかまで聞こえないが、こそこそとしている時点であまりいい意味での話し合いをしているとは思えなかった。


 中年警官が言う。


「なぁ、中に誰かいるのか?」


 店員が電卓から顔を上げて答えた。


「ええ、まぁ。ちょっと品出しをしてもらっているんです」


「あー、初対面で聞くようなことじゃないかもしれないがな、あんた、人がいい、とか言われたことないか?」


「え、いやー、ないですかね。どちらかと言うと、悪い方ですし」


 そう答えらえれて、中年警官はまるで全てを理解したように「はいはいはいはい」と頷いた。


「よーく、わかったよ。そういうこと言う奴は大概お人よしだ。自分が悪いと思っているから、相手に対して強気に出られないんだな」


「いや、そんなことはないと思いますが」


「そんなことあるさ。人間誰だって、自分の弱さを認めたくはないものだな。ともかく忠告しておくが、そんな調子でいると利用されっぱなしの人生になるぞ」


 そう言われても尚、店員はまるでぴんと来ている様子はなく、「はぁ」と曖昧に頷いた。隣に並ぶ新人警官の方へと目をやり、彼が肩を竦めるのを見て、適当に流しておけばいいことなんだと悟った。


 しかし、中年警官は却ってその態度が気に障ったようだ。「よし」と彼が唐突に提案しだす。


「今日のところは俺がガツンと言ってやる。だが次からはあんた自身でやるんだ。いいな?」


 そう言って何をするのかと思ったら、彼は飲料用冷蔵庫へと向かいだした。静止を掛ける店員の声も厭わず、その裏に続く扉へと歩いて行く。


「ちょっと、先輩」


 と、新人警官が呼び止めるのと、二人の後方の棚の裏から髭面の男が飛び出してくるのはほぼ同時だった。そしてすぐさま、耳を劈くような音が聞こえた。


 髭面の男は拳銃を持っており、その引き金を引いたのだった。その余韻もやまぬうちに、中年警官は倒れて行く。しばらく息はあったものの、続く何発かで完全に息を引き取る。


「先輩?」


 まだ事態を呑み込めていない新人警官は、そう呼びかけた。しかし返事がなく、既に屍となり果ててしまったことを悟ると、ようやく理解し始める。


 銃声のあった方へと視線を向けてみれば、その拳銃は新人警官を向いている。銃口が「次はお前の番だ」だということを如実に語っており、思わず尻餅をついた。股間がたちまち染み出し、そのまま周囲の床を濡らした。


 と、その時だった。飲料用冷蔵庫の裏側へと続く扉が開かれ、男女の二人組が現れる。一連の出来事を聞きつけて現れたのだろう。僅かに息を切らした様子の二人は、床に横たわり、止めどなく血を溢れさせている警官の姿を見るにつけ、目を見張った。


 女の方が冷たい声で言い放つ。


「これは、つまりどういうこと?」

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