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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第十二話 けもの
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絶対殺すガールズ=ウイ 12-4

「何してるお前ら。イカれてるのか?」


 羽衣(うい)の背後に悠然と佇んでいた。

 間に合った。

 羽衣は、感動なのか歓喜なのか、それとも痛心なのか、もはや何かも分からない感情でグチャグチャになって、振り返って、それから、甲板に突っ伏して、叫んだ。


「かぁーちゃぁーん!! ………………ありがとう!!!」


 そんな羽衣の傍らに膝を突き、その震える背中を優しく撫でながら、かささぎは小さく呟いた。


「良くやったな、羽衣。お前が立ち上がったところ、見ていたぞ」

「何もやってないよ!! 何もできなかった……うちは何もできなかったよぉー!!!」


 泣き叫ぶ羽衣。

 だが、かささぎは羽衣の腕を引き上げると、ゆっくりと歩みを進めていった。

 胸にナイフが突き立てられたままの、和宮(かずみや)八神(やがみ)の元へと。


「八神くん!!」


 ヨタヨタとした足取りで和宮八神に近づいてきた羽衣は、その様相に戦慄しつつも、やはり痛心が勝ったらしい。

 急に和宮八神へと駆け寄ると、傍らに突っ伏してナイフを引き抜こうと手をかける。


「待て。それを抜くな。今抜けば、一気に失血してすぐ死ぬ」

「っあ!」


 かささぎの忠告を受け、羽衣は驚いて手を止める。


「抜かずに適切な治療を受ければ死ぬことはない。だがまぁ、その負傷だ。二度と身体能力が戻ることはないだろうがな」

「し、死なない? 本当に?」


 羽衣が振り返って見上げていた。

 涙と鼻水でグチャグチャで、猜疑心に満ち溢れた表情で。


「本当だ。それは、お前がしっかりと時間を作ったからだ。そいつを救ったのはお前だ」

「そんなことないよ、そんなことない。うち……何もできなかったよ」

「そう思うか?」


 そう思うよ。

 羽衣が心の声を口に出そうとした時だった。


「いい……や……」


 代わりに答えたのは、和宮八神だった。


「八神くん!? 喋らないで!?」


 振り返り制止する羽衣を余所に、口から血の泡を吹き出しながら、和宮八神は口角を上げて続ける。


「お前……が……頑張って……くれたから……僕も……頑張……れた……お……前……のお陰……だよ……」


 和宮八神は笑っていた。

 本当に優しい表情を浮かべながら。


「そういうことだ。お前がこいつを奮い立たせたからこそ、時間ができた。お前がいなければ、こいつはとっくの昔に殺されていた」


 そんなことない。

 そう言いたかった。だけど、そんな風に言ってくれること、何よりも嬉しかった。


「八神くん……すぐ、連れていくよ。病院、連れていくからね」


 力ない和宮八神の手を取る。

 その血みどろの手首には大きな風穴が覗いていた。


 だがしかし。


「いや、それを決めるのはお前じゃない」


 予想外の言葉が、羽衣の頭上に振り落とされた。


「え?」


 もちろん、羽衣にはその意味がすぐには理解できなかった。

 そっと振り返ると、艦橋の灯りを逆光に浴びたかささぎの影が羽衣にのしかかっていた。


「羽衣。ここからは〝 けじめ〟の時間だ。安心しろ、そいつが死ぬ前には終わらせる」

「け……じめ?」

「ああ、そうだ。私はそいつが今ここで死ぬべきではないと思っている。そいつは法の代行者を気取って殺しを続けてきた。だから、そいつが裁かれるべきは、無法の死ではなく、自身が軽んじてきた法によってだと思っている。そいつは逮捕され、裁判にかけられるべきだと、思っている」

「だ、だけど……八神くんは……味方してくれた……よ」

「だが今、それを決めるのはお前じゃない。今、それを決めるべきは……」


 そう言ってかささぎが指さした先。

 艦橋の陰からこちらを覗いていたのは、


「あいつだ」


 鶴岡(つるおか)・レオニダス・(じゅん)だった。



 ーーー鶴岡はかささぎの傍らに佇んでいた。

 足元には血みどろの死神が転がっている。

 胸に深々とナイフを突き立てられて。

 

 羽衣も、かささぎの腕にしがみつき、並んで八神を見下ろしていた。


「潤、お前が決めろ。お前にはその権利があり、今この場で最も相応しいのはお前だ」


 鶴岡がかささぎに首を向ける。


「相応しいって、僕が、ですか?」


 その表情には、明らかな畏怖が漏れだしているのが分かった。


「そうだ。お前だ」


 にべもなく言い放つかささぎ。


「どうして、僕なんですか?」


 鶴岡は食い下がった。

 無理もない。

 羽衣は感じていた。

 確かに、鶴岡は目の前で、彼をイジメていた少年を殺された。

 だが、少年は鶴岡にとって、大切な人間だったのか?

 その後、桐谷(きりたに)海斗(かいと)も殺された。

 彼に関しては羽衣にもやはり思うところはある。

 彼は……友人だった。

 羽衣は……友人の死よりも、その友人が犯した法で裁けぬ罪に嫌悪を抱き、そしてなによりも、法を打ち破る和宮八神に心酔してしまった。

 なるほど、であれば、やはり韮崎羽衣には和宮八神の処遇をどうこうする権利など、ないのかもしれない。

 では、鶴岡は?

 羽衣には、鶴岡が桐谷の死をどう受け止めたのか、分かりかねていた。

 その頃には既に、羽衣の目は死神に釘付けになってしまっていたのだから。

 堕ちてしまっていたのだから。


「潤」


 かささぎが鶴岡に首を向ける。


「逃げるな。お前が決めるんだ。お前は一度たりとも道を踏み外さなかった。お前なら、決められる」


 その声には、強さしか詰まってはいなかった。

 そして、その意思には、鶴岡に対しての信頼しか詰まってはいなかった。


「分かりました」


 鶴岡が言った。


「かささぎさん。僕は……」


 鶴岡の声もまた、強さで満ち溢れていた。


「この人が、法で裁かれることを望みます」



 それは……羽衣と和宮八神との、永遠の別れを意味していた。



 かささぎは潤の腰に手を回し、しっかりと抱き寄せる。

 それから、和宮八神を見下ろして言った。


「聞こえたか? グリムウォッチ(死神のまなざし)。これが、お前が生み出した悲しみの犠牲者の、強い心の声だ」


 和宮八神は静かにかささぎを見返すと、ゆっくりと頷いて見せる。


「ああ……異論は……ない。俺は……もう……貰っている……から。羽衣に……人の心ってやつを……。だから……きちんと……受け止める……」


 そう言って、八神はにこりと微笑んだ。

 顔を歪ませた韮崎羽衣に向かって。


 だが……羽衣は泣き崩れなかった。

 今度は踏みとどまった。

 今度は、堕ちなかった。


 かささぎはそっと羽衣を抱き寄せ、妹分の頭に顎を乗せて、囁いた。


「偉いぞ、羽衣。よく頑張ったな」


 羽衣は必死に慟哭を堪えていた。

 涙と鼻水でグチャグチャになりながらも、唇を噛みしめて。

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