第十一話 過去から現代、未来の子供達へ贈る祝福の言葉
(一夜明けて、朝露が滴り落ち大地を濡らす朝に、俺は布団の中で目を覚ましていた。隣では、麗華を大事に抱えて眠っている菫の姿があった。その菫の髪を優しく撫でて布団から出て廊下に出ると、巌雄が庭で野菜を収穫していた。その姿を見つめていると、巌雄は俺の存在に気が付いて、こちらを見つめて来る)
もう起きたのかい?…澪君と菫の結婚式を開く為に、既に村の方達は慌ただしく動き始めているよ…
(昨夜遅くまで大広間で話し合っていたのは、俺と菫の結婚式を開く為の話し合いも含まれていた様だった。それは既に厳の爺さんから聞いてはいたけど、天河村の方達と総手で行われるとわかる)
あれ?…こんな朝早くから車が…来ている…
(巌雄の話を聞いていた俺の視界には、一台のワンボックスカーが近寄って来るのが見えた。それには巌雄も首を傾げて、その視線の先の車を見つめていた。そして、その車は東雲家の屋敷の前で停まると、助手席から降りて来た人物を見た途端、俺は冷や汗を流して後退りをして、菫と麗華が寝る部屋に戻ろうとした時だった。門の方から車椅子に乗せられた人を見た途端に、今度は驚きと共に玄関に向かって走り始めた)
縁、大婆様!!…なぜ貴女が…
(車椅子を押しているのは、誠伯父さんだった。その後方には、千紗伯母さんが怖い形相で立っていた。南雲本家の女性の現当主の、南雲縁が外に出る事は極めて珍しい。その御婆様は俺に暖かな笑みを浮かべて手招きをしてくれた為、俺は御婆様の目の前で膝をついて、その言葉に聞き入った)
お…め…で…とう…れ…い…
(御婆様の精一杯な声で祝福の言葉を受け取った俺は、御婆様の膝元で涙を流し始めてしまう。そんな俺の頭を御婆様は頭を静かに撫でてくれた。その時後方から、厳の爺さんの声が聞こえて来た)
まさか…本当にまだ御存命だったのですね…南雲縁様…
(厳の爺さんは御婆様の事を知っている様だった。玄関の外では巌雄が取りたての野菜を抱えて、暖かく南雲本家の皆様の後ろ姿を見守っていた)
第十一話書き終えました。