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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第六話 荒野を切り拓け
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絶対殺すガール=かささぎ 6-2

 ショッピングセンター特有の広い空間。天井も高いし、通路の幅も広い。

 かささぎは壁に背を預けて膝を突きながら、広大な空間の様子を伺った。

 三階まで吹き抜けの通路の両端に、高さ五メートルほどの間隔で二階と三階の通路がせり出して見える。それぞれ通路幅は約三メートルと言ったところか。吹き抜けの幅は実に十メートル近く。その幅が、今いるこの一階通路の幅となる。

 目指すエスカレーターは現在かささぎが身を潜めている入口通路の目の前にはあるものの、一階通路の反対側に位置する。

 あそこまで移動するには、障害物のまるでない通路を横断する必要がある。一応はエスカレーターの前にはテロリストが作成したバリケードが設置されているのだが、それはあくまで入口から侵入する警察と交戦するためのもの。上空からの攻撃に抵抗する能力は皆無と言える。


「何が『他に比べれば危険性自体が低いルートとも言える』だよ。まるで撃ってくれと言わんばかりじゃねーか」


 かささぎの背後から、太い声が発せられる。気配で感じてはいたが、かささぎにピッタリと追走していたVBが、彼女の真後ろにつけていた。


「問題はここの真上だ」


 開けた空間だからこそ、少なくとも向かい側の二階通路に敵が潜んでいないことは容易に確認が取れる。かささぎの談の通り、死角は頭上である。


「お前さんの相方なら見られるんじゃねーのか?」

「無理だな。詳細は分からんが、あいつは今、片手落ちの状態だ。恐らくは私の視界に入る範囲しか分析は利かないだろうな」

「なるほどな。なら、強硬策か」


 強硬策とは無論、囮を用いた陽動作戦だ。一名が弾幕を張りつつ牽制を行い、その隙を突いて残りのメンバーがエスカレーターの裏まで到達する。


「どっちがいく?」

「そりゃ俺だろう。そのためのマシンガンだ」


 一瞬にして策が決まったところで、VBの傍らに警官が滑り込んでくる。


「貴様ら! チームリーダーはこの俺だ! 勝手な行動は慎め!」


 声を殺しながらも怒鳴り散らしたのは、アルファチームのリーダーであるマグワイヤ警部だ。


「おい、なんであんたがこっちにいるんだ? あんたはあっちだろうが」


 VBが顎で示した先、入口通路の逆側の壁際には、三名の警官がこちらと同様に身を潜めているのが見える。

 アルファチームの基本編成はスリーマンセルのスリーピース。かささぎとVBはチームのサブリーダーである警官の傘下に編入されており、マグワイヤ警部は別働隊であるはずなのだ。


「貴様らが勝手な行動を取るから、急遽編成を組み直したのだ! 貴様らの指揮は直接俺が取る! もう二度と身勝手な行動は許さんぞ!」


 かなりのお冠な様子で、大声こそ出さぬよう必死に抑えてはいるようだが、口調は非常に激しい。


「お前らの判断は鈍いんだ」


 が、かささぎはつまらなげに言い放つだけだ。


「君らの冠位クラスが高いのは承知しているし、グリプス(賞金稼ぎ)としての実力が高いのも重々承知している。しかしだ、これは君らがいつも行っている個人活動とは違うのだ。我々は今、チームで活動している。それは確かに、君らから見れば判断の遅い場面も目立つことだろう。だが、俺はチーム全体の安全を考慮しなければならない。それには君らの安全も含まれている。上は君らのことを単なる駒としてしか見ていないのだろうが、俺個人の意見は違う。俺は君らの実力を当てにしているし、協力し合うのであればこそ、君らにも無事に生還してもらいたいと思っている」


 が、挑発にも等しいかささぎの指摘に対して返されたのは、思いもよらない言葉だった。


「残念だが、君らと俺の部下達ではレベルが違う。君らに着いていくにはあまりにも経験が足らなすぎる。チーム内の実力の乖離かいりはそのままチーム力の低下に結び付く。情けない話だが、君らに我々のレベルに合わせてもらうことはできないだろうか? それが、チーム全体の能力向上に、ひいては君らの仕事の成果にも繋がるはずだ」


