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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第二話 絶対殺すガールを追え
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高校一年生=レオニダス 2-1

 どうも! こんにちは!

 僕は鶴岡(つるおか)・レオニダス・(じゅん)! 東京府立能楽町(のうがくちょう)高校に通う一年生! ピッチピチの十五歳、花の男子高生です!


 実は僕、つい先日、アルバイトしてるコンビニを強盗に襲われまして、その精神的ショックで二日間学校をお休みしてました!

 いや本当は別にショックとかあまり受けてはいないんですけど、お母さんとか先生とかに勝手にショックを受けてると決めつけられてしまい、無理やりお休みさせられてたんですけどね!!

 とりあえず二日間、束の間の自由を謳歌して、本日復帰となりました!



「ああ! 鶴岡くんだ!」


 コの字型の校舎。四階の隅の方にある、一年四組の教室に入った瞬間です! 未だかつて聞いたことの無い黄色みがかったレモン色的な声が浴びせかけられました!

 もちろん最初は耳を疑いました!

 だって、そんな甘酸っぱくてファンキーなイエローボイス、僕はこれまでの人生でかけられたことなんて皆無だったのですから!

 それは二日前に走馬燈で確認したばっかりなので、割と新鮮な記憶として残っております!

 でも、明らかに僕の名前を呼んでます!

 他の鶴岡くんの可能性も無くはないですが、うちのクラスにはタブチくんの次はトノムラくんしかないないので、残る()()は僕だけなのです! あ、いちおうスルガくんもいるので聞き間違いの可能性も捨てきれませんけど!!


「鶴岡くん! 強盗に襲われたんでしょ!?」

「無事だったの!?」


 やはりイエローボイスを投げかけられていたのは僕で間違いありませんでした!

 ビックリして引き戸の前で立ち止まる僕に向かって、教室中のクラスメイトというクラスメイトが一斉に集まってきたのです!

 

「すんごい銃撃戦があったんでしょ!?」

「弾、当たってないのか!?」

「怪我しなかったの!?」

「人質にされたって本当かよ!?」


 クラスで一番可愛いって大人気のサトザキさんとか、一番綺麗って大人気のシバタさんとか、サッカー部で大人気のメンデスくんとか、イケメンで大人気のナバタメくんとか、とにかくもうすごい数のクラスメイトに押し寄せられて、僕は正直、強盗さんに銃口を突きつけられた時の数倍は緊張して、おしっこ漏らす五秒前です!


「おいおい、そんないっぺんに質問攻めにしたらレオが可哀想だろ」


 アワアワして恐縮して動揺しまくってる僕の様子を見かねた様に、助け舟を出してくれる声!

 五厘刈の坊主頭がキュートで、制服のワイシャツの首元にいつもフライトゴーグルをぶら下げてるちょいイケメン!

 僕がクラスで唯一話すことができる、友達と呼べるオンリーワンな存在。桐谷(きりたに)海斗(かいと)君が、人混みをかき分けて僕の側まで駆けつけてくれたのです!

 

「ったく、お前ら。いつもはレオのことなんか見向きもしないくせに、ここぞとばかりに手のひらクルリしてんじゃねーよ」


 非難がましい声色で皆を威圧しつつ、通り道を確保してくれてる海斗くん!

 実際におっしゃる通りで、僕は六月にもなるこの日まで、ここで僕を囲んで囃し立ててる人気者さん達とは一言だって言葉を交わしたことすらないんです!


