第六話 優しく美しきもある母の愛
…帰ったよ、お前の嫁さん…
(星川優姫が霊界に帰る前に一言だけ、俺に言い残して行った事があるが、それは景宛ての言葉ではなく、彼女と景の宝物、星川駿宛ての物だった)
ありがとう…澪、実際に目の辺りにすると違うな…お前の、その特異体質というか、霊媒体質は…
(景には何度か話した事はあったが、景の前で実際に行った事はなかった為、俺は無言のまま笑みを浮かべて景に背を向け始めると、景の奴は俺の背中に言葉を語り掛けて来た)
…澪!…優姫に会わせてくれて…本当に…本当にありがとうな…あいつの…、優姫の最後の言葉が聞けて良かったよ…
(景の言葉は震えていた。俺はその表情を敢えて見ずに寝室のドアノブに手をかけたまま、ポツリと語り掛ける)
ふん…何が最後だよ…いいか、景…霊界で会いたいと強い思いを抱けばな…その願いは必ず天に届く…俺は神なんか信じてはいないが…ただ霊界にいる、親父と呼べる人を、父と慕って精一杯に生き続けているよ…その人が神とかなんか、俺には関係ないんだ…。…あの人は……
(静かに俺はドアノブを回して、寝室を出てリビングに出て行くと、仲睦まじく遊んでいた北条凛と星川駿に俺はゆっくり近寄って行く。そして駿の前で俺は床に膝を着いてゆっくりと駿に語り掛ける)
…改めて自己紹介するね…君のパパの友達の南雲澪と言います。宜しくね…駿君…
(傍にいる凛は、驚いた表情で俺の事を見つめて来ていた。俺が自分でも気が付かない内に、父親の笑みを駿に向けていたからだ。そして駿の髪を優しく撫で終えると、駿は緊張した面持ちで俺に挨拶をして来た)
あっ……えっ…と…星川駿です…パパは?大丈夫なの?
(凛は駿を落ち着かせる様に、背中を優しく摩り始める。そんな二人に俺は自然と笑みを浮かべながら、語り掛けた)
景は疲労による、単なる風邪だよ…直ぐによくなるよ。まぁ医者でもない俺が、無責任な発言をして申し訳ないな…それと駿君…君宛てに大事な言葉を預かっているんだ…聞いてくれるかな?
(凛は駿の身体を優しく抱き止めながら、俺の言葉を聞くと、納得した様に笑みを浮かべて駿の背後に回り込み、静かに俺の言葉を聞き始める)
≪駿ちゃん…ママはいつまでも駿ちゃんの事を見守っていますからね…≫
(俺の言葉を聞いた駿は、突然泣き始めた。それは、小さな体にずっと溜め込み続けていた、母を追い求める感情が爆発して、涙腺が崩壊した証拠だった。俺はそんな星川駿の泣き続ける姿を見守りながら、心の中で星川優姫に言葉をかけていた)
よかったな…
(俺のそんな言葉に星川優姫は母親の暖かな笑みを浮かべて見せながら、俺に静かに頭を下げている姿が見えていた)
第六話書き終えました。