 マグワイヤ警部の意見が終わるや否や、VBは小さく口笛を吹いてからかささぎに問いかけた。


「だそうだが、どうするよ? 絶対の。少なくともこの警部さんだけは、俺やお前さんとタメを張れるようだぜ?」


 振り返りもせず、広大な通路を眺めたままのかささぎ。だが、その物言わぬかささぎを待つかのように、もはや口を開く者は誰一人としていない。

 あまりにも長い沈黙に耐えかねたのは、意外にも白黒頭の女グリプスの方だった。

 首を戻し、通路の向こう側で待機する警察官達を見やると、その視線を待っていたらしく、かささぎに向かって深く頷いて見せる。それは、入口付近で後方支援のために待機する、もう一つのチームも同様だった。

 

「分かった。いいだろう」


 その返答に一瞬だけ安堵した様子を醸し出すマグワイヤ警部だったが、すぐに気を引き締め直したらしい。


「協力、感謝する。では再度、指揮系統を立て直す。その前にまずは君らの意見を聞いておこう。この後、どうするつもりだった?」


 その質問にはVBが答える。


「陽動だ。俺が囮になって通路から二階の敵さんと撃ち合うから、その間に他のメンツはエスカレーターへ向かう。ってのはどうだ?」


 どうやら予想の範囲内だったらしく、マグワイヤ警部は即座に意見を返してくる。

 

「概ねは賛成だ。だが囮役は我々機動隊員から務めよう」

「その心は?」

「君らに許されてるのはあくまで生け捕り(アライブ)オンリーだ。ダブルマシンガンのヴァイオレット・ブッチャーでは、囮どころか敵を殲滅しかねないだろう?」

「はっ。まぁな。こっちが撃たれねーためにゃ、是非もなしとは思ってたとこだ」

「やはりな。我々機動隊員であれば、対象の射殺は許可されている。多少の無茶も利かせられようぞ」

「うむ。良きに計らえ」


 VBとマグワイヤ警部の短いミーティングに聞き耳を立てていたかささぎが振り返る。


「お前ら、なんでいきなり戦国武将ごっこを始めたんだ?」



 ーーーマグワイヤ警部が中腰で通路を横切り、後方で待機するチームに併合すると、代わりに一人の警官がこちらへと走ってきた。


「ども。本来、あなた方とチームを組む予定だった、渡名喜となき巡査長っす」


 VBやマグワイヤと違い、かなり細身な男。見栄えは武装やバラクラバという目出し帽のせいで確認できないが、声からしても割と若いだろう。かささぎとほとんど変わらないと思われる。


「一応はこれでも何度か対テロリスト作戦には携わってるんで、せいぜい足でまといにならないよう頑張りますよ」


 随分と軽いノリだが、マグワイヤが二人に付けたということは、それだけ芽がある人材なのだろう。

 かささぎは特に何も思わないが、顔付きからしてVBは意気に感じているらしく、この辺は既にマグワイヤの術中ということか。などと、かささぎが呆れている時だ。

 防弾ベストに取り付けられた、作戦用無線から伸びるイヤホンが音を立てる。

 

『手はず通りにまずはブルーチームが通路で囮となる。グリプス率いるレッドチームは前進。後方の我々グリーンチームはブルーの援護をしつつ、レッドに続く』

『ブルー、了解』


 一瞬の沈黙。


『レッド、聞こえたか?』


 マグワイヤが問いかけてくる。

 かささぎは視線だけでVBを見やるが、VBは親指を立て、後ろを示すジェスチャーをしているのみ。


「え? もしかして、俺っすか?」


 VBに指を差された渡名喜は間の抜けた返事を寄越している。


「当たり前だろ。正規隊員はお前さんだけだ。頼りにしてるぞ? レッドワン」


 チームリーダーに与えられるナンバーを呼ばれ、満更でもないのだろう。渡名喜は鼻息荒く、インカムに声をかけた。


『レッド、了解!』


 同時に、通路に向かって小さな缶が放り投げられた。

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