 海斗くんに先導されて、教室の窓際から三番目、前から四番目という何の特徴もない自分の席に辿り着き、ようやく僕は冷静さを取り戻せた気がします。

 息を吐きつつバックパックを下ろすと、背中がひんやりします。どうやらとんでもない量の汗をかいていたようです。

 とにかく席について落ち着こうとするんですが、


「ねぇねぇ、強盗って何人くらいいたの?」

「人質って、縛られたりしたのかよ?」

「どうやって助かったの!?」


 興奮冷めやらぬクラスメイト達に机の周りを囲まれてしまいました。

 相変わらずアワアワは止まりませんが、今度は僕の前の席に海斗くんがしっかりと陣取って、皆を牽制してくれてるので、そこまでのプレッシャーは感じません。


「えと、えと、あの、えぇと……」


 僕は一生懸命に声を絞り出して皆の質問に答えようとしますが、やはり慣れないことは難しいもので、上手く話すことができません。


「っわ、なんか可愛い!」

「えと、えと、だって!」


 僕のどもりを嘲笑うように、女子達から歓声が上がります。それが僕の滝汗を更に加速させるのですが。


「お前らなぁ、話しを聞きたいんなら、もっと落ち着いて話させてやれよな」


 呆れたように、手近にいたサトザキさんの腕を引っ張って引き剥がそうとしている海斗くん。

 普段なら羨ましいその行為ですが、今の僕はそうは思いませんでした。


 と、そんな時、黒板の上に備え付けられているスピーカーからチャイムが鳴り響きます。

 時間から察するにどうやら本鈴のようで、同時に小柄な壮年の男性、担任のタメガイ先生が入室して来ます。

 どうやらあまりの緊張と騒々しさで、予鈴にすら気が付かなかったみたいです。


「はいはい、皆さん。何を騒いでいるんですかー? もうチャイムは鳴ってますよー!」


 名簿を手で叩き、大声を張り上げながら教卓へと進むタメガイ先生に従って、クラスメイト達も蜘蛛の子を散らすように自分達の席へと戻っていきました。

 助かった。

 ゆっくりと息を吐き出した僕は、タメガイ先生と目が合います。

 パチリ! とウインクをして見せるタメガイ先生。

 どうやら僕の状況を察して、海斗くん同様に助け舟を出してくれたということみたいです。

 僕は小さく会釈を返しました。



 ショートホームルームが始まり、当然ですが、僕が強盗に遭遇した件にも触れられました。

 と言っても、しつこく問い質さないように、という注意喚起でしたが。

 正直、僕はこの時点で既にうんざりしていました。

 皆、僕の顔を見るや駆け寄って来て、まるで客寄せパンダみたいに囃し立てましたが、その中の誰一人として、僕が休んでいたこの二日間、連絡をくれた人はいませんでした。

 この二人以外は。


「話したくないことは話さなくていいんだぜ?」


 一人はもちろんこの人。

 軽く後ろを振り返りながら、そう声をかけてくれた海斗くん。


 そして、


 僕はおもむろに首を捻りました。


 窓際の列、一番後ろ。

 右手で頬杖を突いて、柔らかな午前の光に包まれる能楽町の街を眺める横顔。

 陽光を弾いて青く光る黒くて長いストレートの髪。

 白く透き通るような肌。

 同じく白い夏服のセーラー服から覗く細い腕。

 どうしてこの学校に入学したのかは分からないけれど、IQ百四十あると噂されている、学校一の秀才。

 絶世の美少女……とまではいかないけど、それでも神秘的な雰囲気を纏った女の子。

 韮崎(にらさき)さん。



 ーーータメガイ先生が注意してくれたにも関わらず、その後も僕に対しての好奇の視線は留まることを知りませんでした。

 業間休みの度に取り囲まれ、その度に海斗くんに助けられ、そうやって僕はようやく昼休みまで漕ぎ着けたのでした。


「レオ、今日も弁当か?」


 チャイムと同時に、目の前の席の海斗くんが振り返り、僕にお馴染みの確認を行ってきます。


「うん」

「なら今日は屋上行こうぜ。雨も降ってないし」


 蒸気機関の吐き出す雲のお陰で、とても雨の多いこの東京府。

 でも今朝は、韮崎さんの横顔を柔らかく照らす陽の光が差していて、そのまま昼になるまで晴れ間が覗いたままでした。


「う、うん」


 僕はもう一度、韮崎さんの方を振り返ります。

 韮崎さんは教科書を手提げバッグにしまうところでした。

 何度視線を送ろうとも、韮崎さんの視線は僕へと注がれることはありません。

 それどころか、誰とも視線を交わそうとせず、彼女の視線はいつだって教室の外か机の上だけに向けられています。

 それはまるで、クラスメイト達がひしめき合う教室の中にあって、彼女の周囲だけ見えない壁で隔絶された、不可視の小部屋の中に存在してるような、そんな印象さえ与えるのです。


 これまで一度も話したことないし、多分、目を合わせたこともなかった、ただのクラスメイトだったはず。

 

 僕に連絡をくれたもう一人は、そんな彼女だったのです。

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