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アシゲタのポル  作者: もろこしなめこ
1/1

鉱山の村


――カンッ!――カンッ!――カンッ!


荒野に堅い音が響く。


「っ!」


――カンッ!――カンッ!――カンッ!


長く大きなツルハシを持った少年たちがそこにいる。少年たちはツルハシを構えて一心不乱に振り続けていた?


――カンッ!――カンッ!――カンッ!


「なぁ!ノポル!」

「なんッ、だ!アシゲタ!」


その中の少年、幼なじみのアシゲタとノポルは互いに声を交わす。


「お前さッ!自由になった、ら!どうする!?」

「自由ッ、て!僕たちにそんなの!ないだッ、ろ!」


――カンッ!――カンッ!――カンッ!


「分かんねぇだろ!いつか!石っ油でも、あてて!自由になるかも!しんねぇし!金ッなんて!当てたら、億万長者ッだ!」

「来ればいいけどねッ!そんなッ日!」


「それでよ!自由になったらよッ!俺!世界中旅してぇんだッよ!」

「正気かッ?!いくら天才のッ!君でも!死ぬッぞ!」


二人は楽しそうに言葉を交わしながら腕をふる。筋骨隆々とした褐色のアシゲタの腕、少し細いがしなやかさと繊細さを感じさせるレモン色のノポルの腕。太陽に照らされて、二人の腕からは輝かしい雫が垂れる。


「大丈夫ッだ!俺の天才的なセンスとッ!お前のッ!機械いじりのッ!才能がッ!あれば!無敵だッ!」

「僕もいくのかっ?!」

「当然ッだ!お前も連れてくッ!」

「無茶言うなッよ!」

「いいや!無茶じゃないッ!」


―――カンッッッ!!!


一際響く音がした。そして、アシゲタはその身を超える大きなツルハシを置いて叫んだ。


「俺の夢はッ!!自由になってッ!世界を旅することだッ!!」


『うるさいぞそこっ!真面目に働く気があるのかッ!!』


「うわぁっすみません監督!」


(怒られちまったな)

(誰のせいだと思ってるんだ!)


「…まぁでも、僕も悪くないと思う。その夢」

「だろ?」


アシゲタはにししと笑い、ノポルはふっと鼻から笑う。

二人は再びツルハシを掲げ、太陽がその錆鉄をきらりと輝かした。



―――――――――――



『よし、そろそろ梟の時間だ!撤収するぞ!片付け急げ!』


「だってよ、行くぞ」

「りょーかーい」

「おいまたバラしてんのか?無理だって、俺たちに分かりっこねぇよ

。」

「でもなんか気にならんだよね〜」

「せいぜいガラクタだろ。ほどほどにしろよー」


ノポルは少しだけオレンジ色に光るボロ臭い球体をじっと見つめて、寝床のアナグラへの帰路についた。



ふかふかとは言い難いが、多少なりとも落ち着ける程度のベッドに寝転がり、蒼く光るランタンに手をつけると、ふとあることに気づく。


(あれ?)

「ペンダントは?」


「…あ?どうしたよノポル。」

「あぁ、いやちょっと探し物で」

「ペンダントってお前妹からもらった大切なもんだろうが」

「いや、大丈夫だよ。多分見つかる。」

「見つかるってお前もし外に落ちてたらもう2度と見つからねぇぞ」


ここら辺は荒野が広がっており、夜は非常に冷え込む上に風も強い。もしペンダントほどの小さなものが落ちていれば、たちまち砂と風に流されて消えてしまうだろう。


「あれ…ない。…どうしよう…」

「…でるか?外。」

「…え?」


予想外の提案に思わず目を見開く。


「お前の家族の写真が入ったひとつだけのペンダントなんだろ?」

「でも…」

「大丈夫、バレなきゃいいんだから。それにこんな辺鄙なとこ梟もこねぇよ。」

「……」


決断に悩む。ペンダントを取りに行きたいのは山々だが、梟はここら辺では見かけることが少ないとはいえ、見かけないわけではない。しかも、夜となるとあまりにも危険が伴う。


「大丈夫、俺たち二人なら無敵だ。」

「アシゲタ…」


そうだ、二人ならどんなことだって乗り越えてきた。借金取りから孤児院に転がり込むときも、ここで働かせてもらうことになったときも、機獣に襲われそうになったときも、いつだって二人で乗り越えてきた。それに梟は滅多に来ない、きっと大丈夫だ。


