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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第一話 連続コンビニ強盗、現る。
5/91

絶対殺すガール=かささぎ 1-2

 ーーーそうこうしているうちに、目の前には今夜強盗のターゲットとなるであろうコンビニが現れていた。


『とりあえずそこで待ちたいところなんだけど、かーちゃん。トイレにでも隠れておいて』


 唐突な指示ではあるが、かささぎは冷淡に聞き返す。


「その心は?」

『とりあえず外で張ってたらVBに見付かった時に面倒なのと、かーちゃんみたいに目立つ人がその辺に立ってたら強盗にも気付かれちゃうでしょ?』

「平気だ。首は私の顔なんか知らない」

『いやいやいや、かーちゃん。自覚ないかもしんないけど、絶対殺すガールの噂は思いの外に浸透してるよ? 賞金首ならどんな三流でも八割方は知ってるでしょ』

「お前が下らん名で許可証を取るからだ」

『いや、だって。複数名のグループの場合はグループ名も提出しろなんて言われると思わなかったから。咄嗟に考えたインパクトのある言葉を組み合わせたらそうなったんだもん。仕方ないじゃん?』

「だとしても、アライブ(生存のみ)が報奨獲得条件である賞金稼ぎの名が殺すだとか、趣旨を理解してるとは思えない」

『とにかく! さっさとトイレに隠れる!』


 急に大声を出されてかなり神経に障ったが、かささぎは大人しくコンビニへと入店して行った。


「いらっしゃいませ!」


 入店して早々、レジ中に立っていた冴えなそうな小僧の店員さんが挨拶をしてくる。

 見たところ高校生バイトのようだが、うむ。よく教育されてるな。

 その奥には眼鏡でおかっぱ頭で太っちょな三十路を回ったと思しき男がやる気なさそうにインディビジュアルコンピューターを食い入るように見入っている。

 あっちが上司か。

 やる気はなさげだが教育だけは上手いらしいな。感心だ。

 好青年からの挨拶を踏みにじるかのごとく無視しながら、かささぎは雑誌コーナーの前を通り過ぎ、ドリンクコーナーの奥にあるトイレへと直行していく。


『カメラの設置忘れずにね』


 ウイに釘を刺され、思い出すかささぎ。

 懐から小分けのソフトキャンディ程度の大きさのカメラを取り出すと、歩を緩めずにトイレへ繋がる通路の入口の壁に貼り付ける。

 女性用の個室トイレに滑り込むと、便器の蓋の上に腰かけ、どっかりと膝を組んだ。


『はい。かーちゃんのクレバーホンに映像繋いどいたから』


 ウイの言葉通りに、小型のディスプレイにコンビニ店内の様子が映し出される。

 時刻は二十二時半。

 

『さてさて、そろそろ出没すると思われるんだけど。首は五人。リーダーの首が百万モン、手下達がそれぞれ五十万モン。トータルバウンティ三百万モン。まぁ二等分したら大した額でもなくなっちゃうけど、小遣い稼ぎくらいにはおあつらえ向きだよね』


 ウイの声が途絶えた直後だ。


「おい、客は全員外に出ろ!」


 店内から怒鳴り声が響いてくる。


『お? 予定通りにお出ましだね? 時刻はぴったり。犯行グループも五人。ウイ様二ポイント獲得ぅー』 


 ウイ側にも店内映像は繋がってるのはいつものことだ。


『きっと二人が外で見張り。残った三人が実行だね。うんうん、偉いぞ。しっかりうちの言う通りに動いてくれてるね』


 まるで手下かという物言いだが、ことごとく予測通りの動きにご満悦なんだろう。

 聞き流しながらかささぎはディスプレイに映り込む店内の様子を注視する。

 数人いた客を追い払うと、他にも残留者がいるかを確認し始めているようだ。

 足早にこちらに向かって歩いてくるのが見える。


「おい、トイレに誰かいるぞ」


 そんな声と共に引き戸がガタガタと音を立てている。


「おい! 誰か入ってんのか!? おい! 出てこい!」


 どうあっても開けるつもりらしい。ドアはいよいよ壊れるほどに揺れ始める。


「銃よこせ。こじ開けるぞ」


 ドアの向こうからそんな声が聞こえてくる。

 かささぎはゆっくりと立ち上がるとドアへと向き直り、全力でドアを蹴り付けた。


『宜しく、かーちゃん!』



 ガゴンッ!!



