第十二話 霧の中で輝きし花達
(翌朝、俺は誰よりも早く目を覚ましていた。そして、西野家の屋敷の外に出て、霧がうっすらと立ち込める天河村を見渡し始める。すると、一人の作業着を着た男と割烹着姿の女が息を切らしながら、こちらに小走りで近寄って来る姿が垣間見えた)
…誰だ?こちらに向かって来ているよな…
(次第に、二人の姿がハッキリと見えて来た。女性の方は割烹着姿で、目元は涙を流した後なのか、腫れていた。そして、もう一人の男の方は、土木作業着のままで大荷物を担いでこちらに小走りで近寄って来ていた)
…礼一様と、その奥様、慧美様です……ようやくお帰りになられたのですね…
(早朝の霧のうっすらと立ち込める中を、小走りで近寄って来る二人を見ていた時だ。俺の隣に突如現れた未世の婆さんの言葉に、霧の中から現れた二人を見つめる)
あの男が、礼一…か…
(山の神々も見極め中の様だった。その時、妻の慧美の鼻緒が切れて、前屈みに転んでしまう。そんな姿に俺は駆け寄ろうとするも、婆さんに肩を掴まれて、止められてしまう)
いけません!これはあのご夫妻に与えられた試練なのです…
(婆さんの言葉は震えていた。自らも、本当なら駆け寄りたいであろうに、ぐっと堪えていた。俺は二人の第一印象を見た時に、素敵な夫婦だなと感じていた。だが、二人の事を知っている村の者達が見れば、口を揃えて述べるだろう)
別人の様に立派に成長されましたな…礼一様、慧美様…お帰りなさいませ…
(礼一が妻の肩を抱きながら慧美は足を引きずり、礼一共に俺達の元に駆け寄って来た。その未世の婆さんの表情は涙を流していた)
ただいま、帰りました。未世叔母様…
(礼一が帰宅の挨拶を婆さんに告げた後に、妻の慧美は婆さんの胸元に飛び込んで、号泣し始めた。そんな慧美の背中を婆さんは優しく撫でながら、憐の爺さんを想い、共に涙を流していた。門の内側では、両家の者達が涙を流しながらこちらを見守っていた。その中には菫の姿も含まれていた)
第十二話書き終わりました。