そう思って自分の背中を押した。


「分かった。でも慎重に行こう。」

「あぁ任せろ。」


上着とツルハシ、そしてランタンを持ち、二人はアナグラの出口へと向かった。




「どこら辺まで持ってたかは覚えてるか?」

「確か…」


帰路を辿り、暗い地面を這うようにして眺めながら探す。


「…にしても綺麗なもんだな。初めてみたぜ。」


アシゲタが顔を上に向けてそう呟いた。


「え?…あぁ、そうだね。凄く、凄く綺麗だ。」


視線の先には(そら)いっぱいに詰まった星々が瞬いていた。その奥には幻想的な天の川が広がっている。


「自由になったら、こんな景色もたくさんみられるのか」

「あぁ、そっか。…そうだね。こんな景色がたくさんあるのかもね。」


二人はしばらくの間そこに座って星を眺めていた。二人にとって初めて見た夜空はまるで自分たちが探し求める夢の先の景色のように輝いて見えた。


「…ん?」

「どうしたの?」

「いや、いまあそこにキラッとしたものがあったような。」


そう言ってノポルはアシゲタが指差した方向へ行く。するとそこには半分砂に埋まりかけたペンダントがあった。


「やった!見つけたよ!」

「バカっ!声が大きい!」


アシゲタは急いでノポルの元に駆け寄り、口を塞いだ。


(…ご、ごめん。)

(よし、帰るぞ。)

(…うん。)


その時だった。


―――ギッ、ギギッ


錆びた機械を動かすような音が聞こえた。


「「…!!」」


―――ピッ、ピッ

―――ギッ、ギピッ

―――ザザッ

―――シュー…シュッ


音はどんどん増えていく。


「走れッ!!」


言われると同時に走り、ノポルはランタンをつけた。見上げてみるとそこには既に5、6体の梟が飛んでいた。


―――ズサッ!ザザザッ!


背後で乾いた音が何度も聞こえた。


―――ジュッ!


時折焼け焦げるような音も聞こえる。


「いいから走れッ!!!」


アシゲタの声で我に帰る。一瞬転びそうになったがなんとか持ち直し、走り続ける。


「ノポルッッッ!!!」


アシゲタが振り返った瞬間、ノポルの視界がガクっと落ちた。


「え?」


足元を見ると脚がふくらはぎから消えていた。


「っぎ、ぁあああああああ"あ"あ"あ"ッ"!!!!」

「ノポルゥ!!!」


アシゲタが駆け寄ろうとする。


「っく、るなぁ!走れアシゲタァ!!!」


アシゲタの足が一瞬止まる。梟たちにとってはその一瞬で十分だった


「うわぁぁぁっ!!!」

「アシゲタァァ!!」

「くそっ離せっ!!離せっ!!」


アシゲタが必死にもがくも梟はびくともしない。


「アシゲタッ!!」


ノポルは腕の力で身体を跳ねさせ、アシゲタの身体にしがみついた。


「ノポルッ!俺のことはもういい!離せっ!」

「嫌だっ!まだ夢の一つも叶えてないじゃないか!!」

「いいんだノポル!離せ!!」


同時に梟が身体をくねらせ、ノポルを振り落とした。


「アシゲタァッ!!!!!!」


瞬間、


――ビシュッ!


ノポルのポケットから細いビームが飛び出し、梟の羽に命中した。


――ボッ!


小さな爆発が起こるが、それはアシゲタを振り落とすことは出来なかった。


「アシゲタァァァァッッ!!!!!!」


ノポルの絶叫だけが空に吸い込まれていった。

しかし、梟は一体ではない。


「!!」


次々と梟がノポルにおそいかかる。

必死に腕を使い、身体を跳ねさせ、ランタンを遠くに投げ飛ばし、注意を引きながら、脚に来る激痛に耐えて逃げる。いつの間にか口の端には血が垂れていた。


「くそっくそっくそぉ!」


しかしそれでも限界がある。顔に二つ穴の空いた鉄仮面の梟が今まさにノポルに掴みかかろうとしていた。


『うおおおおおお!!!!』


―――ガンッッ!!


鋼と鋼のぶつかる特有の音と共に火花が周囲を少しだけ照らした。


「監督!!」


監督はノポルを抱き抱え、一目散に逃げるとアナグラへと滑り込むようにして潜り込んだ。



ノポルは助かった。ノポルだけが助かった



―――――――――――――――



「…夜空は嫌いだ。」


苦虫を噛み潰したような顔をした青年は、傍の途中から折れたツルハシとは逆の方向に寝返りを打ってうずくまった


そのツルハシには『アシゲタ』と書いてある

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