第五話 月下の花に守られし者達
あんたが北条小夜さん、なんだな…
(爺さんが旅立った後、まるで山の神々が泣いている様に天候は悪化して雨が降り始めて来た。俺と菫は爺さんの身体を守る様にして、覆い被さった。雨は強まり、俺も菫もずぶ濡れになり始めていた)
≪この先に小さな洞窟があります。そこで憐さんの身体も保護して雨が止んでから…お二人のどちらかが山を降りられて救急隊を呼びに行かれます事をお勧め致します…≫
(その言葉を聞いた俺は、爺さんの身体が死後硬直に入る前に抱えて、洞窟の元に駆け足で向かった。そしてその中に入り、爺さんの遺体を寝かせた時に俺は驚いていた。爺さんの表情は笑っていたのだ)
俺がここに残るよ。そいつの方が、村人達に対する発言力もあるし、信じてもらえるだろうからな…
(俺の言葉に、小夜さんは一瞬悲しい表情を見せるも、俺の言葉に賛成してくれた。そして小夜さんは俺に言葉を送って来た)
≪憐さんの最後を看取って下さり、誠にありがとうございました…≫
(小夜さんは頭を深々と下げてきた。そして俺は小夜さんの感謝の意思を尊重する様に、菫の髪を優しく撫でてやる)
…そいつにも感謝を忘れないでくれな…
(小夜さんは暖かい笑みを浮かべて、ゆっくりと下がられた。そして菫は自身の肉体に戻ると、永眠している憐の遺体に縋り付く様に大泣きし始めた。その様子を俺は黙って見守っていた。そして泣き止んだ頃に、語り始める)
このままじゃ爺さんの遺体が腐敗しちまう。雨が止んだ後もぬかるんだ足場で怪我をする恐れがあるからな…
(俺の言葉を聞いて、菫は爺さんの遺体から離れて俺に寄り添う様に座り始める。二人して爺さんの遺体を見つめながら、ポツリと菫が語り始めた)
憐のお爺様は、本当は心優しいお方だったんです。村の方々は、お爺様の事を悪く言う方もいらっしゃいます…。でも、最善の選択を為された時には、犠牲と言う言葉が生まれると仰っていました…
(菫の言葉を聞いて、爺さんは自らを犠牲にして村の者達に最善の選択を与え、自らを嫌われる立場に追いやった。その時だった、山の神々から言葉を語り掛けられた)
≪誰かが山を登って来ておる、その者の屋敷の者の様じゃ…あまりにも危険すぎる…≫
(山の神々の言葉を聞いた。脳裏に屋敷を出る時に悲しそうな表情で送り出してきた使用人の婆さんの事が、脳裏に過ぎった。すると、霊界の親父から肯定のサインが送られて来た。そのサインを感じ取った俺は、菫と山の神々達の制止も振り切って、土砂降りの雨の中を飛び出して行った)