 ド派手な破砕音と共に弾け飛ぶ金属扉。所詮は引き戸だ。いとも容易く外れると、外で構えていたであろう強盗を押し潰す。


『すっごーい。ドアに靴跡ついてるよ。しかもめちゃくちゃ凹んで』


 通路に出ると店内の様子を改めて確認する。

 レジ前にはガスマスクの強盗がさっきの高校生に銃を突きつけている。

 手前にはもう一人の強盗。

 かささぎが現れたことに相当驚いてるらしく、小刻みな震えが見て取れる。


「な、なんだ!? てめー!?」


 が、どうやら勇気を振り絞れたようで、すぐにかささぎに向かって殴りかかってくる。

 随分とスローな動きだ。

 かささぎは飛んできた拳を上体を揺らしただけで避け、手首を掴むとグイッと引っ張る。

 ただでさえ勢いよく殴りかかってきたのに手首まで引っ張られ、強盗はロケットみたいに雑誌ラックに突き刺さっていく。


『わー、痛そう』


 二人の強盗を片付けると、かささぎは真っ直ぐにレジへと向かって突き進んでいく。


『ちょっとちょっと。あまり強引なことしないでね? 人質は無事に救出しないと、賞金はパーだからね』


 あまりの出来事に固まっていると思われる強盗と高校生の前まで歩み寄ると、かささぎは手早くレジ横のピロロチョコをつまみ上げると、そっとレジへと差し出す。


『おお! 虚を突く作戦!? 確かに唖然とするわ』


 突拍子もないかささぎの行動に、強盗は攻撃もせずに話し掛けてくる。


「おい、ねーちゃん。今がどんな状況か分からねーことなんかねぇだろ? しかも明らかに異常な登場しやがって。てめぇ、何者だ?」


 ご丁寧にコインケースまで取り出したかささぎの作戦はひとまず成功と言えた。

 少なくともかささぎは自身の間合いに侵入できたのだ。


『えーと、声紋からこの強盗の素性を調べたよ。こいつはゲイリー・トラビス。元イズランド義勇軍所属のテロリスト。っても、目立った活動歴もないし、多分ただの下っ端で終わったタイプみたいだね』


 それはまさに瞬殺の仕事っぷりと言えた。

 一言喋っただけの声を広い、瞬間的に国際警察機構の犯罪者データバンクにアクセス。たったの数秒で声紋照合までこぎつけたのだ。

 

「………! ………!」


 その間、ゲイリー・トラビスがかささぎに向かって何かを言っているようではあるが、かささぎはウイとの通信に神経を傾けている。


『とは言え、一応はきちんとした射撃訓練や戦闘訓練は受けていたと思われるから、油断は禁物だよ』


 ウイの忠告などは釈迦に説法、河童に水練でしかない。が、かささぎはその辺も聞いてはいない。そういう特技と言える。

 

「マジかよ、ガールなんて名乗ってるもんだから、俺はまたティーンエイジャーの悪ふざけだとばかり思っていたが、ガールにしちゃ随分と年増じゃねぇか」


 そんなかささぎの耳にゲイリーの下卑た声が飛び込んでくる。


『わ、ひどーい。確かにかーちゃんはガールには見えないけど、まだ二十四歳だよね? 年増は言い過ぎじゃないの?』


 二十四だったか? 

 かささぎの頭の中は年齢のことでいっぱいになった。それは年増と言われたことへの怒りなどではなく、正確に、明確に、彼女は今この瞬間、自身の年齢を忘れていたのだ。


「………! ………!」


 その間もゲイリーは何かしらの言葉を発し続けているが、相変わらずかささぎの注意は年齢の計算に削がれたまま。


『あ、こいつ! 悪名Sランクはまぁ称号みたいなものだからいいとしても、実力Cランクは聞き捨てならないな! ね、かーちゃん! こいつに絶対殺すガールの超弩級の実力、見せ付けてやってよね!』

 

 一気に耳元がギャーギャー騒がしくなった気がするが、かささぎの集中は削がれない。

 確か、大学を卒業したのが二年前だから、数えれば確かにそうだ。そうかもしれない。


 しかし、それでも状況は刻一刻と変化している。


「おい! なんとか言えよ!」


 遂に業を煮やしたゲイリーが声を荒げた。

 同時に殺気が大きく膨らむのが分かる。


 

 それがトリガーとなった。

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