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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第七話 フードコートの激闘
43/91

VB=ブッチャー 7-1

「よっしゃ。とりあえず俺が囮になるから、絶対の、お前さんは後方からのんびりとじゅんに様子を見せとけ」


 下りエスカレーターと上りエスカレーターは通路を挟んで離れて設置されている。

 こういったショッピングセンターにはよくある、回遊を促すための客導線の取り方だ。

 つまり現在いる二階の通路は、吹き抜けをぐるりと取り囲んだ踊り場的な造りをしていると言える。

 VBが吹き抜けを取り囲む通路を一回りしつつ、上階へと向かって威嚇射撃を行い、その反撃で斉射される弾道を潤が確認する。という流れだった。


 パララララ! パパラ! パパララ!


 サブマシンガンの軽い発砲音を響かせ、VBが駆ける。

 大柄な図体の割には随分と俊敏だ。

 彼の身体能力は、プロアメフト選手にも引けを取らない。その気になれば彼よりも随分と小柄なかささぎと遜色のない動きすら披露する。

 吹き抜けを挟んで向かいにあたる三階通路に向けて発砲すると、それに呼応するように自動小銃が姿を現す。


 タン! タン! タン!


 その数、三本。

 走って移動しながら威嚇射撃を続けるが、数が増える気配もない。


(囮だってのはバレてるか)


 着弾を避けるように蛇行しながら走るVBは、内心で笑みを浮かべている。


(少しは本気だって見せねーと、乗ってこねーか?)


 踊り場を一周して戻ってきたところで、雑貨屋からかささぎが抜け出してくるのが見える。嫌がる渡名喜となき巡査長の足首を掴んで引き摺りながら。


「おい、お前さん、なんで出て来るんだよ?」

「小僧が遠くて弾が見えないと言うからだ。それに、お前一人じゃ囮にもならないだろう」


 図星を突かれ、吹き出すVB。


「ったく、ご安全にゃ程遠い現場だな、本当によ。だが、お前さんは俺の後ろに控えろよ。当たるんじゃねーぞ」

「ああ。私は痛いのは好きじゃない」


 この女の返答はいつだって少しズレている。そのうち本気で口説いてみるか。

 VBは背後にかささぎを控えさせ、再度、威嚇射撃を実行する。


 が、しかし、結果は先程とさほど変わらなかった。


「敵はこっちが三人だってのを分かってるからな。三人が雁首揃えなきゃ、本気で相手するつもりもねーか」

「おい、レッドワン、立て。お前も射撃に参加しろ」


 仁王立ちで両腕にサブマシンガンを構えるVBの背後で、かささぎの冷淡な声が聞こえる。

 確かに渡名喜に参加を促すのが妥当ではあるが、あまりにもストレートな物言いだ。


「無理っす」


 返ってきたのは予想通りに臆病風に吹かれた答え。


「ならそこで死ね」


 無下もなし。

 と言うか、説得する気なし。

 この女に交渉など任せるものではないのは分かっていたが、まぁ自主性に任せた結果だから仕方ない。


「レッドワンよぉ……」


 今度はVBが口を開いた。

 以下は渡名喜の心の声である。


(そうだ。こっちのバカ女は話すに値しないからな。でも、このアフロならきっと、俺を鼓舞してくれるはずだ。俺の助けが必要だと、そう言ってくれるはず。だって、さっきのモニターの向こうの訳の分からないガキにも、優しく話しかけてたしな。あんなよく分からない素人のガキに頼むなんて言ってやれるこいつなら、きっと俺の機嫌を取ってくれるはずなんだ。俺を讃えてくれて、俺の気持ちを汲んでくれて、俺の気分を高揚させてくれて、そして、俺にやる気を出させてくれるはずなんだ。ちくしょー。早く言ってくれ! 俺のご機嫌を伺って、俺が必要だと言ってくれよ!! 俺を! 俺を甘やかしてくれ!!)


