絶対殺すガールズ=レオニダス 11-1
僕の感じていた違和感の正体が判明した瞬間でした。
どうしてかささぎさんは、VBさんのパンチをガードしたのか。
普段のかささぎさんの動きなら、あんな大振りのパンチ、避けられないはずはなかったのに。
かささぎさんであれば、パンチを避けてから腕に沿うように懐に潜り込んで、カウンターを仕掛けるであろうはずなのに。
どうしてわざわざ迎えたのか。
もっと言えば、どうしてVBさんは、あんなに大振りなパンチを放ったのか。
かささぎさんの動きを熟知しているVBさんであれば、あんな大振りなパンチは避けられてしまうと分かっていたはずなのに。
更に言えば、その後のキックだって。
かささぎさんは避けようと思えば避けられたはずなんです。
いくら手足を突いていたとしても、あんな大振りなキック、避けられたはずですし、VBさんだってそう思っていたはず。
「私にとって……お前はヒーローだから……。だから……犯罪者になんか……なって欲しくないんだ……」
かささぎさんが、苦しそうに吐き出したその言葉。
その言葉を聞いて、僕の全ての違和感が解消されたのです。
これは、儀式だったんですね。
二人の儀式だった。
VBさんは、かささぎさんが避けやすいように、わざと大振りの攻撃を仕掛けた。
そしてかささぎさんは、避けられるはずの攻撃をあえて受けた。
二人は、互いに思いやっていたんですね。
VBさん。あなたはかささぎさんが反撃しやすいように、自分を攻撃をしやすいように、きっかけを作ってあげたんですね。
かささぎさん。あなたはVBさんのその気持ちを汲んで、攻撃を行わずに受けたんですね。
互いに互いを思いやっていたからこそ、互いに互いの思いの逆をいったんですね。
お互いの思いをすんなりと受け入れられないからこそ。
「なに言ってる? 俺がお前さんのヒーローだって? どうかしてるぜ」
VBさんがかささぎさんの脚を手放します。
「そんなことはない。お前がいなければ、私はここまで成長することはできなかった。お前が私を育ててくれたんだ」
「勘違いだ。俺は何もしてねーよ」
「いいや。私は知っている。お前が、常に私を導いてくれていたことを」
「……勘違いだ」
「この間の若冲の事件だってそうだ。お前が私を指揮してくれなければ、私はすぐに死んでいた」
「……たまたまだ」
「その前の中東だってそうだ。お前は戦場で、いつだって私を指揮し、導いてくれていた。私が成長できるように、生き残れるように、いつだって的確な指揮をして、私を育ててくれた」
「……そんなことねー」
「その前だってそうだ! その前だって、その前だって、その前だって! 私が初めて大きなヤマに挑んだ時から、お前は私を導いてくれた。全てお前のお陰なんだ、今の私があるのは。だから! お前は私のヒーローなんだ!」
倒れ込み、腕で目を覆い、かささぎさんは声を張り上げます。
「そんなことねー。お前が強いのはお前の実力で、お前の持ってる素質そのものだ。俺は……なんもしちゃいねーよ。お前にそんな風に思ってもらう筋合いなんか、これっぽっちもありゃしねーんだ」
「何故だ!? 何故、私を捨てた!?」
突然の言葉。
僕の心臓は、一気にドクドクと波打ち始めます。
「あ?」
「初めてお前と戦場で出会ったあと、お前は私を次の戦場へと誘ってくれた。私は嬉しかった。またお前と戦場へ赴けることが。だが二度目の戦場のあと、お前が私を戦場へと誘ってくれることはもうなかった。どうしてだ? 私の何がいけなかった? 私は上手くやれていただろう?」
「上手くやれてたのは事実だ。一度目は確かにかなり不安定だったが、二度目で十分に独り立ちできるレベルに達したと判断した。だから俺はお前さんを……」
「捨てたと言うのか!?」
僕はようやくかささぎさんの言っていることの意味を理解しました。
……かささぎさん。戦場は、デートじゃありませんよ。
でもVBさん。
あなたは、本当にかささぎさんの為を想って、彼女を一人の戦士として育てようとしていたんですね。
かささぎさんは確かに変わった人です。
そのVBさんの気持ちを恋愛と結びつけてしまっていたのは誤算だったのかもしれませんが、でも、あなたがかささぎさんに手を差し伸べた、かささぎさんのヒーローだったというのは、事実なんです。
「悪いな、絶対の。俺はもう、お前のそんなワケわからねー感性に付き合ってやることはできねーよ。俺には俺の、大事なもんがあるんだ」
VBさんがロングコートの懐からリボルバーを取り出します。
「マシンガンじゃお前さんの綺麗な顔がグズグズになっちまうからな。せめて、綺麗なままで死なせてやる」
言いながら撃鉄を倒します。
「格好はつかねー。玉砕覚悟じゃーな。でもな、少しでも格好つけたかったんだ、俺は。それを変な横槍入れやがって、俺のプライドはズタボロだ。だから絶対の、お前はその責任を取って、死ね」
VBさんの指が引鉄にかかります。
手の甲の筋肉が動きます。
引く。
本気で引くつもりだ。
僕の目は、それを捉えます。
気が付いた時、僕は、目の前に転がっていたクロムシルバーのコルトガバメントを拾い上げていました。
ガァーン!!
そして、気が付いた時には、僕は、引鉄を引いていました。
思ったよりも更に重い指の感触。
思ったよりも更に重い反動。
思ったよりも更に濃い硝煙の臭い。
僕の目の前で、かささぎさんの傍らで、VBさんの大きな体が膝を突きます。
僕を見ていました。
とても怒ったような顔で。
すみません、VBさん。
僕は、こうするしか、なかったんです。
ドサリと倒れ伏すVBさん。
かささぎさんが苦しそうに上半身を持ち上げて、僕を見ています。
「潤」
そして短く、僕の名前を口にしました。
とても悲しそうな目で、僕を見て、僕の名を呼んで。
「お前」
ゆっくり、辛そうに起き上がると、ヨロヨロと僕の方へと歩み寄ってきます。
かなりの時間をかけて僕の前に辿り着き、かささぎさんは膝を折り、僕の肩に手を当てて顔を覗き込んできました。
その顔から、その声からは、色々な感情が伝わってきます。
悲しみ、怒り、喜び、それから、やはり悲しみ。
きっとかささぎさんも、どうしていいのか分からないんだと思います。
そして、やっとのことで振り絞った言葉。
「すまない……私は……お前に人を……」
その時でした。
「……ってぇな」
かささぎさんの背後から呻き声が聞こえてきたのです。
かささぎさんは勢いよく振り返ります。
それは、倒れたVBさんの発した呻き声だったのです。
それからやっぱり、かささぎさんは勢いよく僕へと向き直ってくれました。
「どういうことだ? お前、撃っただろう?」
だから僕は答えたのです。
かささぎさんに、彼女の大切なコルトガバメントを手渡しながら。
「はい、見て覚えました。峰打ちです」
かささぎさんは、勢いよく僕を抱きしめて、声を上げて泣いていました。




