失意の男子高生=レオニダス 5-1
あー……どうも、こんにちは。
僕は鶴岡・レオニダス・潤。東京府立能楽町高校に通う一年生。 ピッチピチの十五歳、花の男子高生です。
えー、僕は今ですね、学校の夏期講習に通ってます。
夏期講習って本来は成績の良い生徒達が、将来の大学進学を見据えてちょっと難しい授業を受けるやつで、僕みたいな成績オール中庸な凡庸凡人は受ける必要もないものなんですけどね。
「へぇ、マジかよ。そりゃ不思議なこともあったもんだな」
平常時の登校と全く変わらず、屋上のビーチセットの下で炒飯おにぎりを頬張りながら相槌を打つのは、相変わらず綺麗に刈り上げた坊主頭の桐谷海斗くん。
コンビニは強盗事件以来、バイトするのは危険だってお父さんとお母さんに言われて辞めちゃって、特にやることもないですし、何よりも僕はこの唯一と呼べる親友と会って話をするためだけに、この夏期講習を受講することにしたのです。
海斗くん、僕とは違って成績は上の下くらいに入る秀才で、二年後の大学受験もちゃんと考えてるしっかり者なので。
「おかしいよね。あの時はオーシャンズネットの使用許可、すんなり降りたのに。次に行ったらけんもほろろだなんて」
あの時とは勿論、初めて絶対殺すガールさんのことを調べるためにオーシャンズネットを使用しに府立図書館へ行った、あの時のことです。
「まぁ、今思えば、単なる学生証でオーシャンズネットを使えるってこと自体、おかしいっちゃおかしかったからなぁ。とは言え、前回と今回とどっちがおかしかったのか。次にまた行けば分かるけどな。で、お前、なんでまた? こないだの巨大たんぽぽさんの件で、賞金稼ぎは諦めたんじゃないのか?」
僕はVBさんのアシスタント審査を受けた時のこと、洗いざらい綺麗さっぱり、全てを海斗くんに話していました。
だってリンダさんにアシスタントの仕事を紹介してもらったその場には、海斗くんも居合わせていたんですから。言わないとおかしくなっちゃいますし、むしろ言わないと僕の気持ちも収まらないですし。
「うん……そうなんだけど……」
ーーー実は、六月十日の翌日。十一日の朝のことでした。
新聞の小さな事件を扱う記事欄に、国貞区で起きた殺人事件のことが書かれていたんです。
本当に小さな記事で、被害者の名前とかは全然載ってないし、でも殺されたのは十代の少年で、その遺体の傍らには同じく十代の少女の自殺死体が横たわっていて……恐らくは痴情のもつれによる無理心中ではないかと書かれてました。
僕にはその記事が、近江レンとヨー君を想起させて仕方がなかったのです。
とは言え、どんなにラグーンネットを漁ってみたものの、やはり概要以上の情報はまるで皆無。恐らくは情報統制が敷かれているようで、となるとやはり賞金首絡みの事件であったことは容易に想像できる訳で。
僕はオーシャンズネットを閲覧するために、今一度、府立図書館を訪れたのですが……
「オーシャンズネットの閲覧は一般的には規制されております。申し訳ございませんが、お引き取りを」
という感じで追い払われてしまいまして。
「あの、前回は見せてもらえたんですけど……」
なんて食い下がりましたが、
「前回は前回です」
という真っ当な正論で押し通されてしまいました。
ーーー
「ふーん、そうか。確かに、そんな胸騒ぎがするってんなら、やっぱり知りたくもなるよな。なぁ、その女の子、そんな可愛かったのか?」
炒飯おにぎりを頬張ったまま、お行儀悪く問いかけてくる海斗くん。その内容もまた、とてもお行儀が悪いと言えますね。
「そういうんじゃないから! てか不謹慎!」
体温が数度は上がった感じがして、僕は思いきり言い返します。
だってそうでしょう! もしかしたら亡くなってしまったかもって話してるのに、可愛かったか? なんて、不真面目かつ罰当たりにもほどがあります。
「そんな怒るなって。まぁ、さ。お前、そのブラック・ダンデライオンにも言われたんだろ? ハニートラップ引っかかりやすいかもって。お前には可哀想だけど、話しを聞いてる限り、その人はお前のそういうとこを心配してたってことだからなぁ」
ダンデライオン。
確かにVBさんのシルエットはライオンみたいでしたけど……。
「それは……言わないでよ。僕だってちょっとは気にしてるんだから……」
「いいや。もっと気にしろ。それ、かなり切実な弱点なんだから」
くっ! 突っ込んできますね、海斗くんは。必死に気にしないように努力してるのに、むしろ気にしろとは。
「そんなこと言っても、僕、女の子とちゃんと話したことなんかないし」
そうなんです。実は僕、生まれてこのかた、まともに口を効いたことある女性なんて、お母さんと、子どもの頃隣に住んでたお姉さんと、この間の韮崎さんとリンダさんくらいしかないんですから。
「そうだな。韮崎とも絶対さんとも、お前ほとんど片言でしか言葉を喋れてなかったもんな」
「っえ!? 僕、そんなちゃんと話せてなかった!?」
「は? 逆にお前、ちゃんと話せてたと思ってんの? そりゃーもう、捕まりたての宇宙人並に片言だったぞ」
てことは、僕の会話経験はお母さんと隣のお姉さんのみに削られてしまったってことですね。
嗚呼、なんてことだ。
僕は心中も実際も同じくらいに白目を剥いてしまいました。
「だからさ、まずはそっから始めたらいいと、俺は思うんだよな」
炒飯おにぎりを食らいつくし、次の炒飯おにぎりの包装を破りつつ……てかどんだけ炒飯おにぎり好きなんだよ……海斗くんは僕に向かって片目を瞑って見せてます。
「そっからって、じゃあ具体的には何するのさ?」
賞金稼ぎになるためにまずは女の子と仲良くなる練習とか、もはやまともな考え方とは思えません。し、どうせそのアイディアだってろくなもんじゃないでしょうよ。
「そうだなぁ。ここは天下の能楽町な訳で」
あー、やっぱりろくなもんじゃないでしょうね。
「キャバクラとか」
「高校生だから! 中学生に見えるかもしんないけど、僕まだ高校生だから!」
「はっはっは、おいお前レオ! ボケツッコミなんて卑怯だぞ! 高校生はダメで中学生ならいいキャバクラってなんだよ!」
「うるさいよ! ボケの解説なんか求めてないよ!」
もうダメだ。この坊主頭、本気でただ楽しんでるだけだ。全然やる気ないし、真面目に考えてないや。
僕はもうもう本気で賞金稼ぎになる夢は諦めるしかないかと思い始めていました。
「つーのは冗談で、だ。まぁ、アシスタントがダメなら自力で試験に受かるしかない訳だよな。んで、同時に女に対しての免疫を付ける方法をとればいいだけだって」
炒飯おにぎりをお茶で流し込んだ後で、海斗くんはもう一度片目を瞑って見せます。
今度はニヤニヤした、人を食ったような表情ではありません。
どうやら冗談はここまでで、本当はちゃんと真面目に考えがあったみたいです。
「い、一応聞くけど、何? そんな都合のいい方法って」
僕の問いかけに、海斗くんは無言で指差したのです。
その先には、屋上の柵から垣間見える、陽炎立つ校門。
「遠くの月より近くの花。だぜ!」
そこから校庭に入ってくる、韮崎さんの姿だったのです。