「てめー、自分のご機嫌くれーはてめーで取れ。さっさと戦線に戻らねーなら、さっきの筋肉団子みてーに盾代わりにするぞ。バカ野郎が」

「なんでだよ!!??」


 即座に立ち上がって自動小銃を構える渡名喜。

 VBは、こういった意味でも百戦錬磨の手練だった。



 ーーーレッドチームの三人が立つ。

 手近なギャルブランドのテナントから引っ張り出してきた鋼鉄製のテーブル什器をバリケードとし、VBを中心に、渡名喜巡査長を脇に従え、かささぎを後方に控えさせ。

 それが敵の全戦力であると、テロリスト側は理解している。

 一斉射撃が開始された。

 降り注ぐ弾雨が、テーブル什器に打ち付けられる。


「いいか? 三階とこの二階のギャップを計算しろ。絶対に弾が届かないセーフティーラインってもんが、必ず存在する。そこを見極めろ。撃つ時はそこから一歩だけ踏み込め。撃ち終わえたら直ぐに退け。それが長生きのコツだ」


 テーブル什器からサブマシンガンだけを覗かせ、威嚇射撃を行いつつ、VBが傍らで懸命に射撃を行う渡名喜に語りかける。


「は!? なんか言ったっすか!? 全然聞こえないんすけど!」


 鋼鉄にぶつかる銃弾の激突音が、その全てをかき消している。

 渡名喜の言葉通り、彼には全く伝わっていないようだ。


「その意気だ。そのラインを守れよ」


 だがしかし、渡名喜はそのラインを確実に守っている。

 恐らくは本能的な危機察知能力か。

 なかなか良い勘をしている。

 こっちに付けられた理由も納得のいくものだ。


「オラオラ! この期に及んでもうビビらねーぞ! お前ら全員、この俺が蜂の巣にしてやんよ!!」


 更には完全に吹っ切れた様子で、自動小銃を連発し続けている。

 肝の座り方も良いものを持っている。

 VBは一人、口角を上げると、中腰で立ち上がった。


「ここは任せる。俺は全容を暴くためにもう一度走る。絶対の。着いてこられるか?」


 ガァン!!


 その瞬間、VBの直径五十センチアフロヘアーの中を、銃弾が通り抜ける。

 背後から。

 放ったのはかささぎ。

 愚問だぞ。とでも言いたかったのだろう、そんな鋭い眼光で。


「お前さんな、俺のアフロが本物だからいいものの、もしこの中身が実物の頭蓋骨だったらどうすんだ?」


 VBを置き去りに、かささぎは駆け出した。



 ーーー二周目の囮作戦が終了し、VBとかささぎは元いたエスカレーターホール状のスペースへと帰還する。


『ありがとう、かーちゃん。これで敵の数はほぼ正確に割り出すことができたよ。そこには今、十五人が固まってる』

「十五か。いいだろう」


 かささぎのコルト・ガバメントの装弾数は八。その数なら、一回の装填で全員を撃ち抜ける。


『で、なんだけど……』


 言いにくそうにするウイだが、その言葉を遮ったのはVBだった。


「っふ!!」


 息を吐く音を漏らしただけで、アフロの巨漢はバリケードに使っていた鋼鉄のテーブルを放り投げる。

 まるでフリスビーのように空を切る、八十キロを超える重量のテーブルは、エスカレーターの手すりに足を引っ掛けて着地する。

 

「何秒耐える?」


 かささぎがウイ問いかける。

 数は割れた。

 残るはその正確な位置情報。

 それさえ割り出せれば、かささぎならば狙撃が可能となる。


『ご、五秒?』

「いいだろう」


 言うと同時にVBが上空に向かって威嚇射撃を行う。

 その隙にかささぎは床を蹴り、テーブルとエスカレーターの隙間に滑り込み、それに続いてVBも滑り込む。

 いくら巨大とは言え、所詮はテーブルの下だ。

 VBが仰向けに寝転がり、テーブルの脇からサブマシンガンの射撃を続け、そのVBの腹の上に同じように寝転がるかささぎ。

 素早くコンタクトレンズ状のカメラを眼球から外すと、指先に乗せてそっとテーブルの外に覗かせる。

 頭上のテーブルからは凄まじい打突音が繰り返され、徐々に鉄板にも凹凸が多くなっていく。

 だがまだマシだ。

 テーブルの外は銃弾の嵐が吹き荒れているのだから。


「どうだ?」

『OK!! 今、送ったよ!!』


 ウイの声から一拍遅れで、かささぎのクレホの画面が切り替わる。

 その画面に映し出されたのは、三階通路の俯瞰図と、そこに点滅する十五個の小さな光だった。


「上出来だ。ブッチャー、援護しろ」

「あいよ」


 かささぎの呼び掛けと共にVBは女を押し退けると、両手のサブマシンガンを全力で乱射する。

 それを回避するように、上階からの射撃が一瞬だけ止まった。


 かささぎはテーブルから転がり出ると、二丁拳銃の引鉄を引いた。

 その数、十五回。

 響き渡る銃声と共に、弾き出された弾丸は三階の天井へと向かって突き進む。



 そして天井に反射して折り返した十五発の弾丸は、三階通路へと降り注いだ。

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