第十話 過ぎ去りし者の思いを着物に乗せて
(そして運命の日が訪れた。俺は別室で紋付き袴を着て時間まで待っていた。そして傍には誠伯父さんと厳雄お義父さんがいてくれた)
…君が…六年前にこの村を訪れて菫と喧嘩をして…御前会議が行われて早いものだな…今だから正直にいうよ。菫が身籠って父親が誰かと騒がれた時…あの子は最後まで君の名を告げずにいたのだよ。理由は何故かわかるかい?
(巌雄お義父さんから告げられた言葉を聞いた俺は驚いていた。てっきり厳の爺さんが、俺の名を告げているものと思っていたからだ。でも巌雄お義父さんから告げられた真実は全く別な物だった)
菫が一人で有権者の方々と闘ったのだよ。あの君が、初めて連れて来られた屋敷の大広間でね。あの子は君とお腹の子を守るために一人で懸命に戦って、有権者の方々を納得させたのだよ。私達の手も取らずにね。見事な姿だったよ…
(その言葉を聞いた俺は一瞬ふらつくほどの衝撃を受けていた。その俺の身体を支えてくれたのは、誠伯父さんだった。そして最後にお義父さんは俺に告げて来た)
あの子は守られるだけの女ではないよ…ほら、そろそろ時間だよ!行って来なさい…菫が待っているよ
(襖を開けて大広間に向かう廊下で、俺は前方に立つ一人の女性に目が釘付けにされていた。綺麗に飾り付けられた花嫁衣裳を身に纏った菫が、笑みを浮かべて立っていた)
…どうかしら…
(花車文様の綺麗な着物を身に纏った菫に、俺は声をかける事も出来ずに見惚れてしまっていた。そんな俺の腕に菫は腕を静かに絡めて来て正気に戻った俺は、隣に腕を絡めて来ている白無垢の角隠しをかぶった菫の方に視線をずらすと、菫の力強い言葉を受ける)
しっかりして…今日は長い一日になるんだからね…
(化粧をしてさらに美しくなった菫の微笑みは、かなりの威力を持っていた。その言葉で俺は、この後の事を思い返して完全に正気に戻っていた。そして俺と菫は大広間の襖を開けて、中にいらっしゃる皆様に頭を下げ一礼をすると、奥に歩み進めて行く。その道中に、医師の付き添いで車椅子に座った縁祖母ちゃんの姿を見つける。祖母ちゃんも綺麗に化粧をしていた。そして俺と菫の方を見つめ続けてくれていた。神主の前に辿り着く前に、俺と菫は縁祖母ちゃんに視線を向けて深々と一礼した。その時、擦れ声で微かに聞き取れた祖母ちゃんの声に…)
……星…にいさま…お…め…で……と…う……て…る…お…ね…さ…
(その言葉に俺は眼を見開いて驚いていた。祖母ちゃんの意識は既に限界を迎えかかって来ていた。菫は祖母ちゃんの傍に駆け寄ろうとするも、俺は力強く静止して神主の方に向かい始める。そして夫婦の契りを交わす、三々九度を成した。その際も菫は涙を流し続けていた。俺は泣かずに最後まで務めを果たす事を、心に決めていた)
第十話書き終えました。
残り数話になります。最後まで走り切ります。何卒宜しくお願い致します




