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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第一話 連続コンビニ強盗、現る。
7/91

VB=ブッチャー 1-1

 ブッチャーがそれに遭遇したのは、目星をつけていたコンビニの巡回をしていた時だった。


 激しい発砲音が能楽町の街に響き渡る。


(よっしゃ! このブッチャー様の慧眼に狂いはなかったぜ!)


 喜び勇んでコンビニに駆け寄ると、店内ではガスマスクの男が二人、レジ台へと向かって銃を乱射している真っ最中であった。


(おお、やってるやってる! 流石にこの場に飛び込むのは無謀だな。裏手に回るか)


 コンビニは雑居ビルの一階だ。

 裏路地に入り込むと、すぐに裏口らしきドアが目に飛び込んでくる。

 半開きのドアが静かに揺れていた。

 その揺れが、少し前に誰かがここを通ったことを示唆している。

 幸いにもその隙間が銃声を漏らしていることが、このドアがコンビニへと続く道だとも示唆していた。


(さて、やるか)


 ブッチャーは一呼吸おくと、ロングコートの内側にぶら下げてある二丁のサブマシンガンを取り出す。

 勢いよく扉を蹴り開けると、そこはコンビニのバックヤード。

 カップ麺やらドリンクのストックが閑散と積み上げられている。

 素早くバックヤードをすり抜けると、店内へと繋がるスイングドアを蹴りつけた。


「手を挙げろ、連続コンビニ強盗団!」


 気を吐いて、店内に向かってサブマシンガンを構える。


 が、そこにあったのは、


 手を挙げたまま立ち尽くす高校生風の店員と、荒れ果てたコンビニの風景。

 それから、完全に気を失って倒れた強盗団達の姿だけだった。


「って、あれ?」


 ブッチャーは、とりあえず間抜けな声を上げることしかできなかった。



 ーーー激しく回転するいくつかの赤色灯が能楽町の夜を照らし出している。

 ブッチャーが強盗団を拿捕し、警察に連絡を入れてから数十分。

 ガサ入れに駆り出されていない所轄外のパトカーが到着するまでには、通常の倍の時間を要していた。


「ほい、まいど」


 手錠をかけられ、連結された強盗団がパトカーに押し込まれている様を背にし、ブッチャーは警官から差し出されたコードをクレバーホンでスキャンしつつ、ほくほくとした声色で礼を述べる。


「あんた、やっぱやるね。今月、もう二件目だろ? まだ三日しか経ってないってのに」


 コードから転送された警察機構の特設サイトからブッチャーの端末に、保険料やらその他諸々の控除が差し引かれた賞金が振り込まれる。

 完了アラートを確認し終えた後、クレホをスーツの内ポケットにしまいながら、ブッチャーは警官に向けてとびきりの笑顔を振りまいてやる。ッイー! ってやつを。


「忙しいうちが花だろ。むしろ、俺らなんかが忙しいクソみてーな世の中、お宅らが早く改善してくれっつー話しよ」


 これは耳が痛かったのか、警官も苦笑いで返すだけだった。


 

 本日の収穫を懐に納め、ブッチャーは足早に現場を後にし、路地裏へと滑り込んだ。

 どんなに目立とうと一応は賞金稼ぎ。

 どこでどんな犯罪者が彼の見てくれを覚えようと目を光らせているかは分からない。

 特に犯罪現場は、彼がVBだと特定できる格好のシチュエーションだ。


 能楽町の暗闇へと溶け込もうとしたその時だった。


「あ、あの!」


 背後からブッチャーを呼び止める声があった。


 ブッチャーは素直に足を止める。

 もしかしたら、彼に恨みを持つ犯罪者やその関係者だという可能性もなくはない。

 が、その声からは、そんな危険な気配は感じ取れなかった。


「なんだ?」


 振り返るとそこに立っていたのは、夜のネオンと遠くからの赤色灯に照らされた、先程の高校生らしきコンビニ店員だった。


 まぁ、特に特徴はない。

 中肉中背だし、顔つきだって至って平凡。髪は黒の短髪で、眼鏡やアクセサリーやらの特徴もなし。

 服装も黒い半袖Tシャツとデニムに黒いキャンバススニーカー。

 驚くほどに特徴のない、冴えない顔つきの少年だ。


「あ、あ、あの、あの、あの……」


 初めてブッチャーを目の前にして動揺しない方がどうかしている。


「なんだ? 聞いてやるぞ」


 勇気を振り絞って話しかけてきたのは分かる。

 それを無碍むげに扱うのも配慮に欠けるだろうと、ブッチャーは時間を作ってやることにした。


「あ、あ、あの! あの! さっきの強盗は……」


 礼を期待しているわけではない。

 とは言え、


「絶対殺すガールさんが、やっつけたんですよ!?」


 こうもあからさまに批判されるとは思わなかった。

 

「ああ、知ってるぞ。防犯カメラの映像で確認したからな」

「じゃあ! じゃあ! じゃあ、それは、警察に言うべきなんじゃないですか!? 賞金も、ガールさんが貰うべきなんじゃないですか!?」


 正義感の強い子供だ。

 ブッチャーは苦笑を浮かべる。


「お前さんの言わんとすることは分かるがな。だが、俺らグリプスは仲良しこよしのお友達ごっこじゃねぇんだ。賞金を頂くのは警察に突き出した奴。首を仕留めようが、拿捕もしねーで現場を離れたあいつの落ち度でしかねー。それにだ、あいつが荒らしたお宅の店に支払う賠償保険料は、賞金からきっちり天引かれてんだぜ? 関係ねー俺が肩代わりしてやってんのと変わらねぇってのに、文句まで言われる筋合いなんかねーってことなんだよ」

「で、でも、でも……」

「それに何よりだ。俺はあいつに何度も首をかっ攫われてんだ。それこそ両の指じゃ数え切れねぇくらいにな。その貸しの一つを返して貰ったに過ぎねぇわけで、俺はあいつに負い目なんざひとっ欠片も感じてねぇよ」


 ブッチャーの言葉は正論だ。

 弱肉強食は賞金稼ぎの世界では至極真っ当な価値観。

 社会にも出てない高校生に分かれという方が酷な話だろう。

 が、それでも、ブッチャーに臆しながらも意見を述べたこの少年に、彼は敬意を払ってやる事にした。


「だが、ま、お前さんの言うように、今日の稼ぎは奴のお陰だってのは事実だしな。次に会ったらビールの一杯でも奢ってやるとするか」


 その豪胆な見てくれからは想像もつかないくらい美しい歯並びの前歯を光らせながら、大男は笑って見せた。


「それからついでに、てめーを庇ってきたわけ分からんガキがいたってのも伝えといてやるよ」


 少年は真っ直ぐにブッチャーを見つめている。

 何かを言いたいのは分かる。

 ブッチャーは、あえて間を取ってやった。


「あの、あなたは、ガールさんに会えるんですか?」

「いや? すぐ会うかもしれねーし、二度と会わねーかもしれねー。全ては時の運だ。お互いいつ死ぬかも分からねー世界で生きてるんだからな」

「ぼぼ、ぼ、僕も、会えますか?」


 なるほど。

 ブッチャーは吹き出したくなる気持ちを抑え、くるりと踵を返す。


「やめとけやめとけ。グリプスなんざ、まともな神経の人間のやる仕事じゃねー」


 顔は見なかった。

 だが、背中から伝わってくる。


 また一人、この掃き溜めみてーな世の中に、一匹の鷲獅子(グリプス)が生まれ落ちようとしているのが。

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