第十三話 戻りし夫妻と去りし子孫
(俺達は、憐の爺さんの遺体が置かれている部屋の外で大号泣する、慧美の泣き声を聞いていた。俺の隣では、菫が俺と同じ様に山々を見つめていた)
さっきはありがとうな…お前の言葉は嬉しかったよ…
(菫は照れた様に俯き加減で語り掛けて来た。菫の手は俺の手を握って来ていた。そして言葉を俺に語りかけて来た)
憐のお爺様とのお約束を必ず共に果たしましょうね…私、待ってますから…澪さんがこの村に帰って来てくれる日を…
(握りしめる手は力強かった。そして菫の表情は、迷いなどないといった晴れやかな顔をして、山を見つめていた。そして襖が開いて、礼一だけが出て来て、そして俺達に土下座をしてきた。謝罪と感謝の言葉を送って来た)
皆様、此度は父、憐を手厚く見守って下さり、誠にありがとうございます。そして昔、私が犯した罪は一生涯をかけて償おうと思います。ですが、一つだけお頼みがございます。妻の慧美だけは、父の眠るこの地に帰してやってはくれませんでしょうか?何卒お願い致します…
(頭を床に擦り付けて俺達に頭を下げて来た。礼一に近寄ったのは厳の爺さんだった。爺さんは礼一の肩に手を置いて、ゆっくりと語り掛けていった)
その手を顔を作業着を見れば…お主がどれだけ改心したかは言わずともわかる。そして妻の慧美もな。あれほど派手だった女子が立派に改心したの…宝石など何一つ身に着けずに、割烹着姿で帰って来た…あやつを誇りに思うぞ…
(厳の爺さんは膝を着いて、礼一の頭を優しく撫でながら、部屋の中に眠る憐の爺さんに慧美は縋りつきながら崩れる様に倒れる姿を見た。菫は俺の手を放して一早く駆け寄って行く)
いけない!!誰か冷たいタオルを…あとお布団を用意して下さい…
(菫は慧美の身体を抱きしめながら、両家の者達に的確に指示を出していた。体格のいい男は慧美を抱えて別室に連れて行った。そして女性陣に慧美の事を任せ終えると、男性陣と礼一は葬式の手配を着々と進めていた。そして葬式の日程が決まった)
この日か?…
(日程を聞いた俺は、カレンダーを一人で見つめながら、帰る日と重なっている事を誰にも伝えない事にした。礼一は慧美と共に天河村に帰って来る事を許された)
≪澪よ、せめて…あの娘には伝えぬのか…また一人に戻るのか?≫
(西野家の縁側で一人、柱にもたれかかりながら親父の言葉を聞いていた)
なぁ親父、この村に来てからというもの……色んな事があったよな…父さんの事や母さんの事…古の村人達の事…、憐の爺さんの事…そして西野礼一夫妻の事……楽しかったぜ…。だからこそ最後まであいつらの邪魔はしない…数十年前にこの村を去った者達が改心して帰って来たんだ…そこに水を差すなんで野暮だろ?
(山の神々も霊界の家族達も悲しんでいた。だが俺には迷いはなかった。ここ数日、初めてなくらいに充実した日々だったからだ。俺はあいつらに感謝しなければいけない。そして何も言わず去る事の謝罪を、心の中でしていた)
第十三話書き終わりました




